***以下、今野ブログより掲載***
生活保護の考え方
メディアで連日生活保護の不正受給問題が報じられている。また、生活保護の水準が高すぎるとの批判が出ている。では、生活保護は不要なのだろうか。論点を整理していこう。
1、生活保護受給者への誤ったイメージ
生活保護に対する論調は、粗暴な誤解に満ちている。あたかも受給者の大半が不正を行っているかのようである。では、不正とは何か。それは、本来保護を必要としない人が生活保護を受給する事態のはずである。ところが、多くの批判は「保護の結果」、「普通の生活」を享受している受給者に向けられている。
たとえば、「きちんとした服を着ている」といったことが「不正だ」ということの根拠としてまことしやかに語られる。片山さつきが、「生活保護は社会保障ではない」と発言したことは、こうした認識のあらわれだろう。つまり、保護受給者は通常の国民とは異なる「二等国民」でなければならない。
この要求は、端的に言えば、「ぼろぼろの服を着ていて、風呂もトイレもない家に住んでおり、常に栄養失調状態」のように、分かりやすい貧困状態に生保受給者がとどまることを要求している。
ちなみに、東京大学のある勉強会で、学生に「不正受給の割合」を訪ねる機会をいただいたことがある。東大生の回答を平均すると、不正受給はおよそ50%、最も低い数値を答えた学生が30%であった。彼らがこれから行政の中心で仕事をしていくのだ。社会の認識のゆがみが、冷静な対応を不可能にするものであることを、強く印象付けるものだった。
2、バッシングによって被保護者が増える矛盾
だが、一方で、生保受給を減らすことは「財政削減」の中で至上命題のように語られており、両者には矛盾がある。
片山のいうように、生活保護を一般国民の社会保障以下、最低水準以下の生活に固定すれば、かえって就職のための身支度もできず、就職活動のための書類を整え、交通費を支出することすらできないだろう。現状ですら、生保受給者から、就職活動の費用が足りないという相談は、実際に多々あるのである。
実際には、バッシングは生活保護受給者を追い詰め、保護状態に固定化する。あるいは、保護水準の切り下げや、保護適用の厳格化は、貧困寸前の人々を本当の「貧困」へと押し込め、社会復帰を困難にするだろう。結果として保護費は増大するだけである。このように、感情的なバッシングとこれに基づく政策は、何の経済・財政的効果を生まないどころか、逆効果なのだ。
3、実は「経済的」な政策としての生活保護
ほかにも論点がある。生活保護・社会保障が未整備であるために、アンダーグラウンドな経済へと身をやつしていくものも多くいる。マフィアややくざのフロント企業が拡大していく。
あるいは、やくざといわないまでも、「おれおれ詐欺」のような犯罪を増大させるだろう。以前NHKで詐欺集団の実態を報道していたが、きちんとしたオフィスビルに数十人から百人近い若者があつまる。ホワイトボードには実績のグラフが記され、ノルマを競う。そうした集団が膨大にあり、かなりの人口が犯罪に組織的に従事している。
なぜ若者がそんなところに集まるのか。取材では、お金がないことに加え、「仕事感覚」でできるから、である。生活保護よりも効した犯罪的ビジネスやインフォーマル経済のほうが社会的な評価が、少なくとも表面上は高いとするならば、日本の治安は低下し、海外からの投資など経済活動は停滞し、市民生活は不自由を強いられる。さらには、スラムの形成なども促進されてしまうだろう。こうしたことの負の経済効果は計り知れない。
こうした事態を防止する社会保障政策は、もっとも「経済的」なのである。経済を円滑に発展させるためにも、社会保障制度は不可欠である。これは、産業社会を研究する者にとっては常識であり、生活保護をバッシングしたり、粗暴に社会保障を切り下げる議論には「恐竜の復活」を見る思いである。犯罪に身をやつしたり、インフォーマルな産業が形成されるよりも、「気楽に」保護を受けられる社会のほうが健全である。
さらに、もしこれを警察の強化によって防止しようというと、その費用が膨大だということも考えておく必要がある。警察の人件費、組織維持費、天下り先の確保など、青天井に費用が増大する。また、警察がインフォーマル経済を取り締まることで、経済活動への介入・監査が増大し、効率が損なわれる。これに加え、市民生活への介入も増大することで、そうした費用・時間・ストレスなど負の効果が激増する。
自分たちの主張が、過去に繰り返された「コストの高い社会」を生み出すものだと、本を歴史に学ぶべきである。
4、水準の妥当性(労働政策との整合性)
そもそも、生活保護制度が一般の方に、なぜ違和感があるかというと、政策の中の矛盾がある。最低賃金が低すぎるために、「ワーキングプア」と呼ばれるように、働いていても生活保護水準以下の労働が当たり前になっている。
生活保護<最低賃金<一般労賃、という構図を構築する必要がある。
5、生保の解体の必要
また、日本の生保以前に日本の社会保障はきわめて脆弱である。医療・住宅・教育の無償化を、全市民を対象に進める必要がある。そうすれば、生保受給者を必要とする人は相当数減るはずだ。
病気になったり、住居を失ったことで、生活保護を受給せざるを得なくなる方が多い。しかし、医療や住居など、一つでもまかなうことができなければ、即座に全財産を手放して生活保護受給者へと転落せざるを得ないのは不合理である。そのことによって、彼らを貧困においやり、社会参加をむしろ閉ざす結果にもなる。当然、経済効率も悪い。
したがって、個別の社会保障政策の中に生活保護を「埋めていく」ことがコストの面からも重要である。
6、譲れぬ原則としての「人間の尊厳」・・・政策の推進力は規範意識である
以上、いくつかの論点を経済コストの観点から整理してきた。だが、こうした整理は生活保護バッシングを、あたかも経済効率の観点から必要であるかのように主張する言説が強いから、あえて行ったものである。
本来、生活保護や社会保障制度は、経済効率の如何にかかわらず、絶対的に必要である。人間の生命を測りにかけられる論理など存在しない。
さらにいえば、社会政策論的には上記のように、手厚い社会保障は効率的な社会を作ることは自明なのであるが、こうした社会保障は歴史的事実としては「効率的だから」導入されたのではない。
人間の尊厳を守ることが、人間社会の進歩を生み、それが経済的にも合理的であったのだ。つまり、どのような社会を選択するのかは、経済合理性ではなく、私たち人間がどのような社会を望むのか次第なのである。
***以上***
****************************
NPO法人POSSE(ポッセ)は、社会人や学生のボランティアが集まり、年間400件以上の労働相談を受け、解決のアドバイスをしているNPO法人です。また、そうした相談 から見えてきた問題について、例年500人・3000人規模の調査を実施しています。こうした活動を通じて、若者自身が社会のあり方にコミットすることを 目指します。
なお、NPO法人POSSE(ポッセ)では、調査活動や労働相談、セミナーの企画・運営など、キャンペーンを共に推進していくボランティアスタッフを募集しています。自分の興 味に合わせて能力を発揮できます。また、東日本大震災における被災地支援・復興支援ボランティアも募集致します。今回の震災復興に関心を持ち、取り組んで くださる方のご応募をお待ちしています。少しでも興味のある方は、下記の連絡先までご一報下さい。
____________________________________________________
NPO法人POSSE(ポッセ)
代表:今野 晴貴(こんの はるき)
事務局長:川村 遼平(かわむら りょうへい)
所在地:東京都世田谷区北沢4-17-15ローゼンハイム下北沢201号
TEL:03-6699-9359
FAX:03-6699-9374
E-mail:info@npoposse.jp
HP:http://www.npoposse.jp/
最新の画像もっと見る
最近の「ニュース解説・まとめ」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事