NPO法人POSSE(ポッセ) blog

2010年1~3月の労働相談の状況報告

●労働相談の概況
 この間の労働相談は、1月17件、2月14件、3月30件と、3ヶ月間で合計61件に上りました。
 相談内容としては、解雇24件、賃金未払い20件、パワーハラスメント(以下、「パワハラ」という)19件の順に多く寄せられました(1件の相談のうちに複数の問題を含む場合は重複して計上)。相談者の雇用形態別にみると、正社員が23件と全体の約半数を占めています(不明分を除く)。今季の傾向としては、解雇の相談が多く、特にそれに対する労働基準監督署の対応に問題があるのではないかと思われるものに着目し、次章で詳しくご紹介いたします。
 2010年第1四半期(1~3月) 労働相談の状況(PDF形式)
 
●傾向の分析と今後の活動方針                        
あるデザイナーのアシスタントとして勤めていた女性からの相談です。彼女は、昨年の9月に会社に「今日で辞めてもらえないか」と言われました。そこで労働基準監督署(以下、「労基署」)に相談に行ったところ、辞める時に会社に解雇理由の証明書を交付してもらい、後述する解雇予告手当を受け取るように相談員から助言を受けました。彼女は辞めた後に、解雇理由証明書を請求したところ、実際には退職証明書が提出されました。解雇の事実と異なる書類を渡された彼女は、もう一度労基署に相談に行ったところ、「退職証明書では、解雇予告手当の請求はできません」と返答されました。途方に暮れた彼女は、NPO法人POSSE(ポッセ)に相談にいらっしゃいました。しかし、その時にはすでに辞めてから半年近く経っていて、どうすることもできない状況でした。
この事例からは、労基署の対応の不備がみられます。特に、2点問題があります。1点目は、解雇の相談を解雇予告手当の問題に限定してしまったことです。今回の解雇の相談に対して、労基署は解雇予告手当の請求を勧めました。労働基準法では、解雇予告を30日前に行うか、または予告なしに解雇する場合には、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払うことを使用者に義務付けています。これを解雇予告制度といい、その運用を担保する役割を担うのが労基署です。しかし、この1カ月程度の予告制度さえ守られていれば、労働者の生活の安定を保障することができるのかといえば、そうはいえないでしょう。一度離職してしまうと、失業時の生活や再就職後の生活が不安定になることの多い日本では、1カ月程度の賃金では、生活を安定することはほぼ不可能です。そもそも、きちんとした理由がないにもかかわらず、解雇が容易に許されてしまっては、安心して働くことができません。そこで、労働契約法16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効」としています。すなわち、きちんとした理由のない解雇はなかったことにし、労働者が在職し続けることを認めています。したがって、解雇の相談の場合、予告手当を問題にする前に、解雇そのものの有効性を問うていくことが非常に重要になります。
しかし、それでも一度「クビ」と言われた会社に戻りたくないという方も、多分にいらっしゃいます。その場合には、先述の労働契約法16条にある「社会通念上相当」という条文が使えるでしょう。これは、使用者は労働者を解雇する場合に、再就職先を斡旋したり、失業時の生活を経済的に補償したりする措置を取らなければ、その解雇は相当とは言えず権利濫用になるということです。この規定を逆手にとって、解雇は認めるとして、その後の失業によるリスクを会社に補填させるよう要求することができます。また、この時に、予告手当も問題にするといいでしょう。
先述のように、解雇の有効性を規定しているのは労働契約法ですので、労働基準法上の問題を扱う労基署に相談に行ったとしても取り合ってくれません。しかし、取り扱えないとしても、労働契約法上の規定の存在を説明することはできなかったのでしょうか。労働者の生活を大きく左右する解雇の相談に対して、予告手当だけを問題にしたこと。つまり、労働者の生活が安定するような可能性がそもそも低いような問題に限定してしまったこと。こうした点で労基署の対応は、問題があるのではないかと考えられます。
2点目は、離職前に確実に証拠を残すように助言しなかったことです。今回の場合では、予告手当の請求に際して、労基署は解雇理由の証明書を証拠として求めました。しかし相談者は会社に証明書を求めてみると、異なる書類が渡され、しかもその時にはすでに離職していたため、書類の内容の撤回を要求することも難しくなってしまいました。ここで重要なのは、離職する前に証明書を用意するように強調することなのです。在職中であれば、会社との雇用関係が存在するので、書類を請求し、受け取ることは難しくありません。しかし一度離職してしまうと、会社が管理している証拠を要求するのは難しくなってしまうのです。これは解雇以外の問題にも言えると思いますが、会社が保有している書類で証拠となるものは、辞める前に確実に受け取るようにしましょう。
重複しますが、解雇の問題の場合、労基署は、労働契約法に関係する解雇の有効性や離職後の経済的補償を問題にしてくれません。したがって、個人加盟のコミュニティ・ユニオンに入り、会社と交渉したり、訴訟を起こしたりすることが、解雇の問題に対する最善の解決策になるのではないでしょうか。


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NPO法人POSSE(ポッセ)は、社会人や学生のボランティアが集まり、年間400件以上の労働相談を受け、解決のアドバイスをしているNPO法人です。また、そうした相談 から見えてきた問題について、例年500人・3000人規模の調査を実施しています。こうした活動を通じて、若者自身が社会のあり方にコミットすることを 目指します。

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