ぽてとの日記

ぽてと君が語ります。

大行列

2010-11-22 20:30:17 | ファンタジー
木々の葉達が、ひらりひらりと舞い始め、
いよいよ冬将軍が近くまで来ていることを感じるこの頃です。

朝夕はかなり冷え込む日もありますが、
あの37度やら38度やらの猛暑よりも、ずうっと楽に思えるのですが・・・。

さて、また、お話の続きを始めましょう。
実は、今回のお話は、少々気色悪いお話なので、お食事中やお食事直前・直後の方は
しばらくたってからお読みください。

第二章 新米主婦

 第一節 なんてこった

  その5 大行列

その日は、春だと言うのに、とてもむしむしとした日だった。

奥さんは、いつものように夕飯の支度を終わらせ、あとは盛り付けをするだけという
段階になっていた。
そこに、いつものように、旦那さんが帰ってきた。
そして、いつものように、着替えをするため、部屋のクローゼットの前に行った。

すると・・・
「ひゃー、出たあああー」
すっとんきょうな声が上がった。

奥さんはびっくりして、台所から部屋をのぞきこんだ。

「出たああ~出たああ~」
旦那はあわてふためいて、クローゼットの下の方を指差している。

(もしかして、ゴキブリ?!)
いよいよ出たかと、奥さんはゾゾッとしたが、ゴキブリらしきものは見当たらない。
「???」

「そこだよ!下!下!」

クローゼットの下は引き出しになっていて、そこの下からなにやら細かい黒いものが
行列をなしている。

「え?何これ」

「よく見てみろよ。お前、今日、気がつかなかったのかよ!」

奥さんは、ど近眼なので、うんと顔を近づけて見た。

アリだ。アリの大行列だ。羽がついている・・・。

「あ・・・・・・・・」

実は、この奥さん、大の虫ぎらい。
蝶もトンボもバッタもセミもつかめず、家に入り込んできたものなら、
実家のころは「おかあさ~ん」と母親をよんできて、つかまえてもらい、その様子を遠くから
離れて見てる始末。まして、ゴキブリなんぞ見たものやら「きゃ~」と言って
隠れてしまい、母親がばったばったとスリッパで格闘している音だけを陰で聞いている
ありさま。
なのに、大量に群がっているアリの大群に、目をくっつけるようにして見てしまい
もう、奥さんの背中も手足も針金になってしまったようにガチガチになってしまった。

発信源は引き出しの奥らしい。旦那が引き出しを引っ張り出して奥をのぞいた。
「こりゃすごいや。お前も見てみろよ」

奥さんはいやだとも言えず言われるままに、のぞきこんだ。
奥さんの目には、大量の黒い砂のようなものが一面に広がって
ゾヨゾヨとうごめいているように見えた。
「イ・・・・・・・」
奥さんは、もう、言葉どころか、声も出なかった。

「おい、お前、なんとかしろよ」

「エ・・・・・・・」

「嫌がると思って、まだ言ってなかったけど、
 毎年、今頃出るんだよなあ」

「マ、マイ・・・・」

「ほら、殺虫剤」

奥さんは、実家にいた頃のように「お母さーん」と言ってどこかに隠れたい
気持ちでいっぱいだった。でも、今は、旦那さんと自分しかいない・・・。
奥さんは、自分の弱みを見せたくなかった。しっかりとした奥さんでいたかった。

手渡された殺虫剤を震える手で握り締めながら、顔をしかめて薄目になって
敵に向かって吹きつけまくった。
黒くどよどよとうごめいていた動きが止まり、一面の黒い砂のようになった。

奥さんはもう生きた心地はしなかった。顔はこわばり、手の感覚もなくなっていた。

「おれ、風呂入ってくる。掃除機で吸い取っときなよ」

奥さんは、言われるままに掃除機で吸い取り始めた。
じゃかじゃかと吸い取られる音がする。奥さんは背中がぞくぞくした・・・。

旦那が、風呂から上がってきて、夕飯になった。

「オイ、食べないのかよ」

「イエ、アノ・・・」

奥さんは、いまだに手の感覚がなく、口が渇ききって
のどもこちんこちんになってしまっている。黒い物体が脳裏から離れない。
食欲なんぞあるはずもない。

「せっかく、うまいのに。あったかいうちに食べろよ」

「ハ、マア・・・・」

奥さんは、なんとか少し口にほおりこんだ。

たった一人で、生まれて初めての害虫退治。
あの黒くうごめく大量の黒砂の映像が頭から離れない。
食べても何の味もしない。箸もうまく動かせない。

旦那は、そんな様子に気がつかずに
いつものようにテレビのニュースを見ながら、むしゃむしゃと食べている。

旦那がテレビのほうを見てるすきに、奥さんは自分の分を台所にそおっと
運び出した。

「オイ、もう食べたのかよ」

「エ、モウ・・・・」

「ま、いいけどさ」

食事が終わって、旦那はいつものように大音量でレコードを聴き始めた。
もちろん、奥さんも横に座って聴いているわけだが、
奥さんの耳は奥までコチコチになっていて、どんな音楽がなっているのか
わからない。目だけは、ぱちぱちとやたらまばたきの回数が増えている。
またクローゼットの下から新たな大行列が始まっているのではないかと思うと
音楽を楽しむどころではない。

しばらくして、寝る時間が近づいてきた。
布団を敷くのは、あのクローゼットのある部屋だ。

奥さんは、おそるおそるクローゼットの下のほうを見た・・・・・。

・・・・いた。また、いた。最初ほどの量ではないが・・二、三十匹はいる。
奥さんは、声も出ずに、立ちつくした。

旦那が歯を磨きながら、様子を見に来た。
「あーあ、またいるなあ。いつもこの時期こうだ。
 でも、いつの間にかいなくなるのさ。一週間位で」

(え?!一週間!そんなにつづくの!)奥さんは心の中で叫んだ。

「おい、早く布団、敷けよ」

奥さんはまたアリ退治をして、布団をひいた。

布団にもぐると、旦那が言った。
「ねえ、結婚してこれまでに、こんなはずじゃなかったってことある?」

「・・・・・・・・・・・・・」奥さんはジイイと天井を見つめて
(何言い出すんだろこの人・・・・・)
「大有りだあ!」と叫びたいところだったが、天井を見つめたまま
なぜか小さく首を横にふっていた。

と、その瞬間、旦那の大イビキ・・・・。

奥さんは、こうして横になっているうちにも、また、アリがじわじわと出てくるのか
と思うと、布団の中にいても、体ががちがちになっていた。
(今日は眠れないかもしれない・・・・・)
ずうっと天井を見つめていた・・・・・・でも、奥さん、アリとの格闘で相当疲れたみたい。
いつの間にか小さな寝息をたてていた。

それから、次の日も、そのまた次の日も、奥さんとアリとの戦いは続くのだった・・・・・。

この造り付けのクローゼットの後ろ側は、あの水漏れのしている風呂場になっていることが
なにやら関係があるのかもしれない・・・・。

でも、この若い新米主婦は、そこまで気が回らず、とにかく、殺虫剤と掃除機を持って
大奮闘の毎日・・・・。

奥さんが毎日歯をくいしばって頑張った結果、
旦那が一週間と言っていたのが、四日目にして、アリは出なくなった・・・・・。

奥さんの食欲ももどり、
こわばった笑顔は、また、自然な優しい笑顔に戻った・・・・・。

旦那は・・・・相変わらずだった・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

いやあ~、アリ騒動も一件落着!
良かったですなあ。
虫嫌いの奥さん、ひとりで、よく頑張りましたね。

今回は、あまりきれいな話ではなくてスミマセンでした。

それにしても、新婚早々、こんなアリ騒動とは、なんてこっただね。

次回、更新は、12月中旬の予定です。

寒さも本格的になってきますので、風邪をひかないように、
体調管理をしっかりとなさって、元気にお過ごしください。  

そろそろ大掃除の時期がやってきますね。こんな害虫大量発生を防ぐためにも、
しっかり掃除したいものですなあ。


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