「自転車泥棒」という第二次世界大戦後のローマが舞台のイタリア映画。
この時代のイタリアは
職を求める失業者で溢れていたようで、
ひとりの男アントニオにようやく仕事の話が舞い込んできたのだが、自転車が必要不可欠だと言われる。
あいにくアントニオの自転車は、生活費のために質に入れてしまって手元にない…
ここで、この映画のタイトルが「自転車泥棒」とあることから、
自転車を盗んでしまうのかしら
とハラハラしてしまった私。
映画のネタバレを避けるため、
この先のストーリーをここで明かすことはしないけれど、
この映画の率直な感想としては
ずばり、ずっとハラハラし通しでした。
私のそのハラハラの理由は、
すべてその男アントニオにあって
まず
最初に彼の妻が登場するシーンでは
両手に重たそうなバケツを持って運んでいる妻に向かって、早足で歩きながら仕事が決まったが肝心の自転車が無いことを焦りながら伝えているアントニオ。
何でバケツを持ってあげないの?
もう少しゆっくり歩いてあげてよ、と
私のハラハラは危なげに歩く妻に向いてしまいます。
さらに、
映画のタイトルが自転車“泥棒”というのだから
自転車を盗んじゃうのか?
自転車が盗まれちゃうのか?
とハラハラしながら見入っておりました。
そして、
何よりもハラハラしっぱなしだったのは
父であるアントニオに一生懸命ついていく
幼い息子ブルーノに対して。
交通量が多い道だろうが、
人混みだろうが、
全然おかまいなしに突き進み、まるで息子を見ちゃいない父アントニオ。
大雨で濡れている道に滑って転んでも、
車に轢かれそうになっても、
人混みではぐれても、
駆け寄ってきた息子に「なにやってたんだ?」と叱責するばかりの父。
とにかく自分のことしか見えていない男を父に持った少年ブルーノの無事を心配し、
精神的な苦痛を心配して、
ハラハラしっぱなしだった私でありました。
ストーリーの結末は
父にとっても息子にとっても最悪なもの。
同情はするけれども
なんともお粗末な
しかしながら
だからこそものすごい人間臭さを感じさせる後味の悪さと
虚しさたっぷりの余韻に包まれました。
とにかく
1時間半程の本編なのだけど、
目が離せないと思わせられる描写で
ここに
この映画が名作と言われている理由があるように思います。
この映画における
純粋でけなげな息子の存在感はそれはそれは大きく、
行動、表情すべてが
この映画にものすごい深みを与えていました。
子供は親の背中を見て育つ。
父の背中を一生懸命に追いかけ、
父の役に立ちたいと頑張り、
そして
やっと父を正面から直視できた時、
父には威厳のかけらもないことを知ることになっても
それを受け止めることでこの息子は
またひとつ大きく成長することとなったのです。
モノクロであることで
この映画の重みが増しているのもあるかもしれません。
騒ぎに流されやすい群衆や
あまり親身になってはくれない警察など
当時のイタリアを見ることが出来る映画、
「自転車泥棒」
まだご覧になっていない方は
ぜひいかがでしょうか。