らば~そうる “IN MY LIFE”

旅、音楽、そしてスポーツのこと。過去、現在、そして未来のこと・・・「考えるブログ」。

912.とりあえず‘Paperback Writer’

2008-05-05 | 12.THE BEATLES
【‘Paperback Writer’の素案をピアノで披露するポール】

 1966年 6月、ビートルズは半年間の沈黙を破ってシングル・レコー
ドをリリースした。“Paperback Writer c/w Rain ”である。同時期
ローリング・ストーンズは‘Paint It Black’を、ボブ・ディランは
‘Rainy Day Women ’を、キンクスは‘Sunny Afternoon ’を、ザ・
バーズは‘Eight Miles High’を、そしてビーチ・ボーイズは‘Sloop
John B’をリリースした。いずれも名曲である。そのためか長い沈黙
後に発表された‘Paperback Writer’を聴いた人々の最初の反応は、
「落胆」であった。今では信じられないことであるが、ファンや批評
家の当初の評価は、おおむね「これはたいした作品ではない」という
厳しいものであった。

 もっとも、‘Paperback Writer’がシングル・リリースとして選定
されるプロセスは苦渋に満ちている。この曲のレコーディングが開始
されたのが1966年 4月13日のこと。その一週間前にニュー・アルバム
制作に向けて‘Tomorrow Never Knows’のレコーディングを開始した
直後のことである。そして二週間後、4人に対してEMIは「ニュー
シングル」リリースを「催促」する。マーティン氏は語る。

 あの曲は、シングル用にレコーディングしたものではなかった。
 しかし、アルバムとシングルを同時期に制作しなければならなく
 なって、しかも、シングルを早急にリリースする必要があった。
 それで‘Paperback Writer’をシングルに選んだんだ。

 私に関して言えば、もっと別に好きな曲があった。そのうちどれ
 をリリースしても、‘Paperback Writer’よりは間違いなく売れ
 たんじゃないかと思う。

 なんとも複雑な事情である。スタッフがもろ手を挙げて選んだわけ
ではなかったようである。ジョンはさらに辛辣である。

 とてもベストな曲とはいえないな。でも、発売日に間に合わせる
 ためには、あれしかなかったのさ。

 この時点でさすがに「‘Tomorrow Never Knows’をシングルに」と
いう意見は出なかったようだ。

 このようにしてリリースされた‘Paperback Writer’に対してサン
デー・ミラー紙は、このように論じている。

 要するに、彼らも失敗するのだ。‘Paperback Writer’がビート
 ルズのレコードでなければ、間違いなくゴミ箱行きである。

 1966年になると、マスコミは4人の成功を伝えることにやや食傷気
味になっていた。そこに来てこの「失敗作」である。みんながここぞ
とばかり、4人を叩いたのである。

 「‘Paperback Writer’では踊れない」「こんなのFAB4のシン
グルじゃない」とファンからも、不満の声が数多く出たようである。
しかし、一方で4人やエンジニア達がスタジオで数多くの「実験」を
重ねた結果も出たのだ。それはある男のティーン・エイジャーのこの
コメントに表れている。

 あの曲がリリースされたのは、10代の初めの頃だった。学校の友
 だち、男子生徒はみんなビートルズよりもローリング・ストーン
 ズに夢中だった。ビートルズは女の子が聴くものっていうのが、
 僕たちの共通認識だったんだ。でも‘Paperback Writer’の音は
 強烈だったからね。あれで僕の考えはがらっと変わった。衝撃的
 だった。ラジオで耳にして突然目が覚めたって感じかな。

 ・・・その後40年・・・。‘Paperback Writer’はビートルズの
代表作のひとつであるばかりではなく、ポップ・ミュージックの世界
における未踏の領域へ、ビートルズが歩み始めたことを示す「モニュ
メント」的な作品として、高く評価されている。

 リアル・タイムでビートルズとともに「これからどうなっていくの
だろうか」とワクワクしながら時代を感じた人。後になって「全ての
結果」が出てからビートルズと出会う人・・・。ビートルズとの出会
い方は十人十色である。しかし、「耳にして突然目が覚めた」という
感覚には、ある種の共感を覚える次第である。



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2 Comments

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新しい音 (タケチャン)
2008-05-05 21:20:08
音があまりにも新しすぎたのだと考えていま
した。
ビートルズはいつも新しい音をつくってきま
したが、途中からさすがにファンにもついて
いけなくなったのではないでしょうか。

同じことはストロベリーフィールズ&ペニー
レインで起こりましたね。これはラブミード
ゥーを除いて、唯一イギリスでナンバー1に
ならなかったシングルでした。ジョージマー
チンは両面A面にしたことが原因だった、失
敗だったと発言してますが、このシングルは
いまやポップス史上最も偉大なシングルと評
価されています。やはり新し過ぎたのですね。
返信する
新しい詞 (らば~そうる)
2008-05-07 22:19:39
to:タケチャンさん

音のほう、少なくとも‘Paperback~’については
新たなファン層を開拓したようです。
ただ、旧来のファンにはとまどいがあった
でしょうね。

詞については、当時このようなレビューがありました。
「AB面ともどちらからもロマンスは感じられない。
1966年という時代に生きる人々の実生活を歌った曲。
そこには夢も希望も苦しみも何もない。」

ビートルズの歌の世界には「ロマンス」が必要
だったのでしょうか。
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