ぽてとの日記

ぽてと君が語ります。

ある春の日に・・・

2010-12-18 21:52:51 | ファンタジー
いよいよ本格的な冬の到来。
街ゆく人は、コートの襟を立て、足早に歩いているように見えます。

さあ、お話の続きを始めましょう。

第二章 新米主婦

 第一節 なんてこった

  その6 ある春の日に・・・

その日は、よく晴れていて、ぽかぽかと気持ちのよい日だった。

奥さんは、洗濯物を干すため、玄関から庭に出ようとした。とその時・・・

何やら外から、かん高い話し声が聞こえる。右隣のあのオバハンの声だ。

奥さんは、外に出るのをやめて、玄関の内側でちょっと様子をうかがうことにした。

「草、はえたねえ、なんてこったぁ」

「あぁ、よくはえた、はえた」

話の相手は、左隣のおばあさんだ。

奥さんの家の庭をはさんで、柵ごしにしゃっべている。
庭といっても、自動車一台分ぐらいの大きさしかないから、充分、声は届く。

「奥さん、まだ結婚して、ここに来たばかりだから、家の中のことが忙しいんだろうね。
 外まで手が回らないんだろね」

「そぅかい、そぅかい」

「こんなに草ぼうぼうじゃ、とるのも大変だろね」

「おぅおぅ、草どころじゃなくて、アツアツかいのお」

「親が近くにいるわけじゃないみたいだし
 きっとひとりでてんてこまいしてるんじゃないのかな。
 慣れるまで、大変だよね」

「旦那はやらないのかのお、草取り」

「旦那さん、休みの日は、レコードばかり聴いてるみたいだよ。
 おっきな音だからさ、うちにもよく聞こえて来る」

「え?何?聞こえてくるのかいなあ」

「レコード、レコードだよ」

「え?何?」

「レコードだってば!音楽聴いているんだよ。オ!ン!ガ!ク!」

「え?ガクガク?・・旦那は、そんなに弱いのかい」

「もー、セツさん、違うってばあ~」そう言って右隣のオバハンは、
セツばあさんの家の方に行き、ふたりは、家の中に入ったらしく
話し声は聞こえなくなった。

外に出ずに、玄関の内側でじっとしていた奥さんは
「草取りかあ・・・今日やろうかなあ・・」

洗濯物干し、朝食の後片付け、布団干し、掃除、荷物整理・・・。
新米主婦にはどれも大仕事だ。気がつくと、もう正午を過ぎている。
奥さんは、午後一時頃になってやっと草取りに取り掛かった。

草をむしれば、何やら虫はぴょんぴょん、黒アリはあちこち。
奥さんはしかめ面をしながら、ぼっそぼっそと草取りを続ける。
「おかあさーん」と言って逃げ出さなくなった。随分、進歩したものだ。

すると、奥さんの頭の上から声がした。
「オヤ、始まったね」

奥さんが顔をあげると
あのセツばあさんが、柵ごしに、にこにことこっちを見ている。
年格好、顔かたち、「となりのトトロ」に出てくるカンタのおばあさん(サツキと
メイの世話をよくする)にそっくりだ。
「たくさん、生えたねえ」

「ええ、まあ・・あの・・」

「いいのよ。新婚さんなんだから、草なんて後回しでいいの、いいの」
セツばあさんは、少しいたずらっぽく笑った。

「いえ、その・・・」

「おや、草の間からチューリップが顔を出してるねえ」

「うちの人、庭のことなんかやらないのに・・どうしてなんでしょう・・・」

「あ、これはねえ、旦那さんがここに来て三年になるけど、その前に住んでたご夫婦の
 奥さんがねえ、とても花好きな人でねえ、いろんなの植えてたんだよ。それがまだ
 こうして咲くんだねえ」

「あ・・そうだったんですか・・・」
奥さんは恥ずかしくなった。
ここに花壇を作って庭をきれいにしてた人がいたなんて・・・。
なんだか申し訳ない気がした。

再び草取りの手を動かすと、奥さんは芝生のような草をつかんだ。
「あのう、これ、芝生ですよねえ、でも花が咲いてるんですけど、
 芝生って、花、咲きます?」

「はははははは、奥さん、なんにも知らないねえ。
 都会育ちかい?」
セツばあは、前歯が数本抜けた口を手で押さえながら笑った。

「ええ、まあ・・私の父は植木に凝っていて、実家の庭にはいろんな種類の
 竹やら梅やら松やら・・山椒の木とか・・ツルウメモドキとか・・
 木はいろいろあったんですど・・・・」その先、奥さんは、自分が虫が大嫌いで
土いじりなんてしたことがなかったとは言えなかった。

「それはね、芝桜っていうんだよ。それはピンク色だけんど白いのもあるんだよ。
 毎年咲くからね。それは、抜いちゃあだめだよ」

「あ、そうなんですか、気をつけます」
奥さんは、芝桜を抜かないよう、注意しながら草取りを進めると
「あ!痛っ!」

「おぅおぅ、そこにはツルバラがのびてきているよぉ」

ふたりは、顔を見合わせて笑った。

キーと自転車が止まる音がした。
「おやおや、おじいのお帰りだよぉ」
セツばあの旦那さんが帰ってきた。
「うちの人は、もう年だけんど、近くの市営公園の掃除に毎日行ってんのさあ。
 運動にもなるんしねえ」

白の作業服と作業帽、セツばあより少し背が高くてほっそりしているが、
日焼けした顔は健康そうだ。
チラッとこちらを見て家に入っていってしまったが、おとなしくて
優しそうな目をしていた。
「さあぁ、おじいの世話じゃ世話じゃ」
セツばあは、ひとりごとのようにそう言って、少し曲がった腰に手を当てて、
ゆっくりと家に入って行った。

その背中に温かいものを感じながら、奥さんはセツばあの後ろ姿を眺めていた。

と同時に奥さんは、庭で草花を育て世話をする自分の姿を思い描いていた。 

「さあ、つづき、つづきっとぉ!」
奥さんは草取りの続きを鼻歌まじりで始めた。

その背中には、春の優しい日の光がふりそそいでいた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

新米奥さんも、いろんなことを見たり聞いたりして
少しずつ成長しているみたいですね。

次回更新は、少し間があきますが、二月上旬の予定です。

2011年が皆様にとって良い年になりますよう、心からお祈り申し上げます。

                          ぽ・て・と

大行列

2010-11-22 20:30:17 | ファンタジー
木々の葉達が、ひらりひらりと舞い始め、
いよいよ冬将軍が近くまで来ていることを感じるこの頃です。

朝夕はかなり冷え込む日もありますが、
あの37度やら38度やらの猛暑よりも、ずうっと楽に思えるのですが・・・。

さて、また、お話の続きを始めましょう。
実は、今回のお話は、少々気色悪いお話なので、お食事中やお食事直前・直後の方は
しばらくたってからお読みください。

第二章 新米主婦

 第一節 なんてこった

  その5 大行列

その日は、春だと言うのに、とてもむしむしとした日だった。

奥さんは、いつものように夕飯の支度を終わらせ、あとは盛り付けをするだけという
段階になっていた。
そこに、いつものように、旦那さんが帰ってきた。
そして、いつものように、着替えをするため、部屋のクローゼットの前に行った。

すると・・・
「ひゃー、出たあああー」
すっとんきょうな声が上がった。

奥さんはびっくりして、台所から部屋をのぞきこんだ。

「出たああ~出たああ~」
旦那はあわてふためいて、クローゼットの下の方を指差している。

(もしかして、ゴキブリ?!)
いよいよ出たかと、奥さんはゾゾッとしたが、ゴキブリらしきものは見当たらない。
「???」

「そこだよ!下!下!」

クローゼットの下は引き出しになっていて、そこの下からなにやら細かい黒いものが
行列をなしている。

「え?何これ」

「よく見てみろよ。お前、今日、気がつかなかったのかよ!」

奥さんは、ど近眼なので、うんと顔を近づけて見た。

アリだ。アリの大行列だ。羽がついている・・・。

「あ・・・・・・・・」

実は、この奥さん、大の虫ぎらい。
蝶もトンボもバッタもセミもつかめず、家に入り込んできたものなら、
実家のころは「おかあさ~ん」と母親をよんできて、つかまえてもらい、その様子を遠くから
離れて見てる始末。まして、ゴキブリなんぞ見たものやら「きゃ~」と言って
隠れてしまい、母親がばったばったとスリッパで格闘している音だけを陰で聞いている
ありさま。
なのに、大量に群がっているアリの大群に、目をくっつけるようにして見てしまい
もう、奥さんの背中も手足も針金になってしまったようにガチガチになってしまった。

発信源は引き出しの奥らしい。旦那が引き出しを引っ張り出して奥をのぞいた。
「こりゃすごいや。お前も見てみろよ」

奥さんはいやだとも言えず言われるままに、のぞきこんだ。
奥さんの目には、大量の黒い砂のようなものが一面に広がって
ゾヨゾヨとうごめいているように見えた。
「イ・・・・・・・」
奥さんは、もう、言葉どころか、声も出なかった。

「おい、お前、なんとかしろよ」

「エ・・・・・・・」

「嫌がると思って、まだ言ってなかったけど、
 毎年、今頃出るんだよなあ」

「マ、マイ・・・・」

「ほら、殺虫剤」

奥さんは、実家にいた頃のように「お母さーん」と言ってどこかに隠れたい
気持ちでいっぱいだった。でも、今は、旦那さんと自分しかいない・・・。
奥さんは、自分の弱みを見せたくなかった。しっかりとした奥さんでいたかった。

手渡された殺虫剤を震える手で握り締めながら、顔をしかめて薄目になって
敵に向かって吹きつけまくった。
黒くどよどよとうごめいていた動きが止まり、一面の黒い砂のようになった。

奥さんはもう生きた心地はしなかった。顔はこわばり、手の感覚もなくなっていた。

「おれ、風呂入ってくる。掃除機で吸い取っときなよ」

奥さんは、言われるままに掃除機で吸い取り始めた。
じゃかじゃかと吸い取られる音がする。奥さんは背中がぞくぞくした・・・。

旦那が、風呂から上がってきて、夕飯になった。

「オイ、食べないのかよ」

「イエ、アノ・・・」

奥さんは、いまだに手の感覚がなく、口が渇ききって
のどもこちんこちんになってしまっている。黒い物体が脳裏から離れない。
食欲なんぞあるはずもない。

「せっかく、うまいのに。あったかいうちに食べろよ」

「ハ、マア・・・・」

奥さんは、なんとか少し口にほおりこんだ。

たった一人で、生まれて初めての害虫退治。
あの黒くうごめく大量の黒砂の映像が頭から離れない。
食べても何の味もしない。箸もうまく動かせない。

旦那は、そんな様子に気がつかずに
いつものようにテレビのニュースを見ながら、むしゃむしゃと食べている。

旦那がテレビのほうを見てるすきに、奥さんは自分の分を台所にそおっと
運び出した。

「オイ、もう食べたのかよ」

「エ、モウ・・・・」

「ま、いいけどさ」

食事が終わって、旦那はいつものように大音量でレコードを聴き始めた。
もちろん、奥さんも横に座って聴いているわけだが、
奥さんの耳は奥までコチコチになっていて、どんな音楽がなっているのか
わからない。目だけは、ぱちぱちとやたらまばたきの回数が増えている。
またクローゼットの下から新たな大行列が始まっているのではないかと思うと
音楽を楽しむどころではない。

しばらくして、寝る時間が近づいてきた。
布団を敷くのは、あのクローゼットのある部屋だ。

奥さんは、おそるおそるクローゼットの下のほうを見た・・・・・。

・・・・いた。また、いた。最初ほどの量ではないが・・二、三十匹はいる。
奥さんは、声も出ずに、立ちつくした。

旦那が歯を磨きながら、様子を見に来た。
「あーあ、またいるなあ。いつもこの時期こうだ。
 でも、いつの間にかいなくなるのさ。一週間位で」

(え?!一週間!そんなにつづくの!)奥さんは心の中で叫んだ。

「おい、早く布団、敷けよ」

奥さんはまたアリ退治をして、布団をひいた。

布団にもぐると、旦那が言った。
「ねえ、結婚してこれまでに、こんなはずじゃなかったってことある?」

「・・・・・・・・・・・・・」奥さんはジイイと天井を見つめて
(何言い出すんだろこの人・・・・・)
「大有りだあ!」と叫びたいところだったが、天井を見つめたまま
なぜか小さく首を横にふっていた。

と、その瞬間、旦那の大イビキ・・・・。

奥さんは、こうして横になっているうちにも、また、アリがじわじわと出てくるのか
と思うと、布団の中にいても、体ががちがちになっていた。
(今日は眠れないかもしれない・・・・・)
ずうっと天井を見つめていた・・・・・・でも、奥さん、アリとの格闘で相当疲れたみたい。
いつの間にか小さな寝息をたてていた。

それから、次の日も、そのまた次の日も、奥さんとアリとの戦いは続くのだった・・・・・。

この造り付けのクローゼットの後ろ側は、あの水漏れのしている風呂場になっていることが
なにやら関係があるのかもしれない・・・・。

でも、この若い新米主婦は、そこまで気が回らず、とにかく、殺虫剤と掃除機を持って
大奮闘の毎日・・・・。

奥さんが毎日歯をくいしばって頑張った結果、
旦那が一週間と言っていたのが、四日目にして、アリは出なくなった・・・・・。

奥さんの食欲ももどり、
こわばった笑顔は、また、自然な優しい笑顔に戻った・・・・・。

旦那は・・・・相変わらずだった・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

いやあ~、アリ騒動も一件落着!
良かったですなあ。
虫嫌いの奥さん、ひとりで、よく頑張りましたね。

今回は、あまりきれいな話ではなくてスミマセンでした。

それにしても、新婚早々、こんなアリ騒動とは、なんてこっただね。

次回、更新は、12月中旬の予定です。

寒さも本格的になってきますので、風邪をひかないように、
体調管理をしっかりとなさって、元気にお過ごしください。  

そろそろ大掃除の時期がやってきますね。こんな害虫大量発生を防ぐためにも、
しっかり掃除したいものですなあ。

ふたり、それぞれ

2010-10-31 21:54:05 | ファンタジー
秋の到来かと思いきや、はやくも、冬のような寒さになってしまいましたねえ。
ついこの間まで猛暑だって言っていたのに、この急激な温度変化にはビックリです。

では、お話の続きを始めましょう。

第二章 新米主婦

 第一節 なんてこった

  その4 ふたり、それぞれ

受話器から聞こえてくるnacoの声が、ひそひそ声になって
「食事に誘われたことあるって、いつか言ってたよね」

「食事じゃないよ、お茶だよ」

「お~、充分、充分。eちゃんが仕事の書類を届けに行ったりしてるうちにさ、その人に
 気に入られちゃったんだよね。将来は教授になることが約束されてる人だったんでしょ~、
 私は、いい話だと思ってたけどね~。でもさ、eちゃんには、その頃、次々と
 お見合いの話がきててさ、大変だったんだよね」

「親も心配してたんだよ。女はクリスマスケーキって言われてるからね。
 26過ぎると陰でオールドミスって言われちゃうもんね。うちは、母もおばも
 いとこもみんな、23で結婚してるから、23で結婚させなきゃって母も一生懸命
 だったみたい・・・」

「でもさ、たくさんきてるお見合いの話の中で、eちゃんが写真を見て断わり続けてた人が、
 旦那になっちゃうんだもんね。ビックリだよお~」

「だってさあ、最初に見たスナップ写真、スキーの格好してスキー場で撮った写真
 なんだもん、私、スキーなんてやったことないし。 二枚目の写真は、ダイビングの
 格好して海で撮った写真なんだもん。私、海なんかもぐったことないし・・・」

「あはははははは、eちゃんの旦那ってスポーツマンだよね。
 でもさ、紹介の人に、とにかく一度会ってみなさいっていわれて、会ってみたら、
 クラシック音楽の話題でふたりは盛り上がっちゃったんだよね。
 で、ふたりはクラシックコンサートに一緒にでかけるようになってさ、
 そのたびにeちゃんが楽団の演奏の批評をすると、相手が感心して聞いてたって
 言ってたよね」

「私、そんなことも、nacoに言ってたっけ・・・」

「言ってた言ってた。ちゃんとこの耳で聞いたからね~。
 そこで、eちゃんは迷ったんだよね、例のあの人とさ」

「もう、いいよ、そんな話、べつに彼氏ってわけじゃなかったんだから」

「それで、eちゃんとしては、めずらしくも思い切って・・ドレ、ドレ・・
 えっとお~何って言ったけ・・」

「ドレスデン国立管弦楽団」

「そうそう、それそれ。それを聞きに行きませんかなんて、誘ってみたんだよね」

「だって・・・ほんとの気持ち、確かめとかないとさ、お見合いの話の方が
 進んじゃうんだもん・・・。もう、いいよ、いまさら、そんな話しなくて・・・」

「そしたらさ、例の人は、‘そういうのがあるんですか。僕、コンサートなんて
 いったことがないんです。家に帰るとやることなくて、ただボーっとしてるだけで、
 家でやることないから、休みの日でも研究室に行く。研究室には、やらなきゃいけない研究が
 いっぱいありますから’って。 それを聞いて、eちゃんは、いっきにさめちゃったんだよね」

「そんなことまで、nacoに言ってたっけ・・もう、いいよ、言わなくて」

「私、ちゃんと覚えてますからねえええ」

「私の父も研究者だったけど、趣味も多くて、家では、機械をいじったり、植木の手入れをしたり、
 魚料理したり、鳥を飼って世話したり、大工道具そろえて日曜大工を楽しんだり・・
 そういう父を見て育ったから、家でボーっとしてる男の人なんて考えられなかったの」

「じゃあ、そのコンサート作戦は、相手を確かめるのに、大成功だったってわけね、
 えっと、ドレ、ドレス、ドドレス・・」

「ドレスデン国立管弦楽団!」

「ま、何でもいいや。でさ、結局行かなかったってわけか」

「実はね、それね、そのあと・・・」

「あ!今の旦那と行ったんでしょ」

「そしたら、目を輝かせて喜んでくれて、コンサート終わったあとも、ドレスデン
 の奏でる音の素晴らしさを語り続けててね、それ見てて、この音の素晴らしさを
 こんなに理解して感激できる人なんだなあって、気持ちがほっこりしちゃって・・」

「そっかあ、決め手はそこだったのかあ。それにしても、コンサートの反応で
 ふたりを天秤にかけるとはねえ~」

「そうじゃないよ。それから、コンサート以外にも、相模湖とか、箱根とかいろいろ
 出かけてね、紅葉を見に行ったときにね、もし家庭をつくったら、この紅葉のような
 自然の美しさがわかる子供に育てたいって言ったの。それが決め手かな・・」

「ハイハイハイ、おぉ~」

「それにね、音楽のことになると、目をキラキラさせて、曲のこととか楽団のこととか
 ほんとにたくさんのこと聞かせてくれるの!」

「ハイハイ、ごちそうさま・・・・・もう、この辺にしておこうかしら。
 ところで、きのう、給料日だったよね、ボーナスもそのうち出るしさ、旦那のボーナス
 楽しみだよね。何買うの?」

「え?給料日?ボーナス?」

「何言ってるの。奥さんが家計を預かるの普通でしょ。今ねえ、何を買うか旦那と
 相談してるんだけどさ、家計を取り仕切っているこの私がもっちろん
 主導権をにぎってるからね!」

「・・・・・・・」

「あれ?違うの?ごめんね。変なこと言っちゃたかな?ごめんね」

「ううん、いいよ、うちはね、旦那様が大蔵大臣なんだ。大臣の眼鏡にかなった
 ものしか買えないの。うちの人は、超安売りのスーパーを知っていて、
 そこから何でも自分で買ってくるの。自分が買ってきたもので料理しろって」

「ふううん。それじゃあ、eちゃん、好きなもの買えないねえ・・・」

「うん、でも、お金は、旦那様が稼いだものだから、旦那様のものだもんね」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・」

会話が、ちょっと途切れた時、奥さんは、ふと時計を見た。
三時半だ。もう、かれこれ一時間もしゃべっていることになる。

「あ!もう、こんな時間!」

「どうしたの? eちゃん、これから、どっか行くの?」

「違うよ。夕飯の支度だよ」

「えええええええ!もう、始めるのお~?」

「だって、私、まだ要領わるくて・・・」

「新米主婦だなあ~」

「nacoは大丈夫?」

「今日はね、どっか食べにいこうかなんて、旦那と約束してるんだ」

「ふうううん・・・・」

「じゃ、eちゃん、またね。元気で頑張ってね」

「ありがと。nacoもね」

「バイバ~イ」

「バイバ~イ」

受話器を置くと、奥さんは、大急ぎで、夕飯の支度に取り掛かった。
そして、冷蔵庫をあけた。冷蔵庫のなかには、大蔵大臣が買ってきた肉、とうふ、
野菜、牛乳、卵などなどが、ぎっしりと詰まっている。今日もこの材料を使って
献立を考えて料理をしなくてはならない。

「・・・・・・・・」

奥さんは中のものを眺めながら、しばし、nacoとのついさっきの会話を
思い出していた。

「あ、はやくしなくっちゃ・・・・」

奥さんはとうふを取り出して、味噌汁を作り始めた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

女性がクリスマスケーキとは、なんてこった!
今じゃ、そんなことナンセンスですな。

nacoも、eちゃんも、それぞれの道を歩んでいるようですなあ。

いろんな人生があります。がんばりましょう。

次回更新は11月20日頃です。

冷たい北風も吹き始め、どうぞ暖かくしてお過ごしください。

なつかしいね~

2010-10-15 23:18:01 | ファンタジー
すっかり秋になりましたねえ。
テレビのニュースでは、紅葉の様子も伝えられるようになりました。
例年より少し暖かい秋のようですが、どんなに晴れても、さすがに
猛暑にはならなくなりました。一安心です。

では、お話の続きを始めましょう。

第二章 新米主婦

 第一節 なんてこった

  その3 なつかしいねえ~

ある日の午後二時半頃、いつものように奥さんが洗濯物を取り込み、
たたんでいた時、電話がなった。
ジリリーン、ジリリーン 今ではもう見られなくなったダイヤル式の黒電話だ。
奥さんが、受話器をあげると、

「私、t高校で一緒だった・・」

相手が言い終わらないうちに、奥さんが
「あ!naco? その声はnacoでしょ!」

「eちゃん!元気~?」

「元気、元気~!」

電話のむこうは、奥さんの高校時代の友人のようだ。
むこうの声はキンキン聞こえて、奥さんは受話器を少し耳からはなして
しゃべるので、そばにいたボクには丸聞こえだ。
どうやら、この奥さんのあだ名は、「eちゃん」っていうみたいだ。

「なつかしいねえ~~」

「eちゃん、新婚生活はどう?」

「まだ慣れないことばっかりで、なんだか落ち着かないよ。
 そちらはどう?旦那様とアツアツ?」

「まあまあまあまあ(笑)」

「高校時代、なつかしいねえ~」

「ホントだねえ。一年生の時、同じクラスでさ、
 eちゃんと私は席が前と後ろでさ、お弁当もいつも一緒に食べてたし、
 帰る時も一緒。いろんなこと話したよね」

「そうそう。先生がさ、お前たちふたりいつも一緒だなって笑ってたよね」

「そうだったねえ」

「一年生の一学期の中間のあとぐらいに、男子三人がこっそり
 コーヒー豆もってきててさ、豆を挽く道具やフィルターや、ポットにお湯まで
 持ってきてて、放課後、みんながクラブに行っちゃって教室に誰もいなくなると
 コーヒーを作っちゃうんだよね。その仲間にふたりで入れてもらったよね」

「そうそう。その男子三人とeちゃんと私で、`コーヒー会'って名前つけちゃってさ」

「教室がコーヒーのいいにおいでいっぱいになっちゃったよねえ」

「eちゃんはまだコーヒー飲めなくてさ、薄めて飲んでたよね(笑)」

「うん。でも、おいしかったよ。五人でおいしいコーヒーの作り方研究したよね(笑)」

「男子のひとりが、フォークギターまで持ってきて、弾いてくれたよね」

「なつかしいねえ~。

 一学期の後半には、家庭科クラブにふたりで一緒に入部したよね」

「そうそう。文化祭の前は、大量のクッキー、作ってさあ」

「でも、文化祭第一日目のお昼には、ぜ~んぶ、売れきれちゃってね」

「人気あったよね」

「だって、おいしかったもんね」

「なっつかしいなあ~」

「文化祭っていえば、文化祭のポスターコンテストに、ふたりで一緒に考えて、応募したね」

「全校生徒の投票で一位になればポスターになるんだけど、二位になっちゃってさ」

「でも、文化祭パンフレットの表紙に採用されたんだよね」

「そうそう。パンフの方がみんなに配られるんだからすごいよって
 ふたりで、喜んだよね」

「そうだったねえ。なつかしいねえ。先生達もどうしてるかなあ~」

「物理の先生、こわかったねえ」

「うんうん。いつもの竹の棒を持ってて
 机をビシッとたたくんだよね。答えられないと立たされるんだよね」

「だから、みんな、シイ~ンとして、授業はいつも緊張の雰囲気だったよね」
 
「授業をよく聞いてないと答えられないもんね」

「お蔭で、よく頭に入ったわあ。
 もう、みんな忘れちゃったけど(笑)」

「地学の先生、優しかったよねえ~」

「うんうん。人気あったよね。天体や、きれいな鉱石の話、おもしろかったよね」

「化学の授業はヒッチャカメッチャカだったよねえ~」

「年とったおじいさん先生でさ、教科書を読むような授業でさあ。退屈で、退屈で、
 みんな授業中勝手におしゃべりしちゃってさあ、男子なんか騒いじゃってさ」

「それでも、先生、授業続けててね。あんまりうるさくなると、さすがに怒って
 静かにしろって言ったけど、効き目はその時だけで、すぐまた騒ぎ始めるんだよね」

「お蔭で、化学、なんだかよくわからなくなっちゃったよ」

「何言ってるの、nacoは化学系に進んだんじゃないの」

「まあね(笑)」

「今思えば、先生ちょっとかわいそうだったよね。年だったのにね」

「みんなで、もっと、いたわってあげればよかったのにね」

「そうだよね」

「こうやってしゃべっているといろんなこと思い出すね」

「そういえば、al子とso君って、アツアツだったよね」

「あ、あれね、高校卒業したら、あっさり、別れちゃったんだって。
 んでもって、もう、それぞれ、相手がいるらしいよ」

「へえ~、そうなんだあ~」

「高校時代は、eちゃんも私も彼氏なんていなかったね(笑)」

「nacoは、大学入ってから彼氏ができて、今の旦那様だもんね」

「もー、結婚したらさあ、あの時のときめきなんてないよ~。でもね、
 かえってお互いが自然体になれたっていうか・・まあ、そんな感じ。
 そういう、eちゃんはまじめ一本で、学生時代は彼氏なんていなかったね(笑)」

「私って、松田聖子とか、キャンディーズみたいな現代風の美人じゃないからね(笑)」

「でも、eちゃんの笑顔、好きだよ。優しそうで、ふんわりしてて。
 eちゃんってさ、大学卒業して事務職についてさ、社会にでてから、30才位の
 殿方にもてたんだよね」

「もてたなんてほどじゃないよ」

「え~そうかなあ~、あの時のあの人とは、どうだったの~?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ヒエ~、この話まだ続くよお~!なんてこった!
女性の長電話とはすごいもんだあ。

携帯もメールもチャットも無い時代、黒電話さんは大活躍、ご苦労様でした。

それにしても、化学の授業態度は、けしからんけしからん!
良い子の皆さんは、絶対にまねをしないように。
先生のお話は、きちんと聞きましょうね。

ところで、奥さん、洗濯物たたみはどうなったのお~?
もう3時になったよお~!夕飯の支度、始めるんじゃないのお~?

この続きは、また次回。

次回更新は、10月末頃です。

半袖でもちょうどよい日があったり、長袖を着込む日があったり、
着る物の調節にはくれぐれも気をつけて、秋を元気にお過ごしください。


なんだこりゃあ~!

2010-09-13 19:41:33 | ファンタジー
ようやく朝夕涼しい日が出てきましたねえ。
今年の夏将軍は元気良すぎだったですね~。

さて、お話の続きを始めましょう。

第二章 新米主婦

 第一節 なんてこった

  その2 なんだこりゃあ~!

奥さんは、大家さんにジイィとにらまれて、一瞬たじろいだが、
「あの~、一週間前に結婚しまして・・・こちらにきてまだバタバタしてまして・・・、
ご挨拶に伺うのがすっかり遅くなってしまって・・スミマセンでした」
と言いながら、奥さんは思った。
(うちの人、大家さんに何にも言ってないんだ・・・)

大家はまだ疑わしい目つきでジロジロジロ。

すると
「あーそれ、ほんとの話だから。あたしが保証するよ。
 あたしゃ、すぐ隣に住んでいるんだからねえ。なあんでも知っているんだから」
あの隣の婦人がいつの間にか後ろに立っていた。
「早く流し台のホースを取り替えてあげてくださいな。それにうちの台所の床、
 早く直してくださいよ」

大家は「こいつ来た~!」みたいな顔に急になった。
「あー、わかりましたよ。すぐ修理屋を行かせるから」とボソッと言い捨てて、
そそくさと豪邸に引っ込んでしまった。

突然の助っ人登場で、奥さんは一安心したが、
(それにしても、このオバハンって、すごい威力があるんだなあ)と
びっくりするやら感心するやら・・・。

それから、一時間程で、修理の職人がやってきた。
日焼けした顔、坊主頭、目玉がギョロギョロしていて、筋肉質でがっしりした男だった。

「もう安心しな。今、新しいホースに取り替えれば、すぐ直っちまうさ。
 こんなの、チョチョィのチョイさ! それにしても、この流し台をよくひとりで
 外に運び出したもんだあな。あははははは!」
それから、この男は、
「ふふふ~ん♪ふふ~ん♪」と何やらわからない鼻歌を歌いながら、修理を始めた。

とにかく、この男の声のでかいこと!

早速、あの隣のオバハンが出てきた。
「おや、修理、やってんだね。こんなに古くちゃ、どーしようもないよねえ。
 うちだってさ、あっちこっち穴だらけだよ。台所だってさ・・・」
オバハンは、修理の男相手に、いろいろ愚痴っぽく話し始めた。

奥さんはそれをずっと見てるのも変な気がして、家の中に引っ込んだが、

オバハンは修理が終わるまで、ずっとその男相手に家のボロさを話していたようだ。

しばらくして、その男が
「奥さ~ん、手を洗いたいから、水使わせてくれ~。台所は今、流し台をとっぱらっちまってるから、
 風呂場でいいや」

「あ、どうぞ、どうぞ」奥さんは風呂場の木のドアをギシっと開けた。

男は、どかどかと上がってきて、風呂場に入った。

その瞬間、男は、すっとんきょうな声で、

「な、なんだこりゃあ~!」

男は、目玉をぐりんぐりんさせて、言った。
「これが、新婚さんの入る風呂かよ~!」

風呂場は、全タイルばりで、壁も浴槽もひびだらけ。木枠のまどは鍵はついているものの
がたぴし。天井は黒ずんでいる。

「奥さん、これ、水たまるの?!」

「あ~、お水ためると一時間で10センチは減ってちゃう・・・」

「クー、なあんてこった! 旦那は何とも言ってないの?」

「風呂はお湯が減っていくけど、下から30センチ位でとまるからって言ってました」

男は壁やら浴槽やらすみずみまで手で触ってひびの状態を確認した。
「奥さん、俺にまかせて。大家に言ってやるよ」

「とにかく、今日のところは流し台だな」と言って、男は修理の続きを始め、
手際よく終わらせ、流し台を台所のもとの場所にきちんと設置した。

水がちゃんと流れることを確認して、「よし、これで大丈夫。んじゃ、奥さん、
今度は風呂、直しに来るからよ。ほかの家の修理とかもあるから、
すぐには来れないけどよお、大家に話してできるだけ早く来るようにすっから」
そして、修理道具を片付けながら、苦笑いして、
「新婚夫婦の風呂なおすのかあ~。俺、いい役、かってでちゃたよなあ~~。
うんじゃなあ~。あ~らよっとお~」
道具をかついで、頭をかきかき、出て行った。

家の中が急に静かになった。

時間は、午後一時半をまわっている。

「あー良かったあ。夕飯のしたくの前に修理が終わって」

この夫婦の夕飯は午後六時。
奥さんは午後三時から準備を始める。本を見ながら、料理メモを見ながら・・・。
ほんとに、新米主婦だね~。
旦那が「お前の料理はうまいなあ」と言っていつも食べるから、ますます奥さんは
準備に力が入っているようだ。まだ結婚一週間だからね(笑)

さて、今日もいつものように夕飯の時がやってきた。
この旦那は、夕飯の時には、テレビのニュースを見るのが日課となっている。

「あ、あのね、今日ね、」

「なんだよ、今、俺、ニュース見てるんだぞ」

「じゃあ、あとで」

「なんだよ、気になるじゃないか」

「あ、今度ね、お風呂、直しに来てくれるんだって・・」

「へー、良かったじゃないか」

「それがね、今日ね、」

「おい、お前もしゃべってないで、今日一日何があったのか、
 ちゃんとニュース見ろよ」

「・・・・・」

その後はニュースの声だけがして、二人は静かに夕飯を食べていた。

夕飯の後は、旦那はいつものように、好きなレコードを大音量で楽しみ、
奥さんも横に座って聴いていた。
結局、奥さんは、今日あったいろいろな出来事を言いそびれてしまった。

奥さん、ほんとは、どう思っていたのかなあ・・・。

それにしても、この夫婦、これから大丈夫かなあ・・・。
ボクは、ちょっと心配になったよ・・・。

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この続きは、また次回で。

次回更新は、間があきますが、十月中旬頃です。
そのころは、すっかり涼しくなっている・・・と思います。

季節の変わりめ、気温の変化に気をつけながら、
皆様お体お大事にお過ごしください。