秋の到来かと思いきや、はやくも、冬のような寒さになってしまいましたねえ。
ついこの間まで猛暑だって言っていたのに、この急激な温度変化にはビックリです。
では、お話の続きを始めましょう。
第二章 新米主婦
第一節 なんてこった
その4 ふたり、それぞれ
受話器から聞こえてくるnacoの声が、ひそひそ声になって
「食事に誘われたことあるって、いつか言ってたよね」
「食事じゃないよ、お茶だよ」
「お~、充分、充分。eちゃんが仕事の書類を届けに行ったりしてるうちにさ、その人に
気に入られちゃったんだよね。将来は教授になることが約束されてる人だったんでしょ~、
私は、いい話だと思ってたけどね~。でもさ、eちゃんには、その頃、次々と
お見合いの話がきててさ、大変だったんだよね」
「親も心配してたんだよ。女はクリスマスケーキって言われてるからね。
26過ぎると陰でオールドミスって言われちゃうもんね。うちは、母もおばも
いとこもみんな、23で結婚してるから、23で結婚させなきゃって母も一生懸命
だったみたい・・・」
「でもさ、たくさんきてるお見合いの話の中で、eちゃんが写真を見て断わり続けてた人が、
旦那になっちゃうんだもんね。ビックリだよお~」
「だってさあ、最初に見たスナップ写真、スキーの格好してスキー場で撮った写真
なんだもん、私、スキーなんてやったことないし。 二枚目の写真は、ダイビングの
格好して海で撮った写真なんだもん。私、海なんかもぐったことないし・・・」
「あはははははは、eちゃんの旦那ってスポーツマンだよね。
でもさ、紹介の人に、とにかく一度会ってみなさいっていわれて、会ってみたら、
クラシック音楽の話題でふたりは盛り上がっちゃったんだよね。
で、ふたりはクラシックコンサートに一緒にでかけるようになってさ、
そのたびにeちゃんが楽団の演奏の批評をすると、相手が感心して聞いてたって
言ってたよね」
「私、そんなことも、nacoに言ってたっけ・・・」
「言ってた言ってた。ちゃんとこの耳で聞いたからね~。
そこで、eちゃんは迷ったんだよね、例のあの人とさ」
「もう、いいよ、そんな話、べつに彼氏ってわけじゃなかったんだから」
「それで、eちゃんとしては、めずらしくも思い切って・・ドレ、ドレ・・
えっとお~何って言ったけ・・」
「ドレスデン国立管弦楽団」
「そうそう、それそれ。それを聞きに行きませんかなんて、誘ってみたんだよね」
「だって・・・ほんとの気持ち、確かめとかないとさ、お見合いの話の方が
進んじゃうんだもん・・・。もう、いいよ、いまさら、そんな話しなくて・・・」
「そしたらさ、例の人は、‘そういうのがあるんですか。僕、コンサートなんて
いったことがないんです。家に帰るとやることなくて、ただボーっとしてるだけで、
家でやることないから、休みの日でも研究室に行く。研究室には、やらなきゃいけない研究が
いっぱいありますから’って。 それを聞いて、eちゃんは、いっきにさめちゃったんだよね」
「そんなことまで、nacoに言ってたっけ・・もう、いいよ、言わなくて」
「私、ちゃんと覚えてますからねえええ」
「私の父も研究者だったけど、趣味も多くて、家では、機械をいじったり、植木の手入れをしたり、
魚料理したり、鳥を飼って世話したり、大工道具そろえて日曜大工を楽しんだり・・
そういう父を見て育ったから、家でボーっとしてる男の人なんて考えられなかったの」
「じゃあ、そのコンサート作戦は、相手を確かめるのに、大成功だったってわけね、
えっと、ドレ、ドレス、ドドレス・・」
「ドレスデン国立管弦楽団!」
「ま、何でもいいや。でさ、結局行かなかったってわけか」
「実はね、それね、そのあと・・・」
「あ!今の旦那と行ったんでしょ」
「そしたら、目を輝かせて喜んでくれて、コンサート終わったあとも、ドレスデン
の奏でる音の素晴らしさを語り続けててね、それ見てて、この音の素晴らしさを
こんなに理解して感激できる人なんだなあって、気持ちがほっこりしちゃって・・」
「そっかあ、決め手はそこだったのかあ。それにしても、コンサートの反応で
ふたりを天秤にかけるとはねえ~」
「そうじゃないよ。それから、コンサート以外にも、相模湖とか、箱根とかいろいろ
出かけてね、紅葉を見に行ったときにね、もし家庭をつくったら、この紅葉のような
自然の美しさがわかる子供に育てたいって言ったの。それが決め手かな・・」
「ハイハイハイ、おぉ~」
「それにね、音楽のことになると、目をキラキラさせて、曲のこととか楽団のこととか
ほんとにたくさんのこと聞かせてくれるの!」
「ハイハイ、ごちそうさま・・・・・もう、この辺にしておこうかしら。
ところで、きのう、給料日だったよね、ボーナスもそのうち出るしさ、旦那のボーナス
楽しみだよね。何買うの?」
「え?給料日?ボーナス?」
「何言ってるの。奥さんが家計を預かるの普通でしょ。今ねえ、何を買うか旦那と
相談してるんだけどさ、家計を取り仕切っているこの私がもっちろん
主導権をにぎってるからね!」
「・・・・・・・」
「あれ?違うの?ごめんね。変なこと言っちゃたかな?ごめんね」
「ううん、いいよ、うちはね、旦那様が大蔵大臣なんだ。大臣の眼鏡にかなった
ものしか買えないの。うちの人は、超安売りのスーパーを知っていて、
そこから何でも自分で買ってくるの。自分が買ってきたもので料理しろって」
「ふううん。それじゃあ、eちゃん、好きなもの買えないねえ・・・」
「うん、でも、お金は、旦那様が稼いだものだから、旦那様のものだもんね」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・」
会話が、ちょっと途切れた時、奥さんは、ふと時計を見た。
三時半だ。もう、かれこれ一時間もしゃべっていることになる。
「あ!もう、こんな時間!」
「どうしたの? eちゃん、これから、どっか行くの?」
「違うよ。夕飯の支度だよ」
「えええええええ!もう、始めるのお~?」
「だって、私、まだ要領わるくて・・・」
「新米主婦だなあ~」
「nacoは大丈夫?」
「今日はね、どっか食べにいこうかなんて、旦那と約束してるんだ」
「ふうううん・・・・」
「じゃ、eちゃん、またね。元気で頑張ってね」
「ありがと。nacoもね」
「バイバ~イ」
「バイバ~イ」
受話器を置くと、奥さんは、大急ぎで、夕飯の支度に取り掛かった。
そして、冷蔵庫をあけた。冷蔵庫のなかには、大蔵大臣が買ってきた肉、とうふ、
野菜、牛乳、卵などなどが、ぎっしりと詰まっている。今日もこの材料を使って
献立を考えて料理をしなくてはならない。
「・・・・・・・・」
奥さんは中のものを眺めながら、しばし、nacoとのついさっきの会話を
思い出していた。
「あ、はやくしなくっちゃ・・・・」
奥さんはとうふを取り出して、味噌汁を作り始めた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
女性がクリスマスケーキとは、なんてこった!
今じゃ、そんなことナンセンスですな。
nacoも、eちゃんも、それぞれの道を歩んでいるようですなあ。
いろんな人生があります。がんばりましょう。
次回更新は11月20日頃です。
冷たい北風も吹き始め、どうぞ暖かくしてお過ごしください。
ついこの間まで猛暑だって言っていたのに、この急激な温度変化にはビックリです。
では、お話の続きを始めましょう。
第二章 新米主婦
第一節 なんてこった
その4 ふたり、それぞれ
受話器から聞こえてくるnacoの声が、ひそひそ声になって
「食事に誘われたことあるって、いつか言ってたよね」
「食事じゃないよ、お茶だよ」
「お~、充分、充分。eちゃんが仕事の書類を届けに行ったりしてるうちにさ、その人に
気に入られちゃったんだよね。将来は教授になることが約束されてる人だったんでしょ~、
私は、いい話だと思ってたけどね~。でもさ、eちゃんには、その頃、次々と
お見合いの話がきててさ、大変だったんだよね」
「親も心配してたんだよ。女はクリスマスケーキって言われてるからね。
26過ぎると陰でオールドミスって言われちゃうもんね。うちは、母もおばも
いとこもみんな、23で結婚してるから、23で結婚させなきゃって母も一生懸命
だったみたい・・・」
「でもさ、たくさんきてるお見合いの話の中で、eちゃんが写真を見て断わり続けてた人が、
旦那になっちゃうんだもんね。ビックリだよお~」
「だってさあ、最初に見たスナップ写真、スキーの格好してスキー場で撮った写真
なんだもん、私、スキーなんてやったことないし。 二枚目の写真は、ダイビングの
格好して海で撮った写真なんだもん。私、海なんかもぐったことないし・・・」
「あはははははは、eちゃんの旦那ってスポーツマンだよね。
でもさ、紹介の人に、とにかく一度会ってみなさいっていわれて、会ってみたら、
クラシック音楽の話題でふたりは盛り上がっちゃったんだよね。
で、ふたりはクラシックコンサートに一緒にでかけるようになってさ、
そのたびにeちゃんが楽団の演奏の批評をすると、相手が感心して聞いてたって
言ってたよね」
「私、そんなことも、nacoに言ってたっけ・・・」
「言ってた言ってた。ちゃんとこの耳で聞いたからね~。
そこで、eちゃんは迷ったんだよね、例のあの人とさ」
「もう、いいよ、そんな話、べつに彼氏ってわけじゃなかったんだから」
「それで、eちゃんとしては、めずらしくも思い切って・・ドレ、ドレ・・
えっとお~何って言ったけ・・」
「ドレスデン国立管弦楽団」
「そうそう、それそれ。それを聞きに行きませんかなんて、誘ってみたんだよね」
「だって・・・ほんとの気持ち、確かめとかないとさ、お見合いの話の方が
進んじゃうんだもん・・・。もう、いいよ、いまさら、そんな話しなくて・・・」
「そしたらさ、例の人は、‘そういうのがあるんですか。僕、コンサートなんて
いったことがないんです。家に帰るとやることなくて、ただボーっとしてるだけで、
家でやることないから、休みの日でも研究室に行く。研究室には、やらなきゃいけない研究が
いっぱいありますから’って。 それを聞いて、eちゃんは、いっきにさめちゃったんだよね」
「そんなことまで、nacoに言ってたっけ・・もう、いいよ、言わなくて」
「私、ちゃんと覚えてますからねえええ」
「私の父も研究者だったけど、趣味も多くて、家では、機械をいじったり、植木の手入れをしたり、
魚料理したり、鳥を飼って世話したり、大工道具そろえて日曜大工を楽しんだり・・
そういう父を見て育ったから、家でボーっとしてる男の人なんて考えられなかったの」
「じゃあ、そのコンサート作戦は、相手を確かめるのに、大成功だったってわけね、
えっと、ドレ、ドレス、ドドレス・・」
「ドレスデン国立管弦楽団!」
「ま、何でもいいや。でさ、結局行かなかったってわけか」
「実はね、それね、そのあと・・・」
「あ!今の旦那と行ったんでしょ」
「そしたら、目を輝かせて喜んでくれて、コンサート終わったあとも、ドレスデン
の奏でる音の素晴らしさを語り続けててね、それ見てて、この音の素晴らしさを
こんなに理解して感激できる人なんだなあって、気持ちがほっこりしちゃって・・」
「そっかあ、決め手はそこだったのかあ。それにしても、コンサートの反応で
ふたりを天秤にかけるとはねえ~」
「そうじゃないよ。それから、コンサート以外にも、相模湖とか、箱根とかいろいろ
出かけてね、紅葉を見に行ったときにね、もし家庭をつくったら、この紅葉のような
自然の美しさがわかる子供に育てたいって言ったの。それが決め手かな・・」
「ハイハイハイ、おぉ~」
「それにね、音楽のことになると、目をキラキラさせて、曲のこととか楽団のこととか
ほんとにたくさんのこと聞かせてくれるの!」
「ハイハイ、ごちそうさま・・・・・もう、この辺にしておこうかしら。
ところで、きのう、給料日だったよね、ボーナスもそのうち出るしさ、旦那のボーナス
楽しみだよね。何買うの?」
「え?給料日?ボーナス?」
「何言ってるの。奥さんが家計を預かるの普通でしょ。今ねえ、何を買うか旦那と
相談してるんだけどさ、家計を取り仕切っているこの私がもっちろん
主導権をにぎってるからね!」
「・・・・・・・」
「あれ?違うの?ごめんね。変なこと言っちゃたかな?ごめんね」
「ううん、いいよ、うちはね、旦那様が大蔵大臣なんだ。大臣の眼鏡にかなった
ものしか買えないの。うちの人は、超安売りのスーパーを知っていて、
そこから何でも自分で買ってくるの。自分が買ってきたもので料理しろって」
「ふううん。それじゃあ、eちゃん、好きなもの買えないねえ・・・」
「うん、でも、お金は、旦那様が稼いだものだから、旦那様のものだもんね」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・」
会話が、ちょっと途切れた時、奥さんは、ふと時計を見た。
三時半だ。もう、かれこれ一時間もしゃべっていることになる。
「あ!もう、こんな時間!」
「どうしたの? eちゃん、これから、どっか行くの?」
「違うよ。夕飯の支度だよ」
「えええええええ!もう、始めるのお~?」
「だって、私、まだ要領わるくて・・・」
「新米主婦だなあ~」
「nacoは大丈夫?」
「今日はね、どっか食べにいこうかなんて、旦那と約束してるんだ」
「ふうううん・・・・」
「じゃ、eちゃん、またね。元気で頑張ってね」
「ありがと。nacoもね」
「バイバ~イ」
「バイバ~イ」
受話器を置くと、奥さんは、大急ぎで、夕飯の支度に取り掛かった。
そして、冷蔵庫をあけた。冷蔵庫のなかには、大蔵大臣が買ってきた肉、とうふ、
野菜、牛乳、卵などなどが、ぎっしりと詰まっている。今日もこの材料を使って
献立を考えて料理をしなくてはならない。
「・・・・・・・・」
奥さんは中のものを眺めながら、しばし、nacoとのついさっきの会話を
思い出していた。
「あ、はやくしなくっちゃ・・・・」
奥さんはとうふを取り出して、味噌汁を作り始めた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
女性がクリスマスケーキとは、なんてこった!
今じゃ、そんなことナンセンスですな。
nacoも、eちゃんも、それぞれの道を歩んでいるようですなあ。
いろんな人生があります。がんばりましょう。
次回更新は11月20日頃です。
冷たい北風も吹き始め、どうぞ暖かくしてお過ごしください。