昨日は、幼年童話「母の友」の締め切り日。それまで中学年向けの作品を書いていたので、そんなに簡単に頭を切り替えられるかなぁと心配でしたが、何本か写経をしたり、作品を読んでいるうちに書きたいものが見つかりました。というより、思い出しました。
去年、宮津にお墓参りに行ったとき、タクシーの運転手さんに面白いお話を聞かせてもらいました。それをなんとかお話にできないかなぁと思いつつ、今までまったくまとまらなかった作品。それがあるイベントごとと組み合わせると、すぅーっと走り出しました。
何度か途中で筆が止まりそうになったものの、習慣というのはありがたいもので、毎日、時計を見ながら、2時だ、あと1時間で長女が帰ってくる。3時だ、もうすぐ下の子たちが帰ってくる!と時計とにらみあいながら原稿と格闘してきたせいで、なんとか3時すぎには原稿1本仕上げることができました。
子供たちを迎えに行ったあと、歯医者へ連れていき、買い物をして、6時ごろ帰宅。
「おかしがほしい、おかしが~」と商店街からずっと泣きわめいていた三女。「ごはん食べられへんようになるから、だめ」と言っても、夕食の用意ができないほど、足に腰にしがみついてきます。
とうとう、こん負けして、プリッツをひと袋、渡してしまいました。すると、さっきまでとは打って変わって、コロッとごきげんになった三女。プリッツをかじりながら、ピョンピョン飛びはねています。
い、今だ。夕食を食べたあとで…と思っていましたが、いつまた機嫌が悪くなるかわかりません。今日書いた幼年童話を聞いてもらおう。そうだ、今が絶好のチャンス! コンロの火をとめ、ねこなで声で3才の娘に近づいていきます。
「ママが作ったお話、聞いてくれるぅ?」
「うん、聞いたる!」
よろしくお願いしまーすと頭を下げ、パソコンの画面を見ながら、お話を読み出します。高いいすに座り、足をブラブラさせながら、プリッツをバリバリかじって、真剣に聞き入る三女。
でも、ふと気になることがあります。聞こうか、聞くまいか……。だけど、すっごく重要なことだし…。話を中断して、恐る恐る、聞いてみました。
「イノシシって知ってる?」
このお話は、イノシシが主人公。これを知らないと、話は始まりません。
「うん、知ってる!」
いつもどおり、自信たっぷりの返事が返ってきました。けれど、これだけでは安心できない。
「イノシシって、どんなん?」
うーんと首をかしげたあと、そうや!と何かを思い出して、三女の口から出た言葉は、
「ケンカはやめてよ~って言うねん」
「へっ?」
「メエメエ~も言うねん」
「そ、それは、ヒツジちゃう?」
「イノシシも、メエメエって言うねん!!」
お嬢様、ご立腹。だめだめ、ここで機嫌を損なわれては…。とにかく、最後まで聞いてもらわないと。そうやね~、イノシシもメエメエって鳴くときあるよね~となだめ、話を続けます。
この物語は、イノシシくんが『あるところ』に行くお話。そこまでを詳しく書くと、やはりそこで食いついてきました。真剣な表情に少しうれしくなります。
やっと、『あるところ』に到着。三女がモゾモゾしだして、口を開きました。
「そこには、リボンちゃんもいる?」
「はっ?」
「ハム太郎のリボンちゃんやろーっ!!」
娘、どこに火が付いたのか、まさかの炎上。丁寧に打ち消します。
「リボンちゃんはいないのよねー」
「ふーん、じゃあ、イノシシは、いっぱいいるのん?」
「うん、いるよぉ」
「なんで?」
で、出た! なんで攻撃が始まりました。あのね、今日はこういう日でね、こういう理由で、集まってるのよ~と詳しく説明します。ウンウンうなずいているところを見ると、理解できたようです。
「わかった! ほんとはいい人なんだぁって言うたら、ええねん」
「はっ?何が?」
「お世話になります、ブタさんって言うたら、ええねん」
「そやから、イノシシやって!!」
母たじたじ。それでもまだ「おもちゃ屋さんに行ったら、いいんちゃう?」などと喋り続ける三女にフンフン首を振りながら、最後まで読み通しました。そして一番、肝心なことをたずねます。
「どうやった?」「うん、どうやった」あかん…。『どう』の意味がわかっていない様子。気を取り直して、「おもしろかった?」と聞くと、「うん!」とうなずく娘。ヤッタ! 母、小躍り。
「じゃあ、どんなふうに、おもしろかった?」「おじちゃーんって言うとこが、おもしろかった」「・・・・・。」このお話に、おじちゃんは出てきません。気を取り直して、「おじちゃん、出てこないんやけど、このお話に…」「じゃあ、おばちゃん」がくっ。おばちゃんも出てきません。
珍問答を繰り返しているうち、三女が「あー、おなかすいちゃった~」と、空になったプリッツの袋をかみ始めました。彼女のエネルギーは、ここで終了。参考になったような、ならなかったような…。
仕方がない。傷つくのを覚悟で、となりで聞いていた小3の長女にも、たずねました。
「どうやった?」
待ってましたとばかり、長女が答えます。
「えーとねえ、あのな、イノシシ、◯◯したって言うやろ。それが、女の子か男の子か、わからん。そこをもっとくわしく書かな」
ぐっ。痛いところをついてきます。長女にさらにたずねました。
「それで…、このお話、出してもいけるかなあ?」
「うーん、いっぱい出したら、いけるんちゃう」
「数で勝負しろっていうこと?」
「うん、これだけでは、ムリ」
バサリ! 先週言われた傷もまだ治っていないというのに…。さらに長女が追い討ちをかけてきます。
「ママは、もっと本を読んで、研究しなあかんわ。なんか、図書館で借りてきてるけど、こんな本では子どもは喜ばない。もっと子どもが楽しいなーって思う本を借りてこないと…」
そう言って、長女が自分の本棚を指さします。こぎつねキッペや、わかったさんシリーズ、まじょ子などがズラリと並んでいます。
母、またもや撃沈。重ーい体を引きずり、夕食の用意にとりかかりました。
はぁ、明日はがんばろ…。
★追記
このとき、考えたお話は「いのししくんの入学式」というタイトルで、母の友に掲載していただきました。