7月5日、大本山總持寺前貫主、板橋興宗禅師様がご遷化なされました。
世壽94歳。
福井県越前市の御誕生寺様で療養中でありましたが、薬石効無く・・
昨日(11月9日)と本日、大本山總持寺で本葬が行われ、出席してきました。
故禅師様の功績は私がお話しできるようなことではありませんので、
小衲少しばかりご縁のあったことを一つだけ書かせていただき、真位の増崇を祈念するものであります。
平成6年10月に宮城県仙台市の輪王寺様で大授戒会(お檀家や一般の方が仏さまのお弟子となり、お戒名を頂く大法要)が行われました。
その法要にご縁をいただいて、拙僧は典座(お台所係)で出仕することになりました。
かなりの人数のご寺院、檀信徒の方が5日間の法要に参加されますので、その食事を作る係です。
このような大きな法要では、一食ごとに全員分の食事を布施して下さる施主がつくことがありますので、
施主の方には二の膳付きの御馳走でおもてなしをいたします。
わたしはこの二の膳付きの御馳走作りを任されることになりました。
授戒会の日程も進んだ3日目頃だったでしょうか、大乘寺さんが法要見舞いに来られる、という連絡がありました。
大乘寺さんというのは板橋禅師様のことです。
その頃故禅師様は石川県金沢市の大乘寺住職として、その名を知られた方でありました。
道を求めるものには厳しい中にも大変情に篤く指導してくださる、親切な方であるとの評判でありました。
一度お会いしたいものだと思っていた方がお出でになられるとの事でしたので、ちょっとワクワク、であります。
輪王寺は故禅師様が学生の頃に寄宿していたというご縁もあり、見舞いに来られたのだと思いますが、
食事はされるのか、宿泊はどうなんだろうかなど典座と受付でいろいろと調整をすることになりました。
ところが、来たその日のうちにお戻りになられる、という話が聞こえてきました。
がっかり、であります。
日ごろ抱える仏道の疑義を明らかにしたい、と思ったのですが、こりゃ無理だわ、残念・・なのでありました。
忙しい師家の方に図々しく話しかけるなんて、虫のいい話でありますけどね。
で、典座の仕事に戻って夕食の調理やお昼の片付けをしていると、そこへひょっこり故禅師様が顔を出されました。
昔の台所が懐かしかったのか、誰か懐かしい人がいるかと顔を出したのか・・お昼も大分過ぎたころだったと思います。
伺ってみると、まだお昼を食べていらっしゃらない。
施主膳の料理でよろしければすぐご用意できますが、とおすすめするとニコッと笑って、いいのかい?とのこと。
板の間に大きめの座布団を敷いて、お膳を並べました。
おつゆを温め、煮物を温めてお給仕し、釜めしに火を入れておすすめすると、恭しく合掌し、少し背中を丸めて黙々と召し上がられました。
拙僧の汚い白衣と前掛けでのお給仕にも関わらず、全部召し上がっていただきました。
献立すべてお出しすることはできませんでしたが、それでも結構な量です。
きれいに平らげられると、また合掌して軽く頭を下げられました。
いやあ、旨かったよ、ありがとう、さ、帰るかな・・・
故禅師様、荷物をもつと台所の勝手口からふらりと外へ出て、そのままお帰りになってしまわれました。
あれれ・・いいのかな???と思った瞬間、アッと気づきました。
台所へは、ホントにふらりと立ち寄られただけだったのです。
お膳を禅師様に無理強いしてしまったことに気付いた私は、もう冷や汗です。
気付いた時にはすでに遅し、もう禅師様のお姿はどこにもありませんでした。
もしかしたら帰りの列車に間に合わなかったかも・・
恥ずかしいったらありゃしない・・・
總持寺の禅師様になられてからはそのお詫びをする機会も無く・・・とうとうご遷化されてしまいました。
きっとそんなことは覚えてらっしゃらないと思いますが。
昨日の対真小参(お通夜の法要での禅問答)の小参師(答える先生)は、
ありがたいことに岡山洞松寺の鈴木聖道老師(拙僧と永平寺で同期生)でした。
鈴木老師が問答で雲水にむかって「別事無し」と答えておられる様子に、
故禅師様は拙僧がお詫びを言ってもきっと「別事無し」っていうんだろうなあ、とふと気付いたことであります。
「茶に逢うては茶を喫し、飯に逢うては飯を喫す」
お茶を飲むご縁の時は無心にお茶を飲む、ご飯を食べる時はただご飯をいただく。
「別事無し」
他に何かあるかい?
さて、当日の献立は次の通り。けっこう量がありますね。
写真はありません。この頃はカメラもってなかったので (T_T)
平成6年10月25から29日
曹洞宗宮城県宗務所、宮城県曹洞宗青年会共催 大授戒会
施主供養膳献立
本膳
飯・・・・五目釜飯
汁・・・・生なめこ、豆腐、三つ葉 赤だし
平・・・・粟麩煮物、大根白煮、桔梗型人参、椎茸、三度豆
猪口・・・おろし和合 紫菊、黄菊、生椎茸、春菊 すだち添え
小皿・・・茶筅茄子、ししとう炒め山椒ふり
坪・・・・胡麻豆腐 敷き味噌 置き山葵
二の膳
吸物・・・初茸、蓮根玉津島、紅葉麩 吸い口へぎ柚子
2の小皿・ほうれん草の湯葉巻き、芥子の実ふり
雀皿・・・ねじり沢庵、胡瓜漬け
台引・・・湯葉蒲焼き、蛇腹昆布、はじかみ、フルーツ寒天寄せ、ちまき
總持寺の写真は本葬終了後に写したものです。
銀杏の落ち葉がきれいでした。
故禅師様が總持寺を千年の森にしよう、と発願された樹々です。
今日はここまで。