■傾斜角
太陽位置を図化したところで、ここに太陽の軌跡をざっと引いてみましょう。写真のようにきれいに並んでくれたら良いのですが、そこは測角器+人間の目の本領発揮、というわけで、でこぼこ! ですから、だいたい真ん中を通るように引きます。言わずとも、大抵そうしますよね。
図の矢印のような感じになるでしょう。 次の作業は地平線とこの矢印の間の角度θ(シータ、なぜか角度を示す記号にこのθがよく使われる)を測りましょう。今度は少しマシな道具が必要です。分度器です。
分度器、懐かしい響きですね。永いこと、ご無沙汰だったのではないでしょうか? 手元にない、という方もおられるかも知れませんが、占星術には必要なものですから、揃えておきましょう。三角定規とのセットで100円です。
このグラフに重ねて測ってみると、52°になっています。これに何か意味があるんでしょうか?
はい、意味がないどころではありません。これ、北海道で測ると46°ほど、沖縄では64°ほどになるからです。「ほど」というのは、厳密なことを言えば、時期によって微妙に違うからです。
このように、この傾斜角は南北で違います。北では低く、寝そべった格好になりますし、南は屹立です。緯度によって異なるのです。ここでの観察例は東京を想定していますので、北緯は36°ほどとして、
傾斜角=90°-緯度=90°-36°=54°
の筈ですが、少しずれているのはご愛敬というところです。
赤道では太陽が真上に上り、真下に降りる。中緯度の日本では緯度の分だけ傾斜する、というわけですが、これもご存知でしたよね? その机上の知識を自ら体験した、ということです。
北海道や沖縄で同じように測ってみる、なんて余裕ができたら良いですねえ。旅の値打ちがぐんと上がるというものです。
この傾斜角はヘリアカル・ライジングで見える星が場所によって変わることなどと関係しますので、ホロスコープを問題にしようという方には必須の知識です。
■天の赤道と平行圏、時角
この夕陽の観察を3月21日の春分の日や9月23日の秋分の日にやってみるとどうなるでしょうか?
これも観察から、とは申し上げません。推論でいきましょう。
春分の日や秋分の日の太陽はそれぞれ、春分点、秋分点にありました。
では、春分点、秋分点とはどういう点でしたか?
これは占星術の基本中の、きほんの、キホンでした。黄道と天の赤道との交点ですよね。ですから、この日の太陽は黄道上にあるだけでなく、天の赤道上にもありました。
この天の赤道上にある太陽は、左図の赤い線のとおり、右下54°の傾斜角で真西に沈みます。この日の太陽の軌跡が天の赤道です。
ただ、この図は真西が90°になるよう予め調整されていたので、このように描くことができました。でも、皆さん方の図では残念ながら、ここまで描くことはできないと思います。
でも、できなくても構いません。ここで把握して戴きたいのは、太陽は日々、天の赤道に沿って、平行に運行している、ということです。天の赤道からの離れ具合は季節によって変わりますが、常に天の赤道に平行です。ですから、まとめて平行圏と言います。
天は丸く見えますね。天球です。そのお腹の真ん中が天の赤道。ここの一周が一番長く、平行圏は赤道より短くなります。しかし、共に24時間で一周しますから、赤道から離れるにつれて時間当たりの運行量は少なくなります。運行量は少なくなっても時間は同じなのですから、何とかそれを表現したいと思いませんか? それを保証する概念が時角と言うものです。答えを言ってしまえば、天の北極から見れば、天の赤道も平行圏も同じ時間に同じ角度だけ回転します。その角度を時角と言っています。これは太陽のみならず、星の南中などで重要な役割を果たしますので、後で詳しく紹介しましょう。
いやー、次から次といろいろ出てきますね。夕陽を見るだけでも大変です。どうも「意識的に」見る、とはこういうことのようです。私たちの夕陽観望には、残念ながら、ロマンティシズムの欠けらもないようです。
■赤緯、オクシデント-最後に
では、最後に天の赤道と今回引いた日没線との間の長さを測ってみましょう。天の赤道に対し直角になるようモノサシを当てましょう。だいたい10~11cm、つまり10~11°ではありませんか?
この値を赤緯と言います。記号はδ(デルタ)です。夏場は天の赤道より北に行きますからδは+、冬場は南へ移りますからδを-ととります。
今回は δ=+10~+11° というわけです。
ただ、赤緯を得るには天の赤道の位置か、西点位置がわかっていなければなりません。西点も占星術では重要なポイントですから、皆さんのご自宅なりから見た時の位置は把握しておきたいものです。最近はスマホに精密なコンパスが入っていますから、さほど難しいことはないでしょう。
こうして、夕陽の測定から太陽の赤緯の値を求めることもできました。
第1回目に、4月20日の太陽位置をスターチャートにプロットして貰いました。再掲しておきましょう。
左から右へと横に伸びる罫線が入っていますね。中央の罫線は赤く表示されています。天の赤道です。そして、1本上が赤緯δ=+10°。4月20日の太陽はちょうどこの10°線あたりにあるようです。
測角器の「偉力」です。バカにできませんね。太陽の赤緯を計測するーなかなかできる芸当ではありません。
西点を見たついでにオクシデントを意識しておきましょう。上のグラフで横軸が90の点、つまり、天の赤道が交差する点、ここが西点で、地平線上の真西の点に他なりません。占星術ではこれよりも、太陽が地平線と交わる点、つまり黄道と地平線との交点の方が重要です。上のグラフでは点線上の矢印の先です。ここをオクシデントと言います。日常的には両者を区別することはありませんが、占星術ではオクシデントの方が重要なので、必ずしも西点ではないことを意識し、区別しています。オクシデントを中心とした周りの領域が西方(オクシデンタル)です。
東の方では同じように、東点、アセンダント、東方(オリエンタル)と言います。
オクシデント、アセンダント位置を求めるには赤緯、緯度を元に計算します。ホロスコープを作成する際に欠かせませんね。
さて、いかがだったでしょうか。ちょっとややこしい夕陽の観察でしたが、占星術に重要な概念が次々に登場しました。もっと発展させることもできます。が、ひとまずここで終えて、本題の星見の作法へと移りましょう。
福島 憲人(2021.3.18.)