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NPO法人POSSE(ポッセ) blog

09年春TVドラマと失業・住宅問題、そして労働運動(下)~『必殺仕事人2009』『ハゲタカ』映画版

■『必殺仕事人2009』に見る生活保護の支給条件と「貧困ビジネス」

さて、今クールで失業問題について一番興味深い描写をしていたのは、何を隠そう「『必殺仕事人2009』(テレビ朝日系金曜9時)の第13話だろう。幾分深読みをしながら解説してみたい。(ネタバレありです)

確かに設定は江戸時代なのだが、『必殺仕事人』は放映当時の時事問題を反映するのがお約束である。今シリーズでも、ストーカー、食品偽装、食糧危機、無差別殺人、薬物汚染など多様なテーマが扱われている。

第13話のあらすじは以下の通りだ。「折からの不景気で年貢を払えずに故郷を離れ、江戸に逃げ込む人々が増えていた。帳外れの彼らは、家も仕事も持てずに貧しい暮らしを余儀なくされ、最近、幕府が給付を決めたご公儀振る舞い金も受け取れないでいた。彼らの唯一の収入源は、女たちが夜鷹として体を売って稼ぐ金だけだ。」(必殺仕事人2009」HPより)

「帳外れ」の農民というのは、「派遣切り」や正社員のリストラなどを原因として住居すら失い、住民票の登録ができない失業者たちの比喩だろう。と、ここまでは『アタシんちの男子』や『白い春』でも登場していた設定だ。
さらに出てくる「ご公儀振る舞い金」というのは、この回のタイトルが「給付金vs新仕事人」であったことからもわかるように、どう見ても「定額給付金」だ。史実としてこういうものがありえたのかどうかはともかくとして、住所を失ってホームレスとなった彼らが定額給付金を受給できないというわけだ。現実に今年の日本でこうした問題は話題になっていた。しかし、すごいのはその後である。

「そんな中、帳外れの人々に仕事を紹介し、人別長に名前が載るように計らおうと申し出る人物が現れる。」「彼らは、帳外れの人間たちに架空の人別を与えては引越しを繰り返させ、ご公儀振る舞い金を水増しし、横領しようともくろんでいたのだ。」

ここまで来ると、もはや定額給付金どころではなく、主に生活保護受給者を標的とした「貧困ビジネス」を想起せざるをえない。現在の日本でも、住居を持たない生活困窮者から金をむしりとるような業者が相次いでいる。

そもそも、住所不定を理由に生活保護が受給できないというのは自治体の窓口で言われているだけであって、ホームレス状態の人でも生活保護は受給できるということは、厚労省の方針でもある。

しかし、窓口によっては、そうした住民票のない人たちに対して生活保護費を支給する代わりに、現在住んでいる居所として、指定した民間施設に宿泊することを条件とするというケースも多いという。そうした民間施設は劣悪な環境であることも多く、業者によっては仕事も世話すると言いながら、不当なピンハネなどを行う悪質なものもあるという。(先日のブログ記事「生活保護申請の実態」も参照下さい。)

だからといってそこから逃亡した結果、居所不定としてまた支給が止められることもあるそうだ。

本ドラマでは「振る舞い金」を支給する役所と悪徳業者が癒着しており、仕舞いには、カネだけとったら後は全員殺害するというあまりに非道なものだった。ここまでの実態が現実にあるわけではないにしても、どこまでが製作者の狙いどおりなのかはわからないが、現在の生活保護支給の窓口対応が結果的に「貧困ビジネス」を助長させて生活困窮者を苦しめていることについての痛烈な批判になっているように思える。

また一方では、本作はいわゆるハウジングプアの問題でもある。住所不定でも生活保護が支給されなければいけないのはもちろんのこと、実際に住む場所として、野宿あるいはネットカフェ、劣悪な民間宿泊施設だけでなく、住宅支援が充実されることの重要性も、見て取れると言えよう。

■職業訓練の必要性

さらにこの第13話では、生活保護費の受給と仕事と住居を世話してくれるという「貧困ビジネス」に流れようとする人々に対し、この回から登場するKAT-TUNの田中聖演じる「仕立て屋の匳」が、「そんな甘い話はない」と引き留めようとする。そして、自分から進んで彼らへの職業訓練(殺人術ではなく仕立て屋の)を申し出るものの、拒否されてしまうという印象的なシーンがあった。

ここから、職業訓練や仕事を通じた社会への参加についての重要性についても考えることができなくもない。考えてみると、『アタシんちの男子』でも、リストラされた野宿者たちが「仕事」を見つけることで、急にイキイキと活動しはじめるというシーンがあった。もちろん前回述べたように、劣悪な労働しか選択肢がないという現状には問題があるのだが、労働をつうじて社会に参加したり、ポジティブに生きられるという側面はもっと重視されるべきだし、積極的労働政策の必要性もより議論されるべきだろう。

ことほどさように、貧困ビジネスを規制するとともに、ちゃんとした労働条件での雇用創出ももちろんだが、生活保護や雇用保険をはじめ、住宅支援、そして職業訓練を充実させた社会保障が必要であるということを、本作は問題提起していると言えるのかも知れない。

■労働組合やNGOの役割

しかし、そうした社会に働きかけるアクターが、闇夜に紛れて悪徳業者を暗殺する「仕事人」ではさすがにマズいだろう。そこで大きな役割を果たすべきなのは、労働組合やNPOなどの団体であろう。だが、前回述べたように『白い春』で「派遣村」のボランティアは出てきているものの、労働組合そのもについては前クールに放映されていた『銭ゲバ』で一応登場しているものの、今クールのテレビドラマでは出てきていない。(『銭ゲバ』における労働や貧困の分析に関しては、『POSSE vol.3』の五十嵐泰正さんの対談、編集長坂倉の原稿を参照ください。)

とはいえ、深読みをすれば、あながち「仕事人」と労働組合が無関係というわけでもない。歴史をたどれば、労働組合のもととなったのは相互扶助の集団であり、それや中世の職人のギルド集団までさかのぼることができる。その相互扶助の機能が、そうした強制加入の共同体から、自発的な参加による共同体へと受け継がれていくなかで、労働組合がつくられていった(木下武男著『格差社会にいどむユニオン』参照)。そう考えてみると、先ほどの「仕立て屋の匳」のセリフは、職業訓練など、生きていくための相互扶助的な機能をもった集団の形成へとつらなったかもしれないわけで、将来の労働組合への萌芽と言えないこともないのかもしれない。

なお、実はこの4~6月のテレビドラマ関連の作品で労働組合が描かれていると言える作品がひとつだけある。もともとテレビドラマとして制作され、6月6日に公開されるNHKの『ハゲタカ』だ。『ハゲタカ』は企業買収を描いたドラマとして好評を博したが、今度の映画化ではもともと製作を予定していた作品を、昨年末のリーマン・ショックを受けて脚本を書き直し、現状を反映したものになったという。その影響か、映画版の予告編を見た限りでは明らかに労働組合や、労働運動が登場している。

大手自動車メーカー「アカマ自動車」による「派遣切り」やリストラに対する抗議行動のようで、「雇用調整反対」「労働者を人として扱え」「血の通った雇用体制を」「雇用を守れ」「衣食住保障を」などのプラカードが目に入る。映画のキャッチコピーは、「何のために戦うのか。何のために働くのか。」だ。

キャストを見ると、「アカマ自動車の派遣工」として俳優の高良健吾がわりと上の方に名前が掲載されている。予告編にも抗議行動の中心的な人物として登場しているように見えるところから推測するに、それなりの時間を割いて派遣労働者の労働組合が描写されると期待して良いかもしれない。一体どのような描かれ方をしているのか、非常に気になるところだ。

こうした失業問題や労働運動については、単にドラマに話題性を持たせる「時事ネタ」として利用するだけでなく、ちゃんと描いてほしいところである。とはいえ、今回紹介した作品についても、今後どのような展開と結末を見せてくれるのか、楽しみではある。以上、半ばこじつけ的に今クールのドラマから労働や貧困の問題について述べてみた。

■お知らせ~『POSSE vol.3』出版、5月31日に読者セミナー開催~



さて、今クールのテレビドラマを眺めながら改めて思ったのですが、テレビドラマは批評の対象としてもそうだし、ましてや労働や貧困問題を論じるものとしてはほとんど語られてこなかったのではないでしょううか。しかし、やはり多くの人が目にする可能性の高いポップカルチャーの描写を、そうした社会問題の分析につなげていくことは重要なことだと思われます。

『POSSE vol.3』では、こうしたテレビドラマと労働・貧困問題について特集しています。

なお、5月31日には、本特集で「ポスト・トレンディドラマの「働く女性」 ――『ハケンの品格』が到達した地平――」というインタビューをお寄せいただいた早稲田大学教授の伊藤守先生にお越しいただき、イベントを開催します。『ルポ雇用劣化不況』を出版されたばかりの竹信三恵子さんもゲストに来てくださいます。
詳しくはこちらをご覧下さい。

『POSSE』編集部も参加いたしますので、ドラマと労働・貧困に興味がある方がいらっしゃったら、ぜひご参加ください。

労働問題総合誌『POSSE』では、今後もこうしたポップカルチャーから労働や貧困問題を論じていく予定ですので、ご期待ください。(坂倉)
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