NPO法人POSSE(ポッセ) blog

「心を病んで」(朝日新聞所収)


朝日新聞の生活面、「働く」で3回にわたって掲載された「心を病んで」シリーズは、職場うつの問題を取りあげています。

第1回の「過酷な勤務・暴言…限界」では、「うつ状態」と診断された2人の正社員の方の事例が紹介されています。

システムエンジニアの中原さんは、仕事量が多く、帰宅するのは午前0~3時という長時間労働でした。新人にもかかわらず、仕事は担当者9人中、3番目に多かったそうです。また、失敗すると、上司に蹴られたり、「死んでくれ」と言われたりしたこともあるそうです。手の大量の汗、全身のだるさ、強い不安感に悩まされるようになり、「うつ状態」と診断され、現在も通院中とのことです。

コンビニの「SHOP99」で店長として働いていた清水さんの労働時間は、37日間連続勤務や4日で約80時間と、はるかに過労死ライン(*)を超えたものでした。さらに店長は「管理職」であるとされ、時間外労働に対する割増賃金が支払われていませんでした。腹痛や不眠、吐き気、食欲不振に悩まされ、病院で「うつ状態」と診断されたそうです。現在も復職できるまで体調は回復していません。
(*過労死ライン…厚生労働省が出している過労死の労災認定基準では、発症の直前1ヶ月に100時間以上、または2ヶ月ないし6ヶ月のいずれかの平均で80時間以上の時間外労働していると、疾患の発症と仕事の関連性が強いとされている。)

清水さんの次のコメントは、正社員がここまでの長時間労働や重責・過密なノルマに耐え働いてしまう背景を如実に表しています。

「やっとなれた念願の正社員。それに短期間で辞めたら転職で不利になる」

日本の労働市場において、一度正社員という立場を手放してしまうと、同じような正社員の仕事を見つけることが難しいということは広く知られています。失業保障も脆弱であるため、すぐに生活の糧を見つけなければならず、どんな労働条件の仕事でも飛びつかざるを得ないという現状があります。また、とくにIT産業、小売・飲食などで働く正社員に対しては、常に非正社員化の、あるいは労働条件切り下げの圧力がかかります。こうして、労働者は長時間労働やパワハラといった違法状態を受容する構造に巻き込まれ、その労働は強化されてしまうのです。

しかし、職場に違法状態が蔓延している状況では、確実に働いている人の身体的・精神的健康が害されてしまいます。とくに、心の病は一度発症すると簡単に治すことはできず、そうした「コスト」は、すべて労働者が引き受けることとなります。心身ともに疲弊させられてしまった労働者が声をあげられないのをいいことに、パワハラをした上司・長時間労働をさせた会社は何の責任もとりません。中原さんは、病気と長時間労働の間の因果関係を認め、会社に慰謝料支払いなどを命じる判決が確定しており、清水さんも、未払い残業代の支払いなどを求めた裁判に勝訴していますが、分断されたしまった「キャリア」や元の生活を取り戻すことはできないのです。

こうした現状に対して泣き寝入りしてしまうことは、当事者のみならず、社会にとってもマイナスの影響をもたらします。企業の賃金不払いによるコスト削減、人を使いつぶす・捨てるような競争に対して、きちんと社会的な規制をかけていく必要があります。一つひとつの権利行使が、そうした圧力につながるのです。

うつの問題は、「もともと心の弱い人がかかる」などと考えられるように、従来から個人の性格等の問題に還元されてきました。さらに最近では、いわゆる「新型うつ」に関するさまざまな言説があり、なかには「自分の問題・病気を他人のせいにする傾向」がある、と考えられているものもあります。そうしたなかで、本シリーズ第3部での「働く人の心の病は結局、職場環境の問題に行き着く」という指摘は、問題の本質をついているといえるでしょう。

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NPO法人POSSE(ポッセ)は、社会人や学生のボランティアが集まり、年間400件以上の労働相談を受け、解決のアドバイスをしているNPO法人です。また、そうした相談 から見えてきた問題について、例年500人・3000人規模の調査を実施しています。こうした活動を通じて、若者自身が社会のあり方にコミットすることを 目指します。

なお、NPO法人POSSE(ポッセ)では、調査活動や労働相談、セミナーの企画・運営など、キャンペーンを共に推進していくボランティアスタッフを募集しています。自分の興 味に合わせて能力を発揮できます。また、東日本大震災における被災地支援・復興支援ボランティアも募集致します。今回の震災復興に関心を持ち、取り組んで くださる方のご応募をお待ちしています。少しでも興味のある方は、下記の連絡先までご一報下さい。
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コメント一覧

ほげ
ほげ
> さらに最近では、いわゆる「新型うつ」に関するさまざまな言説が
> あり、なかには「自分の問題・病気を他人のせいにする傾向」があ
> る、と考えられているものもあります。

というのは、「職場には責任がない」と医学側も見なしている表現で
すよね。
「新型うつ」という病気は、本当は社会や企業に作られた病気である
かもしれませんね。
りこ
感銘
http://home.goo.ne.jp/user/riko_1974
このブログとても勉強になる
KOU
感銘
ニュースの問題関心あります
私は新卒入社を逃し小規模零細企業に入り社会人生活をスタートさせましたが、納期前の徹夜残業や高卒上司との軋轢やらで精神を壊して退社いたしました。
自己投資と仕事に励みましたが体を壊したり嫌な叱責を受けて泣き寝入りしてましたが、神のプレゼントか内定取り消しに遭い、二度目は法律を縦に勝ちました。経営者はリスクも背負ってますが、このような風潮が減り幸せな仕事人生を皆さんに期待を込めて私は闘い勝ちました。今は仕事が全てでないと考え改めて再始動に準備してます。大企業程労働環境を整備して
先人の苦労を減らし
たくさんの幸せを仕事から学んでもらいたい
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