介護疲れによる無理心中や介護施設の火災などによる高齢者の死亡、児童虐待による子どもの死亡、あるいは働き過ぎを原因とした過労死・過労自殺や、給与だけでは最低限度の生活を営めないワーキングプアの増加、国民健康保険料の滞納問題や国民年金保険料の未納問題……雇用や社会保障に関連する問題は数多い。
本書は、上述のような雇用・社会保障の危機的状況がどのようにして生じてきたのかを明らかにし、民主党政権の雇用・社会保障政策の問題点を指摘して、今後の雇用・社会保障政策の再構築の形を包括的に提示している。
日本は、終身雇用や年功賃金などを特徴とした「日本型雇用システム」を前提に社会保障制度が設計されてきたために、労働者や失業者に対する社会保障制度がほとんどなく、福祉国家であるとは言い難い。日本型雇用システムが崩壊し、社会保障制度の綻びが顕在化したいまこそ、「雇用保障・社会保障の拡充を実現し、真の意味での福祉国家を構築する運動が」求められており、今がまさにその正念場であると筆者は述べている。
新書という限られた紙数ではあるものの、社会保障諸制度、つまり社会保険制度(医療、年金、雇用、労災、介護)や社会福祉分野(障がい者、高齢者、児童)、生活保護制度など多岐に渡って、その制度の概略やこの間の政策の展開、問題点などがコンパクトにまとめられており、特にこの間推し進められた社会保障分野の新自由主義的改革のアウトラインがよくわかる。
ところで、終章で筆者は雇用崩壊の処方箋としてさまざまな法律による規制を提案しているが、法律の規制強化だけで雇用崩壊の処方箋とするのは少し違和感を覚える。実際、POSSEには違法性の疑われる賃金未払いや解雇などの相談が後を絶たない。事実、POSSEの08年度調査では、違法状態を経験した者が半数程度いることが明らかになっている。法律が守られていない状況のなかで法律による規制を強化し、現状を変えていくことは難しいだろう。この点に関しては、労使関係や労働組合のあり方に焦点を当て検討していくことが必要であると思われる。
ともあれ、雇用・社会保障制度について理解を深めるために、ぜひ参照してほしい一冊である。
【本の概要】
著者名:伊藤周平(いとう・しゅうへい)
書 名:『雇用崩壊と社会保障』
出版社:平凡社
出版年:2010年6月
【目次】
序章 「年越し派遣村」から民主党政権へ
第一章 加速する雇用・社会保障の危機
第二章 雇用保障・社会保障の仕組み
第三章 雇用崩壊はなぜ生じたのか
第四章 社会保障はどう発展してきたか
第五章 社会保障はどのようにして機能不全に陥ったか
第六章 これからの雇用・社会保障はどうなるか
終 章 雇用崩壊・社会保障への処方箋
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