『POSSE』34号では「ポスト電通事件の過労死対策」と題して、近年の過労死対策について特集を組みました。2015年の電通過労死事件は社会的に大きな話題を呼び、長時間労働への対策は政治においても重要な課題となっています。電通事件を受けて、政治空間や現場ではどのような対策が進められているのでしょうか。
2015年には、違法な長時間労働が顕著に見受けられる場合に企業名を公表する制度がスタートしました。この制度はブラック企業対策として位置づけられている一方、公表基準が企業にとって甘いことなど、当初から不備が指摘されていた面もあります。このような問題があることから、2016年にはより厳格なブラック企業対策を見込んで、新たな企業名公表制度がスタートしました。「電通事件後、労働基準監督行政はどう変わったのか」では、現役労働基準監督官の方々をお招きして、新しく定められたこの制度について議論しています。
長時間労働抑制の意味では、「働き方改革」のなかでも、36協定の上限規制が課題として挙げられました。長時間労働を是正する意味では、労働時間の法的規制が不可欠です。しかしその一方、労働時間が正しく把握されていなければ、どれほど厳しい規制が敷かれていても長時間労働は防げません。「36協定の上限規制だけでなく労働時間の適正把握を」では、このような法的規制の背景にある労働時間把握の問題について、松丸正弁護士にうかがっています。
求人票の労働条件が実態と異なるという求人詐欺の問題は、長時間労働の一因として近年非常に重要な労働問題となっています。これまでの『POSSE』でも求人詐欺についてはたびたびお伝えし、その問題点を論じてきました。「ルポ 過労死に直面した遺族はどのようにして声を上げられるか」は、求人詐欺を発端として起きた過労死事件を追ったルポルタージュです。2014年、グリーンディスプレイというデザイン関係の企業で、長時間労働を原因とする若年労働者の事故死が発生しました。本ルポでは、当事者の遺族に聞き取りをおこなって、求人詐欺が過労死に至る経緯、そして過労死事件を遺族が社会に問うていく過程をお伝えしています。
求人詐欺に関しては、政府でも徐々に対策が議論されはじめています。最近改正された若者雇用促進法、および職業安定法では、求人詐欺が確認された企業への罰則規定など、さまざまな求人詐欺への規制を設けています。「新しい求人詐欺対策は前進か、後退か」では、これらの制度の詳しい解説や実効性、今後の求人詐欺対策の見通しについて論じています。
今号特集のなかでも一風変わった記事が、汐街コナさんへのインタビュー「昔、その気もないのにうっかり自殺しかけました。」です。汐街コナさんはかつて自身がブラック企業に勤めていた経験を漫画に描いた方で、今回の記事でも特別にその漫画を全編掲載させていただきました。記事では漫画というユーモラスな題材を通じて、長時間労働への強い警鐘が鳴らされています。
以上が、34号特集記事の紹介です。今号はリニューアル号ということもあって、「昔、その気もないのにうっかり自殺しかけました。」では漫画が掲載されるなど、ユニークな記事となっています。また、なかなか聞くことのできない現役監督官の方の生の声が語られている「電通事件後、労働基準監督行政はどう変わったのか」も興味深いところです。
さまざまな特集記事で「ポスト電通事件の過労死対策」を多角的に論じた『POSSE』34号、ぜひご一読ください。
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