クリアファイルのその中は

何気ない毎日は、何気なく良い。

生きていた証・生きていく証

2012-12-09 23:37:53 | 日記
愛犬「むと」は、長男が出かける時だけ必ず吠える。

「うるさい!」と長男が怒鳴る。

玄関のドアが閉まるとピタっと鳴きやむ。

これがいつもの我が家の朝。


チャイムが鳴ると大音量で吠える。

だからチャイムが鳴ると反射的に次男が飛びあがり、むとをなだめる。

どんなに躾てもチャイムの反応だけは直らなかった。



でも今は、息子が出かけようと、チャイムが鳴ろうと、むとは吠えない。

12月4日、あまりにも突然に静かにむとは逝ってしまった。


何気に受けた9月の健康診断で、重篤の腎不全と診断された。

「長くは生きられません」と通告されたが、驚くほど元気で、病気だとは信じられないほどだった。

それが先週、急に食欲が無くなり、診察を受けたら点滴入院になった。


次男の大学入試の前日に入院し、翌日には退院できた。

家に帰ってからは眠ってばかりだったが、長男が出かける時は立ち上がり「わんわんわん」と吠えた。

「良かった~吠えたよ」と、いつも怒鳴る息子も今回ばかりはホッとして出かけて行った。


退院の翌日の診察の為に、夕方病院に連れて行った。

受付を済ませ、待合室の椅子に座った瞬間、むとはペタっと座り込んでそのまま息をひきとった。


あまりにもあっけなく逝ってしまった。


家に連れて帰り、息子たちと3人でむとを囲んだ。

まだ温もりのある体を3人で撫で続けた。

嗚咽と沈黙の繰り返し。

そして体温を感じられなくなった頃、3人とも黙ったまま手を放した。

テレビもパソコンもつけない長い長い沈黙の夜、自分達を責め続けることしか出来ないでいた。

怒鳴らなければよかった
もっと一緒にいればよかった
早く気が付いていれば・・・・・・ごめんね、むと。

後悔は心の痛みなのだとあらためて知った。


次の日、私は当たり障りのないチャンネルを選んでテレビをつけた。

むとが帰ってきたのに、こんなに静かだと気が付かないかもしれないじゃないか。
いつもの同じように賑やかにしよう、と。

そして子供たちに話した。

「きっと皆、ああしておけば・こうしておけばって悔やんでいると思う。

でも、もうそれは止めよう。

後悔するような事しかされていなかった不幸な犬になってしまうから。

可愛い仕草や、楽しかったことをいっぱい思い出してあげようよ。

そうやって、むとを幸せな犬にしてあげよう。」


それは言うほど簡単な事ではない。

哀しみを乗り越える術がわからないから、自分を責めることで哀しみから逃げているのだ。


でも。

【幸せな犬を飼えることが出来た私達家族って、なんて幸せなんだろう!】

そう思える日が来るよう、毎日むとのことを思い出してあげよう。

今はそれしか出来ない。