みなさまこんにちは。ぶどうが大好きフリーライターの少年Bです。
今日もぶどうのはなしをさせてください。今回のテーマは「数を減らしてゆく品種」です。
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すべてのぶどうは品種改良がされています。いままで作られてきた品種もそうですし、さらによい品種を……ということで、毎年のように、どんどんあたらしい品種が生まれています。
そうすると、新品種によって淘汰されたり、新品種として華々しく登場したにもかかわらず、既存の枠に入っていけなかったり……というぶどうが出てきます。
今回は少年Bの独断と偏見でさいきん見なくなった、見る頻度が減った品種をふたつご紹介したいと思います。
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「キングデラ」
「キング」の名の通り、大きな「デラウェア」をイメージしますが、デラウェアとはまた別の品種。1985年に品種登録された、大阪生まれのぶどうです。デラウェアの枝変わり品種「レッドパール」にいわゆるマスカット「マスカット・オブ・アレキサンドリア」を交配して作られました。
粒の大きさはデラウェアの1.5~2倍程度。と言っても、デラウェア自体がものすごく小粒の品種なので、巨峰と比べると1/4~1/3ぐらいのサイズです。
マスカットに由来する上品な甘味もあり、デラウェアをサイズ・味ともにブラッシュアップさせたような品種です。
「サニールージュ」
しかし、転機が訪れたのは2000年に品種登録されたサニールージュの登場です。巨峰の後継品種「ピオーネ」にキングデラと同じくレッドパールをかけ合わせた品種です。育種者は国の機関である農研機構。あのご存じ大人気のぶどう「シャインマスカット」を育種した国の機関です。
デラウェアと巨峰のいいとこどりをした濃厚な甘味。キングデラよりも、さらにひと回り大きな粒。上品な甘味のキングデラと方向性は違うのですが、「デラウェアを進化させた品種」というおなじコンセプトで生まれたぶどうです。
最新のデータがないので少し古いのですが、キングデラとサニールージュの作付け面積を比較してみると、2008年はキングデラが48.0haに対してサニールージュは18.5haでしたが、2013年にはそれぞれ33.9ha、32.6haとほぼ同等に。2017年には同20.6ha、38.4haとサニールージュが逆転しています。
すでに巨峰以上のサイズのぶどうがどんどん誕生している現在、どちらも中粒品種と呼ばれるサイズになってしまっているのですが、ともに「デラウェアの後、巨峰の前に収穫できる大粒の品種」を狙ったぶどうです。結果的に栽培しやすく、粒も大きいサニールージュに軍配が上がったようです。
もっとも、ハウス栽培されたキングデラは高品質と評判であり、贈答用などとして果物店を中心に販売されていますが、スーパーではかなり探さなければ見つからなくなってきています。一方、サニールージュは近所のスーパーでも比較的手に入りやすくなっており、「デラウェアを進化させた大衆品種」としての地位は完全にサニールージュに移ったように見えます。
上品な甘味が魅力のキングデラ。もし見つけたら、ぜひ買って食べてみてくださいね。!
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「グローコールマン」
「グロー(大きな)コールマン(石炭)」の名前どおり、大粒で黒いぶどう。大きさはだいたい巨峰くらいのサイズです。
このグローコールマンは11月下旬から12月にかけて出荷される、冬のぶどうで、「コタツぶどう」の異名があります。この時期に出荷される国産のぶどうはめずらしく、他には青森県の「スチューベン」くらいです。大粒で甘さは控えめ、上品な味わいの品種です。さっぱりとしたやさしい甘さはこの品種独特のもので、他のぶどうでは決して味わえません。
そのため、小粒でくにゅっとした食感、強烈な甘さを持つ低価格のスチューベンとは競合せず、自家用や贈答用に中~高価格帯の値付けがされていました。スチューベンとは冬版のデラウェアと巨峰のような関係性とイメージしてもらえるといいかもしれません。
スチューベン
グローコールマンは純粋な欧州系品種で、原産地はロシア南部のコーカサス地方。歴史も古く、海外でも流通している品種だそうです。日本では岡山県産がシェアの98%を占めるとされ、実質ほぼ岡山県でしか育てていません。露地栽培が困難であるとされ、マスカットオブアレキサンドリア同様、ガラス温室で育てられているそう。
そんなグローコールマンですが、わたしはここ5年くらい姿を見ていません。代わって姿を見るようになった品種は「紫苑(しえん)」。おなじく、岡山でさいきん作られるようになった晩生(おくて)のぶどうです。
紫苑(google画像検索のキャプチャ)
紫苑は紫色の大粒のぶどうで、甘味が強くジューシーなのが特徴。山梨県で生まれた品種です。本来は9月下旬から10月上旬のぶどうだそうですが、岡山ではグローコールマンと同様に11月末から12月に出荷されています。
最大の特徴はグローコールマンと違い、種なしになること。近年は「種なし、皮ごと」食べられる品種の人気が高いため、種ありのグローコールマンからの切り替えが進んでいるようです。
このせいかグローコールマンの作付け面積は2008年の17.0haから2013年は12.0ha、2017年には10.0haと9年間で4割以上も減少しています。
こちらは味や見た目の面ではまったく違う品種なのですが、「冬の時期の贈答用」という用途が被ったために、数を減らしつつある例です。
このグローコールマンも、ほかのぶどうにはないさっぱりとした穏やかな甘味が特徴。かなり貴重な品種になってきているので、冬にスーパーで見かけたらぜひ買ってみてください。
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現在、わたしが個人的に気になっているのが、シャインマスカットの後継品種争いです。シャインマスカットは短期間で絶大な人気を獲得した、ぶどう界のスター。そのシャインマスカットを親にした品種が、いまものすごい勢いで増えているのです。
「コトピー」
先陣を切って登場した赤いぶどう・コトピーや……
「雄宝」
1粒が30gにもなるという雄宝(ゆうほう)。見た目によらず、梨のようなさわやかな甘味が特徴です。
「クイーンセブン」
糖度は27度を超えるとも言われる、現在最甘の品種・クイーンセブン。
「マイハート」
粒がハート形になるというマイハート。
その他、赤系品種で最大の大きさになる「バイオレットキング」や黒の超巨大品種「富士の輝」、「天晴」、「恋人」、「ほほえみ」、「我が道」、「スカーレット」に「マスカットノワール」、「マスカ・サーティーン」……まだまだたくさんの品種が生まれています。
おそらく、この「次世代の覇権争い」にも数年後には決着がつくでしょう。シャインマスカットを親に持つもの同士の品種で残るもの、そして消えるものがはっきりとしてくるはずです。
逆を言えば、この群雄割拠時代にしか味わえないぶどうも必ずあるはずなんです。覇権を握る品種の登場を楽しみにするとともに、その影に消えるであろう品種も、せめて記憶と記録に残しておきたいなぁ、なんて、ぶどうマニアはそんなことを思っているのです。
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