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NPO法人POSSE(ポッセ) blog

なぜ若者の敵=海老原が、POSSEで語るのか?

海老原嗣生さんからご寄稿いただきましたので、ご紹介いたします。

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表題のとおり、私のPOSSE登場に違和感をもたれた人も多いと思います。
本稿ではその理由をお話します。
そして、私がどうして「若者かわいそう論」のアンチに見えるのか、本当の立ち位置はどこなのか、を示して行きたいと思います。


海老原の立場「若者はけっこうかわいそう」!?

海老原は若者の敵、「中小企業に押し込めばいい」と思われた原因は、誤解されがちな言動にプラスして、はっきりと私の立場を書いていなかったことが問題でしょう。
ここではそれを、しっかり書いておきます。私は若年雇用問題についてどんな風に考えて来たか。

1)若年雇用困難者は大量にいます。

私はこれを認めます。ただし、その数は150万人程度と考えています。そして、過去たとえば、30年前と比べて倍程度になったと思っています。少子化の中で、倍になったということは、つまり、「率」ではもっともっと上がっているでしょう。
150万の数字的根拠はあげらるのですが、そういう論争はもう終わりにしましょう。
それよりも、「若者はかわいそうではない論」の最右翼と目される私が「これだけいる」と認めることを前向きに受け止めていただければ幸いです。

2)近年、若者を取り巻く環境は悪化している。

私はこれも認めます。ただし、その理由は、「小泉改革」とか「大企業の論理」といったテーゼに主因を求めません。一番大きいのは、働く人を優しく包み込める鷹揚な就業形態だった「自営業」「農業」が社会進化の過程で淘汰されたこと。次は、同じ企業雇用者でありながらも、工業・建築業という職務ワークが雇用吸収力を失ったこと。この二つの仕事は、環境的・肉体的にハードで危険です。だから「昔は良かった」とは一概には言えません。それでも、職務内容が明確で、どこまでやれば良いかもわかり、しかも、対人折衝に端を発するストレスも非常に少ない。過剰労働・酷使という問題は今同様つきまといますが、精神的苦痛やハラスメントの生まれる可能性は、かなり少ない。そして、3つ目。女子一般職の減少。その結果、女性の正社員進出が始まりました。これ自体はいいことです。しかし、職を追われる男子が急増した。ここまでが主因であり、だから90年以前から連続的に非正規は増え続けています。そこに一時的に「小泉改革」がプロモーター役として色ぞえした程度というのが現実と理解しています。それよりも、本当の主役は私がいつも書く通り、プラザ合意後の円高だと思っています。

3)正社員で労働している人の環境にも問題がある。

これは、むしろ、AGREEしています。職務ワークからホワイトカラー化したことで、心優しき人たちは疲れ果て、その裏側で、マネジメントでも問題が発生しやすくなる。私の本の中では、随所にこの話は出てきたでしょう。


私が論争をしかけてきたもの

ここまで認める私がなぜ、私は「質の悪い若者かわいそう論」(C後藤和智さん)を論ってきたのか。ここから先はその話です。

まず、過剰な数字を上げることで、運動家の人は若年雇用問題に目を向けよう、と考えました。この出発点はOKです。ただし、さもしい経済評論家やエコノミストという人たちまで訳知りに、我流の「膨大な若者疲弊論」を話して、じゃあどうするの?という形になって来ました。えてして、「こんな日本に誰がした」状態となっている。私のような火消しが入って行くべき。それが行動原理です。

この点は、私は皆さんには辛い言葉を吐き続けましたが、現実直視と言う意味でお許し願いたい。非正規1700万といっても、主婦・高齢者・学生で1300万人だということに、誰も面と向かって否定はできていないはずです。ワーキングプア1100万人も扶養者と家族専従員で過半となり、残りの半分が老人。つまり、正当なワーキングプアは200~300万。07年度の厚労省調査を上げて650万人という人には、反論はいくらでもできますが、それはやめておきます。

ただし、再度言いますが、ここでもこの私が、現役世代の世帯主で400万人もの非正規、そして、200~300万のワーキングプアがいることを認めています。

さらに、ワーキングプアでも非正規でもないけれど、「就業に困難を感じる人たち」がこの数倍いて、こっちはさらに大きな問題であると、ここで公言しておきます。
運動家の方たちは、こうした問題に対して、すごく真摯に、草の根レベルで様々なサポートをしています。これは頭が下がります。

一方で、全く門外漢のマスコミ・にわか識者は、もっと単純な論理で、一元論的な主役探しを行い、それさえ糺せば日本は良くなる的な妄言に終始しています。私が戦っているのはここです。やっぱり「質の悪い若者かわいそう論」(C後藤/再)でしょう。
いわく

・大企業が悪い
・日本型雇用が悪い
・逃げ切り世代が悪い
・就職ナビが悪い

本当に、それですべてが治るのでしょうか?

まず、最初の方に書いた通り、自営業・工業・建設業・農業の衰退という問題があります。これを回帰・復活ができますか?

二番目にここにあげた悪玉4者を本当に変えられるのでしょうか?

この4者には彼らなりの苦労やコストがあり、こちらがいくら「非合理だ」と叫んでも、向こう側に立てば、それなりの合理性があります。それを私は示してきました。企業の味方、老人の味方だからではなく、向こうの論理を認知してもらえれば、「言っても無駄」「効果が少ない」「あちらもあちらで」とわかってもらえるだろう、という意図が多々あります。

正直、いくら声高に打倒を叫んでも、牛歩でしかこの4者は動かないでしょう。
それをやり続ける「運動家」の方には敬服します。
しかし、世の大勢やマスコミが、この長く辛い作業に加担し続けるでしょうか?


結局、中小で受け止めるしかない現実

あえて、もう一度、俗論をここで斬っておきたいところです。

■大手批判を繰り返すことで・・・。
「大手優良企業の雇用吸収力は小さい。どうやってもここでは大半の人が収まりきらない」。この現実をどう考えますか?世の中の7割の人は中堅・中小企業で働いています。大手の3割でも、飲食・サービス・宿泊系の「不人気企業」が多数を占めるでしょう。つまり、世の中の人の、8~9割は、大手優良企業以外で働いているはずです。若年雇用の受け皿も、大手優良企業では、とても無理、という現実を私は直視しています。

■新卒一括採用をやめる
→景況による不公平はなくなるでしょうが、大手優良の採用総数が増えるわけではないので、結局、多くは中小に行く。この構図は治らないでしょう。

■新卒を通年採用にする
→同上

■できないぶら下がり社員をバシバシ首切りする
→確かに大手優良企業の採用数は増えるかも知れません。が、それでも、大手優良企業の採用が今の5倍にでもならない限り、世の多くの人は救われません。仮に採用が5倍となっても、退出者も5倍で、その人たちは、結局、中小企業で吸収されるしかありません。とすれば、そんな社会になっても、「一時的に大手優良にいられるだけ」で、結局は、中小企業の雇用でしか吸収ができなません。

■景気を(短期的に)よくする
→どのくらい景気がよくなる想定でしょうか?たとえば、2008年のリーマンショック前でも、新卒採用のうち、大手(飲食・サービスなどの不人気/ブラック多発企業群を含めて)の採用は15万弱、中堅・中小で24万強です。さらに、この時期でも就職未内定者は7万人も出ています。圧倒的に大手は少ないでしょう。バブル期でさえ大手採用は(不人気企業を含めて)半数にいたりません。大卒が今の6割弱の時代でもですよ。景気でもやはり、「大手優良企業」で新卒を吸収することは、ことのほか難しいでしょう。また、30年近い円高局面で起きた産業構造の変化を、そう簡単に巻き戻すことも難しいでしょう。アベノミクスで一時的に2008年かそれよりももう少し良い状態になるとしても、工業・農業が日本に回帰し、自営業が復活する、とうい巻き戻しは私には考えられないのです。

私は、この現実を考えるから、結局、若年雇用は、通常の雇用グラデーション通り、その圧倒的多数は、中堅・中小が受け皿になると主張し続けています。「どこでもいいから中小へ行け」とは行っていません(正確に言うと、そう誤解される記載は、過去の書物で2箇所、指摘されています)。


だから私は、POSSEと協働する

このような中で、著効策を私は、
A)「中小のブラック排除」を第一に上げています。このための仕組みは、何度も本にしています。(中央公論、就職絶望期、中小企業ミシュラン等)。Webやテレビでも語り尽くしています。

公的データを駆使すれば、かなりブラックは排除できます。一例あげましょう。

・労働局データ→人員名簿がわかる。これで、定着率はすぐ出せる。
・税務データ→人件費率がわかる。成長率もわかる。
・労基署データ→労働問題の有無がわかる。
・上西さんに批判された「食べログ形式で、就業者が環境をアップする仕組み」を作る、大学のOBデータベース等々。

その他にも色々書いています。とにかく、ブラック排除を徹底すべき。これは私が中小企業雇用を唱える時に、基本として掲げています。

B)割れ鍋に綴じ蓋
中小の「良い企業」とは、大企業のカーボンコピーだけではない、と何度も訴えています。確かに、利益率や業界シェア、最先端技術などの、大企業CC型の良い企業も多いでしょうが、それは、採用レベルが高すぎて、普通の学生には難しい。BLOGOSやCSテレ朝の「ニュースの深層」でそのことを何度も訴えています。だからこうした企業だけではダメ。

それよりも本論は、割れ鍋に綴じ蓋です。ある人にとって「最悪」でもある人にとっては「最良」と思うような、そういう関係は多々ある。その組み合わせをうまく探す仕組みを作るべき、というのが私の考えです。「就職、絶望期」「四大卒も中小企業を目指せばいい」の中で訴えていますが、一番わかりやすいのが、以下です。

「ミスマッチで社会に出られない人も、非常に多い。ただ、よく見ると、そういう人が、合うような企業は、意外にあるのです。例えば、ワンマンな社長がいる中小企業。一見怖いけど、部下は、リーダーシップとかとる必要はない。言うがままでいい。

こういう企業だって、われ鍋に閉じ蓋で「そこがいい」という人はいるでしょう。同様に、老舗の和菓子屋さんとかで、給料は極端に低い、年収250万円くらいだけど、暇で、楽で、残業もない、という会社も知っています。社内環境が緩いから、低給でも誰も辞めません。で、夫婦で働くと、年功昇給もあるため、世帯年収は600万円位維持できる。しかも、残業もないから、子育ても楽。無理に「グローバルエリートになれ!」と尻を叩くより、ワークライフバランス重視なら、こういう企業もいい。

ほかにも、お爺さんばかりの特産品屋さんでいいもの売っているけど販路が伸ばせない、なんて会社に、ネットオタクが就職して、口も利かずにECサイトを立ち上げて、売り上げを倍増させて、社内で救世主となった、なんて話もあります。

そう、リーダーシップがなくとも、残業がいやでも、口下手なITオタクでも、受け入れてくれる企業というのは、どこかにあるんです。ただし、その分、マイナスも覚悟しなきゃなりません。それは、怖いワンマンオヤジに使われる、とか、超低年収とか、高齢者ばかりの環境とか。つまり、何か、を我慢すれば、自分がどうしても譲れない、という部分だけは実現できる会社があるのです。

大手は、どこも平均点美人ばかりだから、こんな「割れ鍋に閉じ蓋」関係は無理でしょう。逆に、中小は法人成りしているだけでも、270万社もあるから、どこかに、うまいペア相手がいる。ピッタリとは言えないでしょうが、「我慢できる」くらいの、ね。そのペアが、うまく見つけられず、行き場がなくなっている人たちが多いと思うのです。

結局、若者たちは長い間、自分とぴったりの企業に行き当たらない。悪いことには、ネームバリューだけはあるようなブラックで、自分の主義信条と真反対の企業に往々にして入ってしまって地獄を見る。ここが問題だと思っています。普通の企業対普通の人たちという結びつけがちゃんとぴったりにパズルのピースみたいに合わせられるような仕組みができれば、相当解決すると思っています。」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20121101/238885/?P=3

要は、大企業のCCとは違う、組み合わせです。

ところが現実は、若者の就業不安と、中小企業の応募者難があいまって、「割れ鍋に綴じ蓋」ではなく、「割れ鍋に割れ蓋」で、合うはずのない組み合わせが多々起き「不本意な就労」をしている。としたら、この現実を正すことに注力すべき、と私は思っています。こうした企業を「相対ブラック」と私は呼んでいます。

このインタビューでは「ぴったり」と表現していますが、それも無理とわかっています。「BEST」は無理、「BETTER」も極めて困難。しかし、「BAD」は弾く。そして「Worse」は組み合わせを変える。そうして、「Not Bad」レベルにまではできると考えています。
日本型雇用を壊す、大手の行動様式を変える、就職ナビに非営利的な事業を無理強いする、熟年社員を追い出す、いずれの施策よりも、私は「ブラック(相対ブラック含む)問題解決」が一番の雇用改善だと思う。だからこそ、POSSEと協働を謳うのです。

この話を、しますよ、Posseでは。


一方で、Posseに通じる主張を連綿と繰り返してきた

私は求職者の企業の選り好み云々について、当初より以下の通り書いています。

「ここで言いたいのは、選り好みをするな、ということではない。~ある程度余裕のある状態だと、人は仕事を選ぶ。それはむしろ自然なことなのである」
(「旧版雇用の常識」/134p/2009年5月)

そして、上記の割れ鍋に綴じ蓋論に通じる「それなりの組み合わせ」「我慢できる組み合わせ」論についても、「若者はかわいそう論のウソ」(2010年6月)で書いています。「4大卒も中小企業を目指せ」(中央公論/11年1月)というものすごい危ないタイトルの寄稿でも(タイトルは編集部がつけました)、、若者とまともな中小を結びつける案について、しっかり書いてます。この原型は、「日本のこれから」(NHK、2010年12月)でその一端を披露しています。また、今の派遣を抜本改善して、透明性の高い仕組みにする「公設民営型派遣」はやはり、「若者はかわいそう論のウソ」で述べています。これなどは、リクルートの事業と真っ向対立する案です。この本には、「さもしい人材ビジネスに税金が流れる」という小論も収録しています。ちなみに、人気ランキングについても「学歴の耐えられない軽さ」でその問題をいち早く取り上げています。私は、そういう人間です。

もう一つ、「2社で迷ったらぜひ、5社落ちたら絶対読むべき就活本」では、ブラックに行かない方法、ブラックに入ってしまった時の対処、を書いています。

私は2011年くらいから急旋回したように受けとられがちですが、基本、首尾一貫して「若者を危ない中小企業に行かさない」ことを訴えています。

私の主張の系譜は以下のようになるでしょう。

・人気ランキング、社格、見えにこだわるのはやめる。
・ミスマッチ(一般の意味ではなく、本来の意味)で合わない会社に入るほど辛いことはない。
・あまたある中小の中から合う会社を探すのはつらい。
・多くの人は、結局中小に雇用されることになるのだから、合っていない中小に入ることだけは避ける。
・これらのために、社会インフラを充実させるべき。

その片鱗は、連綿とたどることができるのは、お分かりいただけでしょうか。

よく、ワークスの「新卒求人倍率」一本で、短絡的に「求人があるから行け」と行っているような批判記事を見かけます。求人があるなし、そこで雇用されたかどうか、などについては、私の著作物で、「労働力調査」「就業構造基本調査」「雇用動向調査」「学校調査」を主に用いて、多角的にデータ化してきました。
整理します。

若者は今でも「中小なら正社員になれる可能性が」かなり高い。だからこそ、「危ない中小に行かない」、そして、「悪くはない組み合わせに落ち着くべき」だと思っています。


私の使う「ミスマッチ」の本当の意味

では、なぜ私がこのような「割れ鍋に綴じ蓋」論を抱くようになったか。

私は、リクルートの子会社で、若い時代、求人ライターとして育ちました。コマ原稿主流なので、年間300本近く中小企業の求人を制作するような仕事です。6年間やったので、2000本近く作っています。訪問社数も1000は超えるでしょう。(常見君ほどのエリート街道まっしぐらな高学歴人間ではないのです/苦笑)。

その中で、中小でも割れ鍋に綴じ蓋でうまく行っている企業をかなり多く見てきたのです。
(もちろん、絶対的にひどい企業も多々ありました)。

そういう、なかなかいいなと思った「割れとじ」カップルに、全く異なるタイプが採用されて、うまくいかずすぐ辞めるというケースも多々見ています。中小は、応募者が少ないので、多少ミスマッチでも採用してしまうことが原因でしょう。この部分をどうにかしないと、絶対的なブラックではない普通の企業でも、相対ブラックが発生してしまうと感じたのです。大企業のように、「合わなければ、他の部署で再トライ」ができないですからね。

これが原点です。ワークス研究所で論文と数字を追いかけてばかりいた、というような育ちはしていません。POSSEほどではないにしても、それなりに現実を見てきました。


******

最後になりますが、それにつけても、私の発言・発表で世間に多大なるご迷惑をおかけしたことは反省しています。荒っぽい言葉や、舌足らずの発言は多々ありました。
また、こんな感じで、「私の全著作を見てからものを言え」などと読者に迫ることもできません。そう言う意味で、私の著作は誤解を生む可能性が高いとも、今更ながらに身に染みて思っています。

この点は、Posseに登壇する前に、この場にてお詫び申し上げます。


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海老原嗣生さん×POSSE代表・今野晴貴 対談イベント
「ブラック企業はこうなくす!」は、2月2日(土)18:30から開催いたします。

詳しくはこちらをご覧ください。
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