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NPO法人POSSE(ポッセ) blog

労働基準法改正案・衆院通過

・新制度のポイント
今月18日、労働基準法の改正案が衆議院で可決されました。
通過した改正案の内容は短いもので、要点は以下の二つです。

①週60時間を越える部分の、賃金の割増率を5割に引き上げること 
②有給休暇の時間ごとに分割して取得することを可能にすること

・大手企業に限定される割増率の引き上げ
①は、これまで週40時間を越える部分の労働については一律に25%増しの賃金の支払いが定められていましたが、60時間を越える部分に限って割増率の引き上げを行うというものです。しかし、これは中小企業には当分の間適用されません。条文では、次のようになっています。

原則:資本金または出資の総額が3億円以下であるか、従業員が300人以下であれば、適用されません。
サービス業:5千万円以下、または100人以下は適用外
  卸売業:1億円以下、100人以下は適用外
  小売業:5千万円以下、50人以下は適用外
 
上記を見ると、パート・アルバイトでは多くが適用にならないことが予想されます。

・柔軟化と平行して進む時短
 この60時間をこえる部分の労賃は、有給休暇(既存の有給にプラスして)に置き換えることもできます。これは労働者代表との書面の協定が必要なのですが、そうすることで、割増部分の賃金を支払わずに、別の時間の休みを増やすことで対応できるように制度設計がされています。趣旨としては、労働時間の短縮を重視しているということでしょう。
 使用者にとっては、業務の都合で労働者を柔軟に働かせることができるようになります。忙しいときはたくさん働かせて、その分仕事が少ないときに休ませれば、割増賃金を払わずに、効率的に働かせることができるようになるのです。見方によっては、労働者はそれまでもらえるはずだった割増賃金が減るわけですから、賃金面では逆に損をすることになるともいえます。
 ただ、社会全体としてみれば、労働時間の短縮につながるものと考えることはできるかもしれません。もちろんこの法律の趣旨どおりに企業が行動すれば、という条件がつくところですが。ここのところの評価は難しいところだと思います。実際に労働時間が減って、賃金にもさほど影響がなければよいのですが。

・問題点1(分社化によるノルマの増大)
 問題点の第一は、ただでさえ進んでいる企業の「分社化」を促進するのではないかということです。大企業ほど労基法の適用が厳しくなるわけですから、事業単位を細分化が進行します。
 このことによって、それまで企業全体で補ってきた採算の単位がさらに細かくなり、分社化した企業の責任者は、過大なノルマを負うことになるのではないか、と危惧します。この場合、名ばかり管理職をさらに増大させる危険もあります。
 もちろん、こうして企業が細分化されてしまえば、この割増賃金の支払われるべき対象も限定的なものになってしまいます。

・問題点2(企業規模間格差の拡大)
 次に、そもそも中小企業と大企業の労働者の間には大きな賃金格差があります。この格差をさらに拡大させることになるのではないか、ということです。この法案の内容では、中小企業の社員は「賃金が低くて当たり前」という発想が見て取れます。
 海外では、中小企業と大企業の労働者の賃金格差は、産業ごとの賃金価格がはっきりしているためにかなり小さく抑えられています。「中小企業と大企業の賃金格差がない」という条件の下で、大企業と中小企業の取引、あるいは大企業と中小企業の競争が行われることが必要です。現在では、中小企業の低賃金を利用して、不当に低く下請け単価が設定されるなどの弊害が指摘されています。
 「中小企業だから払えない」だけではなく、不当な取引によって、大企業による中小企業からの収奪の仕組みがあり、このために低賃金が生じざるを得ないという構造もあるわけです。しかし、取引先の大企業にとっては中小企業の低賃金労働者に対して雇用責任があるわけではないので、取引単価の引き下げ圧力によってどんどん賃金を削減させてしまいます。雇用の責任が中小企業にあるので、単価を引き下げている大企業の責任は問われません。これは製造業だけではなく、例えばコンビニなどのフランチャイズにもいえることだと思います。コンビニ店員や、店長などが生活する最低ラインが、最初から低く設定された上で商品の卸売価格、フランチャイズ契約の価格が設定されています。「中小企業労働者だから安くて当然」という状態が、不当な取引を温存し、格差を広げていると考えられます。
 ですから、逆に賃金水準を近づけ、それを所与の条件とした上での取引や競争をするように、国家が条件設定をしなければならないと思います。今回の改正は、この流れとは逆を行くのものではないでしょうか。
 また、企業福利などの企業規模格差の部分については、もともと国家が一律に「福祉政策」として行っていれば、格差が生じません。企業依存の福祉から、国家主体の福祉に切り替えていくことが必要です。

 これらの政策を平行して進めることをしないと、今回の政策は企業規模間労働条件格差を広げ、そのことによって低賃金下請け、分社化構造が推進される可能性があります。そうなれば、格差是正どころか、格差の拡大をまねく危険性も考えられます。
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