現在アルツハイマー病治療のために世界で最も使用されている医薬品はドネペジルです、これは、エーザイの杉本八郎博士(京都大学)が開発に成功した、世界に誇る日本の成果です。製薬品をアリセプトといい、年商約1000億円といわれます。ドネペジルはどんな経緯で開発されたのでしょうか?
1980年代にアルツハイマー病脳内において低下している神経伝達物質が検索されました。その結果、アセチルコリンが低下していることが分かりました。また、アセチルコリンを合成する神経細胞が変性していることも見いだされました。そこで、研究者たちは「脳内アセチルコリンレベルを上げれば、症状が緩和されるのではないだろうか」と考えたわけです。脳内でアセチルコリンを分解する酵素がアセチルコリンエステラーゼなので、これを阻害する薬品の設計と合成が精力的に行われました。その結果、コリンエステラーゼ阻害剤であるドネペジルが開発されました。国外でも同様の薬品を合成する努力はなされましたが、総合的にドネペジルを超えるものはありません。ドネペジルは比較的副作用が弱いこと、および、一日一回の副用ですむことが長所です。アセチルコリンエステラーゼの阻害剤は強すぎても弱すぎてもよくありません。
アルツハイマー病の発症機構カスケードにおいて、アセチルコリン低下は下流に位置します。患者さんには投薬効果の見られるレスポンダーとそうでないノンレスポンダーがあります。レスポンダーに関しては、投薬後約半年ほど認知能力の改善が見られます。しかし、いくらアセチルコリンの分解を抑制しても、アセチルコリン合成ニューロンが死滅して効果がなくなります。この半年を過ぎると、非投与患者と同じように認知能力が低下してゆきます。アセチルコリンを標的とした治療法は、原因を取り除くわけではないので、対症法と称されます。根本的原因(Aβ蓄積)の除去および対メカニズム療法と組み合わせれば、より強い効果が期待されます。
その他の対症法としては、興奮性アミノ酸受容体のイオンチャンネル拮抗剤があります。
これは過剰のカルシウムイオンが神経細胞に流入することを抑制する作用があります。コリンエステラーゼ阻害剤が効かなくなった、より重度の患者さんに使用されることが多いようです。