○労組側がためらった最賃引き上げ
今年、最低賃金の引き上げに関して、政労使間で多くのせめぎあいがあったわけだが、実はこれまで使用者側はもちろん、労働者側からも引き上げについて積極的な働きかけはなかったのである。それはなぜなのか…
日本の労働組合というのは、基本的に大企業の男性正社員で組織される企業別労組が主流である。こうした労組では、非正規社員の賃金引上げ問題に対して、自分達の既得権益を脅かすものだという認識が強く、排他的な傾向が強かった。最近、連合で非正規の問題が取り上げられ始めたが、別に派遣社員の労働条件の問題などは最近にはじめった問題ではない。これまでは、単に既存の労組が彼らを「同じ働く仲間」として考えていなかっただけなのである。
実は、最低賃金の引き上げについても労組側は、企業は負担増分、正社員の給料を引き下げるに違いないという危惧のもと、引き上げに対し反対していた。まさに、これまでの日本の労働組合運動の負の側面が、最低賃金をめぐる議論にまで深く浸透していたのである。
○使用者側の激しい反対
しかし、最近になり「格差社会」「偽装派遣」「ワーキングプア」の問題が、世間をにぎわし始めた。そうした中、厚労省にはその改善に向け、社会的圧力がかけられていった。さらに、度重なる違法派遣の問題は、厚労省側をさらに突き上げるかたちとなった。
加えて、労組側もこれまでの保守的な体質と労使協調路線を厳しく問われ、組織率低下を防ぐ意味でも、非正規の組織化と社会的にも存在感を獲得するため最賃問題に動かざるを得なくなった。下の表は、最低賃金をめぐる政労使間の大まかな議論の経過である。
(経過)
通常国会中→「生活保護との整合性に配慮する」との規定を盛り込んだ最低賃金法改正案を審議→継続審議
7月9日→政府の成長力底上げ戦略推進円卓会議が「賃金の底上げ」を要望
7月13日→中央最低賃金審議会が引き上げの「目安」の議論開始
7月29日→参院選で民主党躍進
8月8日→中央審議会で「目安:平均14円」決定。A~D基準
地方審議会で実際の引き上げ額を議論
*A~D基準
目安は、都道府県をA~Dの4ランクに分けて提示される。
A:東京など都市部が中心=19円
B:埼玉や京都など=14円
C:宮城や福岡など=9~10円
D:青森や沖縄など=6~7円
政労使間で行われた会議は、使用者側の猛烈な大幅引き上げ反対の意見が会議の長期間化をもたらした。企業側は、地方の景気回復の遅れや中小企業の負担増などを中心に反対した。その一方で、労働者側は、格差社会やワーキングプアへの対処や国民所得の増加に伴う消費の拡大により、国内総生産の底上げも可能という意見でそれに対抗する形となる。
一方、厚生労働省は、自らの権威の回復と参院選での民主党の躍進の影響もあり、引き上げに関して、肯定的な立場をみせる。結局、使用者側の意見に圧倒され、大幅な引き上げは困難となり、全国平均14円というかたちで強引に会議を終わらせる形となった。
○「格差」の残る引き上げに
この結果、各方面から大きな反発を生むこととなった。たとえば、都市と地方では引き上げ額に大きな格差が発生し、地方で働く人からはおおきなため息がもれている。また、最低賃金で暮らしていくと生活保護水準以下であるという問題も今回の引き上げ額では改善されることはなかった。
その一方で、使用者側からは、今回の引き上げに関して、企業のコストが増し、そのことが雇用の削減と失業者の増加、ひいては格差社会の促進につながるという意見がでている。
これが、これまでの最低賃金の引き上げをめぐってなされてきた議論の経過である。今回の最賃引き上げは、使用者側の意見に政労が圧倒される結果となり、本当の意味で、社会で十分に暮らしていける賃金を全国で一律に定めていくには、程遠いものとなった。POSSEとしては、今後さらに最賃をめぐる議論を詳細に検討し、あらたな提言を作成していく必要がある。
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