「社会人の基礎力、大学で/経産省が授業支援構想/ニート増加に歯止め」
上記は21日の日経新聞夕刊の記事だ。記事は以下のように続ける。
「企業と大学がカリキュラムを開発し、経産省がこれを資金面で支援する。企業の新卒採用は増加傾向にあるが、会社生活に対応できず、就職後にすぐやめてしまう若者も多い。これがフリーターや働く意志のないニートの数の高止まりにもつながっているとみて、教育面での対策に乗り出す」
若者が就職してもすぐに辞めることと、「フリーター」・「ニート」の増大を結びつけ、その対策として大学の授業を企業に開放しようというのだ。
この構想に対して思うところはいくつもある。以下、列挙していこう。
①大学の授業を企業が運営することの意味
まず、なぜ「大学カリキュラム」なのか。先日発表された「成長力底上げ戦略」にも、大学を対象とした部分がある。フリーターの職業訓練を、大学で行うというものだ。
こうした「大学の企業化」とも言える現象が起きている背景は、やはり企業のコスト転嫁だ。これまで人材の育成は企業内部で行われてきた。長期的雇用を行うが故に、初期の人材投資は将来の利益につながると考えたのだ。ところが、今は基本的に長期的雇用の発想を企業はもたない。株価至上主義経済の影響で、短期的利益が優先されるようになったからだ。そのため企業は内部でしっかり教育する体制をとらなくなった。このことが「3年で辞める」要因の一つでもある(近年では改善の必要が財界内部でも議論されている)。
企業の教育コストを減らすためには、それを若者に押しつけることがここでも考えられた。それが、昨今の「資格ブーム」や、大学の企業化の背景だ。大学生もフリーターも、「自分で労働能力を開発しろ。企業に金をかけされるな」ということ。
POSSEで行った「大学生の生活実態調査」(詳細は近日中にHPに上げます)によれば、大学生のバイト率は80%を超える。また、バイト代を資格などの自己投資へ向ける傾向も確認された。今や、学生は「フリーター」の生活実態に近いといえる。しかも、フリーター並に働きながら、「即戦力」になるための自己投資も行わなければならない。
もはや、大学生に「モラトリアム」を謳歌する暇人などほとんどいない。旧来の意味での「社会人」と化しているのだ。
②若者がすぐ辞めてしまうのは、教育のせいなのか?
本文では、「失敗しても粘り強く取り組む力」「問題意識を持ち考え抜く力」「目標に向け他人と協力する力」を教育によって高めるとしている。しかし、今の若者が無気力で役に立たない、というのは偏見に過ぎない。
たとえば、「フリーター」はだらだらしていると思われがちだが、POSSEの調査ではその7割が正社員並に働いている。実際「基幹パート」という言葉使われるようになっている。フリーターやパートの若者が、もはや企業の中枢業務を担っているのだ。飲食店などでは、学生バイトがバイトを採用し、給与を計算し、仕入れ、調理、接客、経営まですべてになっているところも少なくない。考えてみれば、大手飲食店の店長がすでにフリーターばかりなのだから、それもあり得る話だ。「社会人基礎力」なるものがない若者が、現代社会の底辺を支えているわけだ。
また、『若者はなぜ3年で辞めるのか』という新書がはやっている。今の企業にいても、団塊の世代の退職金を稼ぐためにこき使われるだけ。しかも、年功の壁が厚いので、若者はつまらない雑用ばかりを押しつけられる。もちろん残業代など出ない場合が多い。こうした実態こそが、若者の企業で働く気を奪っているという意見である。
③若者のやる気がなくなっているから、フリーターが増えるのか?
最後に、若者の変化がフリーターを増やしている、との経済産業省の認識もステレオタイプでしかない。すでに多くの所で指摘されているように、フリーターは政府・財界が望んで増やしてきた。若者の心理の結果ではない。たとえば、有期雇用労働者の契約期間の上限を延長する法改正や、派遣労働を解禁・拡張する法改正などは、まさにフリーターを増やすことを狙ったものだ。
旧日経連(現経団連と合併)が95年に出した有名なパンフレット「新時代の日本的経営」においても、フリーターの増大が今後の日本企業にとって重要であることが主張されている。この間の労働法改正は、実はこの財界の要望をそのまま法律に書き込んできたといっても過言ではない。
つまり、フリーターが増大してきたのは、政財界の政策の結果であり、前述の『若者はなぜ3年で辞めるのか』でも、企業が正規社員の採用を控えて、派遣や契約社員を巧みに活用している実態がつづられている。企業としては、バブル時代に人材を無計画に採用しすぎたつけがまわってきているのだ。それに加え、「今後はバブルのときのようにならないように、なるべく長期的雇用は控えましょう。その方が企業のリスクは押さえられる」、ということになっているのだ。このように、財界は、雇用コストのリスクを押さえ、若者に生活にリスクを転嫁しておきながら、そのことに感謝するどころか「若者がおかしくなった」と言っているのだ。
結局、こうした構想の目的はコストの若者への転嫁でしかない。
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蘭一輝
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