サントリー美術館で開催している「
『もののあはれ』と日本の美」展に行ってきました。
「もののあはれ」といえば、『源氏物語』や『枕草子』の世界がすぐに連想されますが、展覧会のテーマとしてどう展開させるのか、どのような作品を見せるのか興味をもって出かけていきました。
今回の展覧会では、150点近くの作品が展示されますが、2ヶ月の会期中にわりと頻繁に展示替えがあるようなので、お目当ての作品がある方は、事前に
出品作品リストをチェックしていかれることをお薦めします。
入ってすぐに、前半展示の目玉のひとつ、「豊明絵草紙」と岩佐又兵衛筆の「官女観菊図」(ともに4月30日まで展示)が並んで展示されています。
「豊明絵草紙」(前田育徳会所蔵)は色彩を用いず筆の線(墨)だけで描いた「白描画」なのですが(「白描画」について手軽に読めるのは、山口晃氏の『
ヘンな日本美術史』)、もうびっくりするくらい細かい描写です。
平安貴族の住居に欠かせない御簾ですが、そのひごの線一本一本が描かれるのはもちろん、縁どりの模様も細かく再現され、女性のはらりとした髪の毛一本まで描かれます。
見ているだけで、目がちかちかします……。
丸ペンや0.05ミリサインペンではなく、筆であれだけ細い線が描けるという技量もたいしたものですが、蛍光灯などの強い光がなくてもあれだけ細かいものが描けたというのは、昔の人はよほど目がよかったのでしょうか。
「豊明絵草紙」でもうひとつ気になったのは、人間や室内装飾や植物の描写の細かさと動物の描写の粗さのギャップです。
人間や室内装飾だけでなく、木々や草花などの描写も驚くほど細かく繊細なのですが、今回展示されている場面に登場する「猿」と「馬」はこれまたびっくりするくらい大雑把。
実物をお見せできないので、いたしかたなく、またへたくそな絵をお見せします。
こんな感じです。
まあ、ちょっと違うかもしれませんが、だいたいこんな感じです(たぶん)。
さきほどこの絵巻は「白描画」だと書きましたが、実はお猿さんの顔とお尻だけは真っ赤に塗られているのです(なので、厳密には「白描画」ではないの???スミマセン、未確認です)。
しかも、そこだけ妙にタッチが軽妙で、むしろ現代的。いまどきの絵本なんかに登場しそうなユニークなお猿さんです。
もしかして、この顔をお尻は後世の人が赤くしちゃったのかなあ……たとえば子どもとかが。などと、勝手な妄想。展覧会カタログにはもしかして、何か書いてあるのかもしれませんが、未確認です。申し訳ありません。
その右端、押しつぶされそうに窮屈に描かれた馬の顔も、なんだか……変。
ここだけキュビズムはいってて、なんだかピカソっぽいです。
どうしてこうなっちゃったのかな?
「官女観菊図」(山種美術館所蔵)は、又兵衛についての著作(辻惟推先生の『
岩佐又兵衛―浮世絵をつくった男の謎』など)でもたびたびとりあげられている有名な作品。今回、生ではお初にお目にかかるので楽しみにしていきました。
これもまた、びっくりするほど繊細な筆致。「山中常盤」や「豊国祭礼図屏風」など、又兵衛のダイナミックな描写とはまた別の繊細さ。この感じが「もののあはれ」に通じるのでしょうか。
この作品では「グレー」の使い方にうならせられました。ひとくちで薄墨
といいきれないほど、いろいろな薄さ(濃さ)のグレーを効果的に使い分けているので、モノクロなのに不思議に色彩豊かな印象を与えるのです。
これは目の錯覚かもしれませんが、赤っぽいグレーと青っぽいグレーが使い分けられているような気さえします。
今回の展覧会では、こうした絵画作品だけでなく、工芸作品も多数でており、いろいろな素材のいろいろな画題が見られるので飽きさせません。
でも、全体を貫くトーンは、「繊細さ」という印象を受けました。
とにかく、ダイナミックとか迫力とか、力強さとか、そういう世界観ではないようです。
繊細で、ものやわらかで、豪華ではあっても華奢です。
この感じが「もののあはれ」なのでしょうか。
一人ひとり、受ける印象は少しずつ違うと思うので、自分なりの「もののあはれ」を見つけにいくのもおもしろいかもしれません。
《おすすめの本》
岩佐又兵衛については、こちらもおすすめ。
『ミラクル絵巻で楽しむ「小栗判官と照手姫」伝岩佐又兵衛画』太田彩 監修、本体1,800円、2011年09月刊行、B5判、96ページ
→迫力の大画面で、絵巻を楽しめます。
『ワイドで楽しむ奇想の屏風絵』安村敏信 著、本体1,600円、2010年09月刊行、B5判、 80ページ
→「豊国祭礼図屏風」がとりあげられています。
******以下、美術館HPの開催概要より*****
「花鳥風月」という言葉は、現代を生きる私たちにも雅な響きをもって耳に届きます。春の桜、季節の訪れを告げる鳥たち、秋の夜空に輝く月は、美しい日本の四季や自然を代表する風物として絵画や工芸の題材となりました。この展覧会は、古来、親しまれてきた「雪月花」や「花鳥風月」にあわせて「もののあはれ」という言葉をとくに採り上げ、その歴史を辿るとともに、誰もが心癒されるであろう抒情性あふれる日本美の世界へご案内します。
会期 4月17日(水)~6月16日(日)
※作品保護のため会期中、展示替をおこなう場合があります。
※各作品の展示期間については、美術館にお問い合わせください。
開館時間 10:00~18:00 (金・土は10:00~20:00)
※4月28日(日)、5月2日(木)、5月5日(日・祝)は20時まで開館
※shop×cafeは無休
※いずれも最終入館は30分前まで
休館日 毎週火曜日 4月30日(火)は開館
入館料
一般 当日 1,300円 前売 1,100円
大学・高校生 当日 1,000円 前売 800円
主催 サントリー美術館、朝日新聞社
協賛:三井不動産、三井住友海上火災保険、サントリーホールディングス