NPO法人POSSE(ポッセ) blog

労働相談の報告(2011年4~6月)

                   
●労働相談の概況

 この間の労働相談は4月23件、5月33件、6月28件と、3か月間で合計84件にのぼりました。
 相談内容としては、賃金未払いが25件、解雇が15件、パワー・ハラスメント(以下、「パワハラ」という。)が26件と大半を占めました。(1件の相談のうちに複数の問題を含む場合は重複して計上。)パワハラに関する相談は、依然として多く寄せられています。
 相談者の雇用形態としては、正社員からの相談がもっとも多く、40%を占めていました。
(詳細については、別添「2011年4~6月労働相談状況」(PDF形式)参照)


●傾向の分析と今後の活動方針

今季の相談傾向を見ると、パワハラに関する相談が多数を占めていました。これは昨年の夏頃から続いている傾向です。
昨年の4月~5月の傾向としては、退職勧奨が退職強要にいたるケースが目立っていました。これは、退職勧奨を受け入れさせるために、パワハラで労働者を追い込んでいくというものでした。
今季も退職を迫るためのパワハラは依然としてみられます。しかし、今季においては、このような目的が明らかではない、単なる嫌がらせが行われているという印象の相談が目立っています。そこで、以下で今季に寄せられているパワハラの内容の詳細を検討していきます。

まず、パワハラの具体的な内容としては、仕事上のミスの責任を押し付けてくる、私生活に不当に介入してくる(机を見る、職場外での人間関係に口を出す)などがあります。さらに悪質なものとして、暴力を振るったり、指示に従わない場合に、「損害賠償を請求する」、「懲戒解雇にする」などの脅しをおこなってくるようなケースも複数みられます。また、パワハラで体調を崩し、退職届を出したにも関わらず辞めさせてもらえない、というケースもありました。

次に、パワハラの行われている会社においては、適切な労務管理がなされていない傾向があります。例えば、長時間労働や賃金未払いが存在したり、タイムカード等によらず恣意的な労働時間管理がなされているということがあげられます。また、仕事を教えないなど、労働者を育てるという気のない会社もみられます。また、企業の規模としては比較的小規模な企業の労働者の方の相談が多い傾向にありますが、大規模な企業の労働者の方からの相談も存在します。

最後に、相談者の方の意識としては、会社を辞めることを前提として、辞めることは問題ないかどうか、会社都合で辞められるかなどの相談が多数であり、退職後に相談に来るといった方もいます。パワハラをやめさせて職場にとどまりたいと考える方は少なく、全体的に求める解決の水準は低いものに留まってしまっているようです。

先にも述べたように、昨年夏と比べると選別の意図が明らかでなく、職場が無秩序であるがゆえに起きているという印象のケースが多数を占めています。そこで、以下では現状の背景を分析していきます。

近年のパワハラ増加はどのような要因によって引き起こされているのでしょうか。この点、日本の労働者は、世界的にみても長時間労働や過労死など過酷な労働条件であることが指摘されてきました。これは、日本の企業が労働者に対する広範囲に及ぶ強度な指揮命令権の行使を認められてきたことによるものです。企業側のいき過ぎた指揮命令は権利の濫用と考えられますが、この濫用の範囲が非常に狭く考えられてきたのです。
こうした指揮命令権のあり方は、終身雇用と呼ばれる長期雇用慣行と対応したものでした。すなわち、新卒労働者をひとたび雇ったならば、定年まで雇用し続けることが社会規範であるとされており、その一方で社員には高い機能的柔軟性が求められたのです。
しかし、90年代以降、終身雇用と呼ばれる長期雇用慣行は徐々に解体してきました。そして、現在の企業は、対応関係にあるはずの長期雇用という前提はないが、強力な指揮命令権の行使は維持するという状況になっています。
長期雇用が前提として存在していれば、労働者の長期的な技能教育や適切な人間関係作りなどが必要になってきます。そこでこれらの必要性が、企業内部において強力な指揮命令権の行使に一定の限界を画してきたと考えられます。よって、現在のパワハラの増加は、この指揮命令権の制約が外れたことによって起こっていると考えられます。

そして、パワハラとして問題化している指揮命令権の逸脱は主に3つに類型化できると考えられます。
第1の類型は、強力な指揮命令権を背景として、労働者に過大なノルマを課していくというものです。これは、長期雇用という規範が無くなったため、過大なノルマにより労働者が体調を崩した場合には雇用関係を解除して別の労働者を雇えばよいというもので、使い切り型といえます。
第2は、企業の求める労働者かどうかを雇用関係を結んだ後に判断し、企業の求める内容と適合的でない労働者を退職に追い込むなどの目的を持って指揮命令権を行使するといものです。これも、長期雇用慣行の下では社会的非難が大きく実行は難しかったと考えられます。このような類型は選別型といえ、昨年の相談で多く寄せられたのはこの選別型のパワハラであったといえます。
第3は、職場秩序を維持できなくなっているがゆえに起こっているものです。無秩序になっている要因は、まず、長期雇用慣行の解体によって長期的な視野に立った人間関係の構築を考えなくなったことがあげられます。また、長期雇用を前提とした教育訓練が行われていた時期においては、企業の育てた労働者にやめられるということは企業にとっても不利益が大きいので、労働者をフォローする体制が存在していたと考えられます。しかし、長期雇用や教育訓練をしなくなったことによって、それを前提としていた職場の秩序も解体していくといえるでしょう。その結果、上司から非合理的なパワハラを受けるという表れ方をしていると考えられます。これは、逸脱型のパワハラといえ、今季において寄せられた相談はこの類型が多かったのであると考えられます。
このように、相談におけるパワハラの傾向の違いは、あくまで表れ方の違いであって、同一の背景の下に生じていると分析できます。

次に、相談者の方のパワハラの問題に対する解決の意識が、低水準にとどまってしまっているという問題について検討します。
これについては、パワハラによりうつになってしまう方も多く、会社に権利の主張をしていくことが困難であるため求める解決の水準が低くなってしまっている、さらに、職場環境を是正させたり補償を求めていくことが、当然の権利として認識されていない現状があるということがいえます。
 民事の領域においては、当事者が主張することによって初めて権利の実現が可能となります。しかし、権利を主張するということは、現実に様々な負担が必要となる場合があります。例えば、労働審判や団体交渉という手段で権利を主張する中で、パワハラの加害者とのやり取りが必要になることもあります。このため、うつになってしまっている方の場合、この負担に耐えられないために本来法律で保護されているはずの権利を実現することができず、求める解決水準が低くなってしまっているといえると考えられます。
 これは昨年の7~9月に紹介した内容(労働相談の報告(2010年7~9月))と同一の問題といえ、依然として課題となっています。

最後に、今後の活動の方針について述べておきます。
パワハラの問題については、日本型雇用の解体とともに、企業の強力な指揮命令権に対する歯止めがかからなくなっていることが中心的な要因であるといえます。また、同時に、その行為が適法か違法かの境界が明確でないという問題があります。そこで、必要となってくることは、不当な指揮命令を行っている企業をとりあげて、社会的に非難していくことによって、企業の指揮命令権について社会的な規制をかけていくことです。そして、社会的・実質的な規制を通じて、法的な解釈や規定を変更させたり、新たに作り上げていくことが必要になります。
NPO法人POSSE(ポッセ)としては、労働相談を継続的に受け続け解決につなげるなかで、より多くの事例を収集し、その問題点や不当性を雑誌やキャンペーンを通じて社会に訴えていく取り組みが重要な課題となります。
うつの問題については、第一に、うつなる前に相談できるような環境を作る必要があります。そのためには、労働相談活動の取り組みの他、事前に労働法で保護されている権利について労働者に周知させる取り組みが重要になると考えられます。そこで、学生に対する労働法教育の活動に力を入れていきます。第二に、実際にうつになってしまっている場合でも、企業に責任追及していけるような環境作りが必要です。現在は、相談から解決までの継続的なサポートや、少額訴訟などの制度の活用の検討などを行っています。



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NPO法人POSSE(ポッセ)は、社会人や学生のボランティアが集まり、年間400件以上の労働相談を受け、解決のアドバイスをしているNPO法人です。また、そうした相談 から見えてきた問題について、例年500人・3000人規模の調査を実施しています。こうした活動を通じて、若者自身が社会のあり方にコミットすることを 目指します。

なお、NPO法人POSSE(ポッセ)では、調査活動や労働相談、セミナーの企画・運営など、キャンペーンを共に推進していくボランティアスタッフを募集しています。自分の興 味に合わせて能力を発揮できます。また、東日本大震災における被災地支援・復興支援ボランティアも募集致します。今回の震災復興に関心を持ち、取り組んで くださる方のご応募をお待ちしています。少しでも興味のある方は、下記の連絡先までご一報下さい。
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