第71期ALSOK杯王将戦挑戦者決定リーグ戦 藤井聡太竜王VS近藤誠也七段で91手で勝利し、挑戦権を獲得した続報になります。
<勝者この一手>
藤井が選んだ一手は57手目の▲3三歩だった。
「中盤は結構自信がない手が続いていたのですが、▲3三歩から攻め合いの形に上手く持ち込めたのかなと感じました」
藤井が選んだ一手は57手目の▲3三歩だった。
「中盤は結構自信がない手が続いていたのですが、▲3三歩から攻め合いの形に上手く持ち込めたのかなと感じました」
とその局面なのですが、スポニチ観戦記者の関口武史指導棋士五段によると33手目の▲5六歩がその伏線にあったそうです。
自陣を膨らませる一方、自王のこびんが開く違和感すら抱かせる一手です。普通は角交換した将棋では、自王の斜め前の歩を突いてはいけないと初心者は教わるのも相手に角を活用されないため。ところが竜王は平然と指したのですが「近藤陣の5四銀をターゲットに▲5五歩とつく指し手が現れるのではないか、△6三銀と退却を促すとさらに上の▲3三歩が厳しくて、同金なら実践通りで、同桂なら1六角があった」
ということはこの33手目の▲5六歩で、すでに20手以上先のこの展開を藤井竜王は描いていたことになります。もちろん目に見えない(局面には現れない)他の手も当然読んだ上での指し手だったというわけです。
この角の使い方が竜王は抜群だといわれています。手駒の角を自陣から打ったり筋違い角を多用していますが、この手法は従来には見られなかったもの。対豊島戦でも随分みられましたが、これも構想力からのもの。藤井竜王の優れているのはこの構想力からジワジワと優位を築き、徐々に拡大していく「藤井曲線」と呼ばているもので、もちろん渡辺王将も承知していることは言うまでもありません。しばらくはタイトル戦から遠ざかっていたのでご自慢のPCで十二分に研究されていることでしょう。
棋聖戦ではストレートで藤井竜王が防衛しましたが、持ち時間が倍の8時間ある2日制の長い勝負では、そう簡単に名人が王座のタイトルを奪われるとは思えません。
迎え撃つ名人はこんなことをおっしゃられています。
「やっぱり大山先生(康晴十五世名人)、中原先生(誠十六世名人)、羽生さん(善治九段)ときて、その次が藤井さんでしょう。上位3人と他の棋士はタイトル獲得数が違う。3位の中原先生は64期ですけど、4位の僕は29期。勝率も違いますし、上位3人は四冠、五冠獲得を複数年達成しています。でも自分の最高は三冠なので、歴然とした差がある。だから3人の大棋士の系譜を継ぐのは藤井さんでしょう」
タイトル数29という歴代4位で名実ともに現役最強と言われている名人が、です。羽生さんの持つタイトル数99というダントツの歴代一位の金字塔を超える可能性があるとしたら藤井竜王だけというのです。
ニワカとはいえ藤井竜王のオッカケをやってますから、竜王が五冠になることを期待していますが、明日は豊島JT杯覇者とJT杯の決勝戦があります。これさえシノげば後は順位戦一局と銀河戦にオールスター戦が12月にあるだけだけで、これまでと違って時間はタップリ。名人に負けないくらい密度の濃い研究を見せてくれるでしょう。
なにしろ竜王は豊島九段に対してもそうでしたが、相手の得意な土俵でさらに上回る手を用意して、いわゆる横綱相撲で19番勝負を勝ちました。これは豊島前竜王の力が衰えたからではありません。現将棋界で豊島さんと対局して確実に勝てる棋士なんてまずいないでしょう。渡辺名人が21勝15敗と勝ち越ししているくらいですが、それくらい強い棋士でなければ名人や竜王になれるわけがありません。藤井竜王が大きな壁に立ち向かい、その都度吸収し、より一層強くなられただけのこと。藤井さんを強くしたのは棋界の最高峰の豊島さんに他ならないのです。
もちろんその辺りも名人は研究済みでしょうが、問題は距離感です。豊島さんとの番勝負を見る限り、想像以上に進化しており、果たして名人がシッカリと捕まえることができるのかにかかってくるでしょう。
多分今のトップ棋士が竜王を捕まえられるのもここ1年くらいではないかと思っています。伸びしろが違います。自動車とジェット機くらいの差があるといっても過言ではないでしょう。しかも将棋のノビは25歳までと言われています。もしそのスピードに追いつけるとしたら、藤井竜王と同い年の伊藤匠四段くらいか、あるいはそれよりも若いまだ世に知られていない天才棋士くらいでないと無理かもしれません。
来年の1月9日開幕ですが、今からとても楽しみです。