「九雀物語」第5話
大きな体のカラス「ライ」は子雀のカイやトキのことを懲らしめる様子もなく
今まで通ってきた生きざまを少しづつ話してくれました。
そして、ふと思い出したように、
「そうだ!俺の仲間のカラスが食べ物を採っている下の所を見てみろ!」
「俺の仲間の近くに小さな雀がいるだろ」
そう言われたカイとトキが下を見てみると、確かに5、6羽のカラスの近くに
一羽の小さな雀がカラスの仲間のように食べ物を採っているのが見えました。
「ちょっと待ってろよ」
と言ったカラスのライが食べ物を採っている仲間のカラスのいる方に向かって少し高い声を出すと、カラスたちは一斉に、ライの方に振り向いたのです。
そして、小さな雀だけを自分のいるところに呼びました。
カイとタケは、カラスのライが自分のカラスの仲間のように小さな雀を呼び寄せたので、少し驚いてしまいました。
カラスのライは、雀が傍に来てからカイとトキに向かって
「お前たち、少し驚いただろ! 実はこいつは女の子雀なんだ」
「それに、片方の目が見えないんだ」
「いつだったか、俺が森の近くを飛んでいるとき、雀の連中が、同じ雀を
いじめているのが見えたので、おかしなことをするなと思って近くで
見ていたんだ。 いじめているのも、いじめられてるのも子雀だったな」
「どうやら、こいつの目のことで仲間はずれにしていたんだな」
「他の鳥のことなんか、どうでもよかったけど、少し腹が立って、いじめている子雀
を、俺が追っ払ってやったんだ」
「それから、こいつは雀の仲間のところに戻らないで、俺の行くところに付いてくる
ようになって、俺の仲間もカラスの連中と一緒に扱ってくれるようになったんだ」
「だけど、いつまでも俺たちの仲間ではいられないから、
どうだ!お前たちが、一緒に連れて行かないか」
思いもかけないことを言われたカイとトキは、驚いて顔を見合わせましたが
カラスのライの威圧におされて、了解のうなずきをしてしまいました。
第5話終了
九雀物語」第4話
それでなくとも小さな2羽の子雀は更に小さくなりながら、声の主を確かめようと後ろを振り向いてみると、そこには今まで見たことのない大きなカラスが
今にもつつきそうな嘴で構えながら、鋭い眼光でこちらを睨んでいました。
その異様な怖さに逃げ出すこともできず、2羽の子雀はすくみあがるだけでした。
相手を見ることもできず震えていると、大きなカラスは低く重みのある声で
「何をしてるんだ」
と一言聞いてきました。
あまりの突然なことと、目の前のカラスの大きさに怖れながらカイが小声で
昨日から今までのことを話しました。
すると、大きなカラスは、その厳しい眼光をゆるめながら
「雀の連中はいつも集団で飛び回っているのに、お前たちのような子雀が
勝手なことをしていいのか?」
「俺たちカラスでさえ、少し気を緩めると人間にやられるだけでなく、タカ
やハヤブサに狙われるんだぜ」
「お前たち雀にも決まったことがあるだろう」
少し怖さのほぐれたトキが、一度、親たちから離れて別の世界を冒険したくなって、
カイを誘って飛び出したことを話しました。
大きなカラスは、そんな子雀の話を聞いてゆっくりと話し始めました。
「俺の名前は、ライだ」
「他のカラスの連中も俺のことは知っているはずだ」
「親が狐に襲われて殺されたから、小さかった俺は誰にも負けないカラスになろうと生きてきたんだ。
他のカラスより身体が大きく強くなったから、仲間ができたんだぜ。」
「お前たちのような子雀が親から離れて好きなことをしようとしたって、
何ができるんだ。」
怖ろしいカラスと思っていた子雀は、少し心がほぐれてライの話に引き込まれて行きました。
第4話終了
九雀物語、第3話、
トキの思い切った行動に驚きながらもカイは、自分もそんな事に少しは入り込んでみたいと思いだしていました。
実際、トキとは約束をして隣村に行くことにしているのです。
約束の前の日、親と一緒に巣の中に戻ったカイは、明日のことが気になりなかなか眠れません・・・・
親に言ってからでは許してくれるはずがないから、みんなが寝ている間に黙って抜け出そうと思っています、でも親と離れて行動したことのないカイには、少し不安です。
色々と思っているうちに、トキが言っていた、カラスの連中も狙っているエサ場の事を思い出し不安を消そうとしていました。
約束の日の朝、カイは、昨日から考えていたように、親がまだ寝ている間に、気づかれない様にして巣を抜け出しました。
自分が居なくなった後、親が心配するだろうという気持ちは、トキが言っていた面白さの事で一杯になり、なくなっていました。
待ち合わせの場所に行くと、トキは、先に来ていました。
トキ「よくきたね、もしかしたら、来ないのじゃないかなと思っていたよ」
カイ「うん!本当は、昨日から親父のことを考えると心配になって少し眠れな
かったんだよ」
トキ「親達も、俺らが居なくなると心配して捜すだろうけど、大丈夫さ、また 夕方に帰ればいいんだ、少し怒られるだろうけどね。」
カイ「そうだね」
トキ「じゃあ!行くよ!」
カイ「ようし!」
昨日から色々なことが心配だったカイでしたが、トキの積極さに引っ張られて飛び出すと、そんな事を忘れて、トキが言っていた出来事の面白さに期待がふくらみ夢中になり始めていました。
トキが言っていた村の近くに着いたとき、カイは緊張でいっぱいです。
親と離れてきたこともそうですが、昔、長老たちが出くわした怖いことを思い出し、だんだん心配が膨らんできました。
トキ「ほら、カラス達が集まってきただろう」
カイ「うん」
トキ「カラス達は、人間たちが食べ残した物を、あの村のはずれに集めてくる
のがもう直ぐだと分かっているのさ」
「人間は、カラス達が、それを取りに行くとき、エサ以外は、あちこちに 散らかすのを嫌がって何度も追い散らそうとするけど、賢いカラスは見張り役がいて、人間が近づくと、あのカーカー声を変えて知らせるのさ」
カイ「ふーん」
トキ「ほら、人間が、一杯袋みたいなのを持ってきただろう」
カイ「本当だ、ゾロゾロ来るね!」
トキ「時間が決まっているのさ」
そんな事を、二羽の小雀が緊張しながらカラスや人間の動きを見つめていると、
急に二羽の後ろから
「おい!!」と小さな声だが、押しの利いた声がしました。
こわごわ、前のほうばかり気をとられていた小雀たちは、隠れていた所から飛び出そうとするくらい驚いて、その声のするほうを振り向きました。
第3話終了
九雀物語」第2話・・・
カイは、巣床に入ったまま、2日前に出会った東の森の小雀(トキ)が言っていたことを思い出しています。
トキの家族は、以前 カイと同じ森の仲間でしたが、長老とエサの事でもめて、東の森の仲間にに入ったのです
「カイ、久しぶりだね!」
「ああ、そうだね トキ、この頃お前のところはどうだい」
「この森にいたころと一緒だよ、向こうの森でも長老がいてさ、結局、親父もそいつに逆らったら いいエサ場を与えられないから、ブツブツ言いながらも付いていってるよ。
でもさ! この間、少し早く森に帰っていたとき退屈して、チョット親父が、 うとうとしていたんで、東の森の近くの方へ言ってみたんだ。」
「エッ! うちの長老は、絶対、村には近づくなって言ってるぜ。」
「そうさ、人間がいるからな! 昔、長老が若い頃、何羽かで村にエサを探しに行ったらしいのさ、 その時、大きな網がしかけてあって、長老以外はみんな捕まったのさ。
だから絶対、他のものが行っても行かないのさ、俺の親父が言っていたよ。!
だけどこの間、俺が行ったとき、カラスのやつらが来ていたんだ、5・6羽だったよ。
面白そうだから、村の一番大きな家の屋根の下に隠れて見ていたんだ。」
「怖くなかったかい」
「少しね、 だけど、カラスの連中は賢いよ、人間たちは、俺たちと違って食べ物をいっぱい残すんだ。 それを村の外れの所に持ってくるのさ。
だから、カラスの連中は、それをずっと待っていて、人がいなくなれば飛んでいくのさ。
俺も、カラス達が帰った後、ちょっと行ってみたら、今まで見たことがないエサが、まだいっぱいあったよ!」
「ヘエー、俺も一回行ってみたいな。」
「そうだな、もう俺たちもいくらか大きくなったんだし、いつまでも長老にペコペコしている大人達についてゆくのもあきあきしているんだ、
2・3日したら一緒に村を出ないか!」
「ウーン・・ だけど、俺は母親が早く死んで、親父と2羽きりだからな・・・」
「なあに、親たちは俺らがいなくなれば、 エサを探すのが楽になるって喜ぶよ。」
「そうかな・・・、 じゃあ!3日したら一緒に出よう。」
約束から3日目の朝になり、カイは少し迷いながら、トキとの約束の場所へ飛び出しました。
第2話終了
創作童話「九羽の小雀の冒険物語」
「九雀物語」、第1話
この物語は、小さな村の近くの森に棲む、雀(カイ)が、単調な日々の暮らしにうんざりして、親に反発するところから始まります。
今日も、お日様が、山の向こうから昇り始め、周りがボンヤリと明るく成りだすと、木々の陰で眠っていた親鳥たちが、その家族や、仲間の存在を確かめるように大きな冴えずりを始めます。
「おおい!カイ、もうみんな集まっているぞ」 カイの父親タケが、いつまでも起きてこない息子を叱り付けます。
「俺は、今日あいつらと一緒にはいかないよ!」
「何を言ってるんだ!長老が川向こうの森の中に実がたくさんある木を見つけたと言っている、早くしろ。」
「フン、どうせ去年と一緒のグミの木さ・・・」
「何でもいいじゃないか、早くしないと皆飛び出すぞ。」
「ああ!いいさ、俺は今日行かないよ」
「川向こうの森の中にいるはずだから、後でもいいから来るんだよ」
父親の タケはいつまでも巣から出てこないカイを叱りながら、長老たちにせかされて、先に飛んで行きました。
カイは、巣床に入ったまま、2日前に出会った東の森の小雀(トキ)が言っていた事を思い出しています。
トキの家族は、以前カイと同じ森の仲間でしたが、長老とエサの事でもめて、東の森の仲間に入ったのでした。