
・はじめに
昨年の10月から、品川駅前にある京品ホテルにおいて、従業員による「自主管理闘争」という労働闘争が行われていました。そして、この闘争は去る1月25日に行われた「強制執行」により第一幕を終えることとなりました。この記事では、泊り込み、強制執行の様子を踏まえて、京品ホテルでの取り組みについて報告したいと思います。
・京品ホテル「自主管理闘争」とはなにか
京品ホテルは、1871年から操業を続ける老舗です。昨今の不況にもかかわらず、このホテル単独で、常に1億円以上の黒字状態を維持していました。しかし、ホテル経営者は、他の事業で作った赤字を補填するため、地代の高い京品ホテルの土地を売却しようと目論んでいました。そして、建物と土地を、リーマンブラザーズ証券が設立した債権買取の子会社・サンライズファイナンス株式会社に売り渡したのです。
経営者側は08年10月20日に廃業を発表。翌日21日には立ち入り禁止の通知が従業員に出されました。そのことを全く知らされていなかった従業員は、営業継続のための「自主管理闘争」を開始しました。
従業員のみでのホテル運営は、特に支障もなく行われてきました。様々な実務を行っているのは従業員なのですから、経営者がいなくても営業は問題なかったのです。また、京品ホテルは、地域に根ざしたホテルでもあり、リピーターも多かったので、支援の声も非常に強いものでした。
自主管理闘争開始から1ヶ月、ホテルの建物と土地の直接の買い手であった不動産会社が、売買契約の破棄を通告してきました。金融危機による地価の降下や、自主管理闘争が要因としてあったといわれています。
経営者である京品実業は、従業員のこれらの行動に業を煮やし、組合の立ち退きを求める仮処分を東京地裁に申請しました。そして、09年1月15日、東京地裁は、経営者が求めていた「立ち退き」の仮処分を認める決定を下しました。退去期限は1月29日です。この決定により、強制執行がなされることになったのです。
・泊り込みの様子~強制執行
このような状況を受けて、この間の京品ホテルの闘争に取り組み、支援してきたさまざまな人々やユニオンは、土日の予定を急遽キャンセルし、強制執行により執行官がホテルの中に入ってくることを防ぐために、24日から26日にかけて泊り込みを行うことを決定しました。支援者は、強制執行がいつ来るかわからないという緊張感のもと、ホテルの広間で待機しました。24時に近づくころには200人近くの支援者が集まっていたと思います。
25日朝7時頃、ついに執行官が、会社が雇った警備員数十名と共にホテルへやってきました。私たちは、ホテルの中に執行員を入らせないためにピケットを張りました。入口を支援者がふさいでいるため執行員はホテルに入ることができず、経営者が雇った警備会社の警備員を使った強制的なピケ排除を行ってきました。
現場は騒然とし、「帰れ!!」「お前たち雇われているだけだろ。自分のやっていることを自分の頭で考えろ」などという怒号が飛び交います。15分くらい押し合いが続きましたが、数においても気持ちにおいても圧倒的に組合側の力が強く、ひとまず警備員や執行官をホテルに入れることを防ぎました。
一旦は退いた経営者側ですが、今度は警察と共同でのピケ排除に乗り出します。道路を隔てた側に次々と機動隊を乗せた警察車両がやってきました。最終的には、5,6台の警察車両が待機していたと思います。警察と私たちが道路を隔てて対峙し、現場の緊張感もピークを迎えます。そんな中、会社側から少しだけ話し合う時間を設けたいとの提案がなされ、従業員側もそれを了解。近くのマックで執行官と従業員側弁護士で40分にもおよぶ話し合いがされました。しかしその後、警察も介入した本格的な強制執行が行われ、約30分の攻防の末、従業員のピケは完全に崩されました。
報道によると、最終的には従業員側300人、経営者側(執行官、警備員、機動隊)1000人以上が現場で争っていたようです。ガラスは割れ、ホテル入り口付近には破れた服などが置かれており、闘争の激しさを物語っていました。ホテル前の歩道では簡単な集会が開かれ、従業員側は、「日本の法律はこのようなことをするためのものなのか」「この闘争はこれからも続きます」と涙ながらに訴えていました。
・振り返って
この「自主管理闘争」は、さまざまな人々やユニオンが共同で闘争に取り組んだものでした。昨年10月から、地方からやってきた労働組合の人々やこのホテルのファンなどは、積極的に京品ホテルを利用しました。忘年会や新年会をこのホテルで行う会社、組合が数多くあり、署名やカンパもたくさん集まったと聞きました。それに今回の強制執行に対する闘争に関しても、緊急であったにもかかわらず数多くの労働組合が集まり、一緒になってピケを張り、連帯して従業員の権利を主張しました。
08年10月から行われていた自主営業闘争は、1月25日をもって第一幕は終了となります。今回の強制執行では従業員側が排除されてしまいましたが、従業員の方のお言葉のとおり、これで終わりではありません。
京品ホテルの問題もそうですが、また、派遣切り問題などにも象徴されるように、いま世論は、企業・経営者の責任を追及する方向へと向かいつつあります。このような状況であるからこそ、さまざまな取り組みをしていく必要性をあらためて感じました。
最新の画像もっと見る
最近の「ニュース解説・まとめ」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事