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NPO法人POSSE(ポッセ) blog

【解説】「自分の都合で離職する若者」が多いって本当?〈3〉 ~「自己都合退職」の大半が偽装~

5月28日、内閣府の「雇用戦略対話ワーキンググループ(若者雇用)」の最終会合が開かれました。若者の雇用不安を「早期に自分の都合で勤め先を辞め」ると報じる向きもあるようですが、果たして若者は本当に自分の都合で職場を辞めているのでしょうか? 早期離職の内実について、数回にわけて解説します。

第一回「第三のバックラッシュを許すな!」 http://bit.ly/KZAPrK
第二回「データ不在の「自分勝手に辞める若者」」 http://bit.ly/L4SJG1


第三回 「自己都合退職」の大半が偽装


 自分の都合で辞めた若者は、本当に多いのだろうか? そんな問題意識で、POSSEは独自にハローワーク前調査を行いました。その結果については『POSSE vol.9』(特集:もう逃げだせない、ブラック企業)や、森岡孝二編『就活とブラック企業』で報告しています。ここでは、いくつか重要な論点をピックアップして紹介します。


▼そもそも、「自分の都合で辞める」とはどういうことか?

まず、マスコミでよく使われる「自分の都合で辞める」を法律の言葉に落とすと、「(正当な理由の無い)自己都合退職」と言います。雇用保険法33条には「正当な理由がなく自己の都合によつて退職した場合」とあります。雇用保険の制度では「自己都合退職」や重責による解雇によって退職した場合、不利な取り扱いを受けます。その際に出てくる概念が「自己都合退職」というものです。

雇用保険法で「自己都合退職者」となると、給付日数や給付条件で不利な取り扱いをうけます。更に労働者にとって決定的な違いが「給付制限期間」というものです。「自己都合退職者」は、失職してから3ヶ月間は失業保険を受給することができません。

これほどのペナルティがあるので、一応「自己都合退職者」となるのは正当な理由の無い場合に限られており、その範囲も今ではかなり厳格に定められています。

たとえば、会社に退職を強要されて自分から退職すると選んだ場合。これは雇用保険法で言うところの「自己都合退職者」とはなりません。これはわかりやすいと思います。同じく、会社に違法行為などがあって自分から辞めた場合。これも、「自己都合退職者」とはなりません。長時間労働、残業代未払い、賃金遅配、パワハラ、セクハラ、雇止めなどの理由で辞めた場合には、仮に自分から辞める意思を伝えたとしても、「自己都合退職」にはならないとされています。このケースに該当する離職者を「特定受給資格者」[1]と呼び、むしろ一般の離職者よりも手厚い給付を受けることができます。(解雇や勧奨による退職もここに分類されます)。

更に、会社に違法行為がなく、かつ自分から辞めた場合であっても、「自己都合退職者」として不利益な取り扱いを受けない場合があります。それは、介護や育児などのやむを得ない事情があって辞めた場合です。この場合に該当する離職者を「特定理由離職者」[1]と呼びます。

#1 「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」(PDF) http://bit.ly/drlb0z

いずれもリーマン・ショック後に成立(2009年3月31日以降の離職者に適用)したものですが、これらは「特定理由離職者」の給付を手厚くするために設けられたもので、従来の制度でも「正当な理由の無い自己都合退職」には該当しないと考えるべき離職理由です。

ちなみに、雇用保険での離職理由を集計すれば「自分の都合で辞める若者」のデータがとれるはずですが、その資料は存在しないそうです。スタッフが厚生労働省に問い合わせたところ、2010年度の全世代のデータで、「特定理由離職者」が276,000人、「特定受給資格者」が39,000人、「正当な理由の無い自己都合退職」を含む「その他」が298,792人です。「その他」には定年退職や休職期間満了による退職なども含まれるため、実際にどの程度の人数かはわかりません(情報公開請求することにしましたので、結果がわかればどこかで報告します)。

しかし、ここで指摘しておきたいのは、離職理由がどのような分布を示すのかではありません。雇用保険で「自己都合退職者」として扱われている人々は、法律的に見て本当に「自己都合退職」に該当するのかどうかということです。


▼「自己都合退職」の約85%は「自己都合退職」とは言えない

POSSEが行った調査は、ハローワーク前で200人に対し聞き取りを行ったもので、離職の経緯や理由に加え、職場の状況もしつこく聞き取ったものです。回答者自身が違法状態を違法状態として理解していない場合もあるので、単に違法状態の有無を聞くのではなく、一つ一つ細かく労働状況を聞いています。たとえば、「残業代の未払いはありません」と答えた人の労働時間と手取りから明らかに賃金が低い場合、「残業代はどのように払われていましたか?」と聞くと、「営業手当として毎月きちんともらっていました」と回答されることがあります。その金額と残業時間から、残業代の未払いを割り出すなどして違法状態の有無を一緒に確定していきます。この調査は用紙を配布して記入してもらう方式では無理ですし、聞き取りも日頃から労働相談に関わっている者でないと恐らく無理な方法です。

そうして違法状態を確定した上で整理した結果が下記の通りです。「自己都合退職」のうち、やむを得ない事情を抱えた人や職場に違法状態があった人を除いていくと、確実に「自己都合退職」だと言える人はわずか15%に過ぎないことがわかります。



では、なぜこれほどの乖離が起きているのでしょうか。その答えは、離職理由が書き込まれる現場にあります。
(つづく)


NPO法人POSSE事務局長・川村遼平


(書誌情報)

森岡孝二編『就活とブラック企業』(岩波ブックレット、2011年)
著者からのメッセージ http://bit.ly/gyqurp



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NPO法人POSSE(ポッセ)は、社会人や学生のボランティアが集まり、年間400件以上の労働相談を受け、解決のアドバイスをしているNPO法人です。また、そうした相談 から見えてきた問題について、例年500人・3000人規模の調査を実施しています。こうした活動を通じて、若者自身が社会のあり方にコミットすることを 目指します。

なお、NPO法人POSSE(ポッセ)では、調査活動や労働相談、セミナーの企画・運営など、キャンペーンを共に推進していくボランティアスタッフを募集しています。自分の興 味に合わせて能力を発揮できます。また、東日本大震災における被災地支援・復興支援ボランティアも募集致します。今回の震災復興に関心を持ち、取り組んで くださる方のご応募をお待ちしています。少しでも興味のある方は、下記の連絡先までご一報下さい。
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代表:今野 晴貴(こんの はるき)
事務局長:川村 遼平(かわむら りょうへい)
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