看護師は日本の医療従事者385万人のうち約3分の1(132,2万人、2007年)を占め、国内の医療というセーフティネットを支えている重要な役職だ。その看護師が現在、現場から年間10万人が離職し続けている状態だという。
膨大な業務量、恒常的な残業と夜勤によって、看護師は医療事故の危険と背中合わせになりながら不眠不休の労働を強いられている。過労死の危険がある看護職員は全国で約2万人に上る。妊娠中にも容赦なく月10回は夜勤が組まれ、職場で流産しかかっている看護師は実に3人に1人はいるという。看護という仕事の「やりがい」に支えられながらも、その労働環境はかくも劣悪だ。激務で疲れ果て、「燃え尽き」て職場を離れてゆく「バーンアウト型」の離職が後を絶たず、人手の不足がさらなる負担の増加を招き、それがまた離職を促進する……という悪循環に陥っているのだ。
このような状況を招いた原因として、筆者は、夜勤の規制緩和や看護師を偏在させる配置といった医療制度改革、そしてなによりも看護師の不足をこれまで認めてこなかった国の責任を追及する。そして、看護師が安定したサービスを提供できるだけの労働環境という点に注目し、医療の質を向上させてゆくには、それに従事する者の労働条件を改善してゆくことが重要であると主張する。
職場環境に関して病院経営者と交渉を行う労働組合の効果にも言及されており、女性の労働という視点も交えながら、制度的な面と労働の現場からの視点を交えての議論がみられる点が評価できる。
看護師の現場の実態を知り、今後の看護労働のありかたを考える上では重要な一冊だといえる。
【本の概要】
著者名:小林美希
書 名:『看護崩壊』
出版社:アスキー新書
出版年:2011年
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