ぽてとの日記

ぽてと君が語ります。

ふたり、それぞれ

2010-10-31 21:54:05 | ファンタジー
秋の到来かと思いきや、はやくも、冬のような寒さになってしまいましたねえ。
ついこの間まで猛暑だって言っていたのに、この急激な温度変化にはビックリです。

では、お話の続きを始めましょう。

第二章 新米主婦

 第一節 なんてこった

  その4 ふたり、それぞれ

受話器から聞こえてくるnacoの声が、ひそひそ声になって
「食事に誘われたことあるって、いつか言ってたよね」

「食事じゃないよ、お茶だよ」

「お~、充分、充分。eちゃんが仕事の書類を届けに行ったりしてるうちにさ、その人に
 気に入られちゃったんだよね。将来は教授になることが約束されてる人だったんでしょ~、
 私は、いい話だと思ってたけどね~。でもさ、eちゃんには、その頃、次々と
 お見合いの話がきててさ、大変だったんだよね」

「親も心配してたんだよ。女はクリスマスケーキって言われてるからね。
 26過ぎると陰でオールドミスって言われちゃうもんね。うちは、母もおばも
 いとこもみんな、23で結婚してるから、23で結婚させなきゃって母も一生懸命
 だったみたい・・・」

「でもさ、たくさんきてるお見合いの話の中で、eちゃんが写真を見て断わり続けてた人が、
 旦那になっちゃうんだもんね。ビックリだよお~」

「だってさあ、最初に見たスナップ写真、スキーの格好してスキー場で撮った写真
 なんだもん、私、スキーなんてやったことないし。 二枚目の写真は、ダイビングの
 格好して海で撮った写真なんだもん。私、海なんかもぐったことないし・・・」

「あはははははは、eちゃんの旦那ってスポーツマンだよね。
 でもさ、紹介の人に、とにかく一度会ってみなさいっていわれて、会ってみたら、
 クラシック音楽の話題でふたりは盛り上がっちゃったんだよね。
 で、ふたりはクラシックコンサートに一緒にでかけるようになってさ、
 そのたびにeちゃんが楽団の演奏の批評をすると、相手が感心して聞いてたって
 言ってたよね」

「私、そんなことも、nacoに言ってたっけ・・・」

「言ってた言ってた。ちゃんとこの耳で聞いたからね~。
 そこで、eちゃんは迷ったんだよね、例のあの人とさ」

「もう、いいよ、そんな話、べつに彼氏ってわけじゃなかったんだから」

「それで、eちゃんとしては、めずらしくも思い切って・・ドレ、ドレ・・
 えっとお~何って言ったけ・・」

「ドレスデン国立管弦楽団」

「そうそう、それそれ。それを聞きに行きませんかなんて、誘ってみたんだよね」

「だって・・・ほんとの気持ち、確かめとかないとさ、お見合いの話の方が
 進んじゃうんだもん・・・。もう、いいよ、いまさら、そんな話しなくて・・・」

「そしたらさ、例の人は、‘そういうのがあるんですか。僕、コンサートなんて
 いったことがないんです。家に帰るとやることなくて、ただボーっとしてるだけで、
 家でやることないから、休みの日でも研究室に行く。研究室には、やらなきゃいけない研究が
 いっぱいありますから’って。 それを聞いて、eちゃんは、いっきにさめちゃったんだよね」

「そんなことまで、nacoに言ってたっけ・・もう、いいよ、言わなくて」

「私、ちゃんと覚えてますからねえええ」

「私の父も研究者だったけど、趣味も多くて、家では、機械をいじったり、植木の手入れをしたり、
 魚料理したり、鳥を飼って世話したり、大工道具そろえて日曜大工を楽しんだり・・
 そういう父を見て育ったから、家でボーっとしてる男の人なんて考えられなかったの」

「じゃあ、そのコンサート作戦は、相手を確かめるのに、大成功だったってわけね、
 えっと、ドレ、ドレス、ドドレス・・」

「ドレスデン国立管弦楽団!」

「ま、何でもいいや。でさ、結局行かなかったってわけか」

「実はね、それね、そのあと・・・」

「あ!今の旦那と行ったんでしょ」

「そしたら、目を輝かせて喜んでくれて、コンサート終わったあとも、ドレスデン
 の奏でる音の素晴らしさを語り続けててね、それ見てて、この音の素晴らしさを
 こんなに理解して感激できる人なんだなあって、気持ちがほっこりしちゃって・・」

「そっかあ、決め手はそこだったのかあ。それにしても、コンサートの反応で
 ふたりを天秤にかけるとはねえ~」

「そうじゃないよ。それから、コンサート以外にも、相模湖とか、箱根とかいろいろ
 出かけてね、紅葉を見に行ったときにね、もし家庭をつくったら、この紅葉のような
 自然の美しさがわかる子供に育てたいって言ったの。それが決め手かな・・」

「ハイハイハイ、おぉ~」

「それにね、音楽のことになると、目をキラキラさせて、曲のこととか楽団のこととか
 ほんとにたくさんのこと聞かせてくれるの!」

「ハイハイ、ごちそうさま・・・・・もう、この辺にしておこうかしら。
 ところで、きのう、給料日だったよね、ボーナスもそのうち出るしさ、旦那のボーナス
 楽しみだよね。何買うの?」

「え?給料日?ボーナス?」

「何言ってるの。奥さんが家計を預かるの普通でしょ。今ねえ、何を買うか旦那と
 相談してるんだけどさ、家計を取り仕切っているこの私がもっちろん
 主導権をにぎってるからね!」

「・・・・・・・」

「あれ?違うの?ごめんね。変なこと言っちゃたかな?ごめんね」

「ううん、いいよ、うちはね、旦那様が大蔵大臣なんだ。大臣の眼鏡にかなった
 ものしか買えないの。うちの人は、超安売りのスーパーを知っていて、
 そこから何でも自分で買ってくるの。自分が買ってきたもので料理しろって」

「ふううん。それじゃあ、eちゃん、好きなもの買えないねえ・・・」

「うん、でも、お金は、旦那様が稼いだものだから、旦那様のものだもんね」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・」

会話が、ちょっと途切れた時、奥さんは、ふと時計を見た。
三時半だ。もう、かれこれ一時間もしゃべっていることになる。

「あ!もう、こんな時間!」

「どうしたの? eちゃん、これから、どっか行くの?」

「違うよ。夕飯の支度だよ」

「えええええええ!もう、始めるのお~?」

「だって、私、まだ要領わるくて・・・」

「新米主婦だなあ~」

「nacoは大丈夫?」

「今日はね、どっか食べにいこうかなんて、旦那と約束してるんだ」

「ふうううん・・・・」

「じゃ、eちゃん、またね。元気で頑張ってね」

「ありがと。nacoもね」

「バイバ~イ」

「バイバ~イ」

受話器を置くと、奥さんは、大急ぎで、夕飯の支度に取り掛かった。
そして、冷蔵庫をあけた。冷蔵庫のなかには、大蔵大臣が買ってきた肉、とうふ、
野菜、牛乳、卵などなどが、ぎっしりと詰まっている。今日もこの材料を使って
献立を考えて料理をしなくてはならない。

「・・・・・・・・」

奥さんは中のものを眺めながら、しばし、nacoとのついさっきの会話を
思い出していた。

「あ、はやくしなくっちゃ・・・・」

奥さんはとうふを取り出して、味噌汁を作り始めた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

女性がクリスマスケーキとは、なんてこった!
今じゃ、そんなことナンセンスですな。

nacoも、eちゃんも、それぞれの道を歩んでいるようですなあ。

いろんな人生があります。がんばりましょう。

次回更新は11月20日頃です。

冷たい北風も吹き始め、どうぞ暖かくしてお過ごしください。


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