新春ドラマで倉本聰さんが人情コメディ(「拝啓、父上様」)に挑戦するということで、また私も頑張らなくっちゃ!と奮い立ち、記事をしたためようと思います。
以前『ギョーカイに飛び込む!NHK立志編』にて、NHKを紳士・神様と崇め、初仕事に舞い上がった倉本さんをご紹介しましたが、その“神様”と大きな亀裂が入った事件──NHK大河ドラマ「勝海舟」事件についてご存知の方はどのくらいいらっしゃるでしょうか…。
1973年。
当時病床に臥していた、倉本聰氏のお母様は、たまたま外泊を許可され、執筆依頼の話を聞き、狂気して赤飯を炊いてくれたそうです。
「あんたNHKと喧嘩しちゃダメよ」
半年後に起こる事件を予兆するような言葉をささやき、お母様は興奮して喜んでくれた。ところが「勝海舟」は最初から難航しました。
まず尾上松緑さんが、ディレクターT氏と衝突。次に勝海舟役の渡哲也が病気降板してしまったのです。この降板も尋常ではありません。高熱をおして点滴をしながら仕事に来る渡さんの様子を、二、三週間NHKは放置していた…。
見る見る痩せて行く渡哲也さんを見ても、プロデューサーはこの事態を上司に報告もしなかったのです。
ストックはどんどん底をつき、番組は危機に迫られます。それでも我慢強く責任感の強い渡さんは自分から降りるとは云い出せない…。見るに見かねて倉本聰氏が部長に、これは人道上の問題ではないかと進言したのでした。(脚本家がそうしなければいけない現場って、今考えればかなり異常です)
事態を全く知らされていなかった部長は仰天し、急きょ降板の指令が出ます。
しかしあまりの突然の降板とストック不足からのタイムリミットで、次の代役がつかまらない──。
プロデューサーに泣きつかれ、なんと倉本さん本人が東映の岡田茂氏に直談判して松方弘樹氏を借りることを懇願したと書いてあるじゃありませんか!
『本人を直接口説いてこいと云われ、僕はその足で新幹線にとび乗り、大阪梅田コマ劇場に出ている松方に逢った。松方は快諾してくれた。ドラマは急場を切り抜けた。その頃、母が脳血栓で意識を失った。病院に運ばれ、その床で僕は「勝海舟」を書いた。そして二週間後。母は死んだ』
大役である大河ドラマの脚本を引き受け、主演が緊急降板し、母親の死の病床でホンを書く…。それでもギョーカイの凄まじさは、まだまだ終わりませんでした。
『全役者を集めての本読みは、僕にとっては必須の仕事だった。脚本家はシナリオという活字の上だけではどうしても表現しきれないことがある。シナリオというものはいわば“寝ている”ドラマである。それを起(た)たすのは演出家であり役者である。ところが脚本家が台本を書く時当然、“起き上がった姿”を想定して書くから、その起き上がりが時にとんでもない方角に誤解されると台本全体が崩れてしまう。だからその“起き方”をチェックするのが本読みに於ける脚本家の仕事である。僕はこの本読みを、脚本家の義務だと思っている』
ところが当時、本読みをする脚本家は極めて少なくなっていたのでした。
本読みのことを訊ねると、何か脚本家が演出権を侵害しているような、権利主張をしているような、そんな風にとられる風潮がテレビ界の中に充満し、「あいつはうるさいホン屋」だという風潮が出来上がっていたのです。
そんな状況だったので、倉本さんが帰った後、
「では“作家が帰ったからホンを直します”」
なんていうことが起こり、それは倉本さん自身の耳(役者さんたちからの忠告)にも入り、極めて不愉快な事態になりつつあったのです。演出家T氏とは特に確執を強めていった…。
今振り返ると「生意気」と「若気のいたり」と言いつつ、やはり筋の通らないことが許せなかった倉本さんは、チーフディレクター、プロデューサーに改善を申し入れました。そのことについて、演出家T氏にも話をしてくれたそうです。ところがこのことは、T氏を開き直らせ、反発をかっただけでした。
『当時NHKでは組合問題が渦を巻いていた。上田哲氏を中心とするNHK労組の力は暴力的に強く、あらゆる制作の場で、「創造」よりもサラリーマン労働者としての権利主張が異常なまでに幅を利かせていた。
(中略)ロケーションはもっとひどい。例えば長崎ロケ。東京ロケ隊は同じNHKの九州総局(福岡)、長崎支局の各労組に、労働分配でのお伺いを立てねばならなかった。結果、こういう決定がなされた。
東京から行ったチーフカメラマン、九州総局のカメラマン、長崎支局のカメラマンの均等独自に仕事をせねばならない。で。坂本龍馬がオランダ坂をかけ下りるシーンの撮影に、まず東京が撮る。次に福岡が横から撮る。最後に長崎が下から撮る。坂本龍馬役の藤岡弘は、三回意味なく同じアクションを強いられ、それを同時に三台のカメラが撮るならいざ知らず、独立別個に撮影するのだから、見ていた僕には訳がわからなかった』
プロデューサーのK氏やチーフディレクターのN氏は管理職であって非組合員。ところが問題のT氏は組合員でした。
やがてこの“バカ”(と倉本さんは書いています^_^;)はあろうことか、管理職が外部の作家にあげつらい組合員をないがしろにした、と組合に訴え出てしまったのです。
ある日倉本さんはチーフディレクターのN氏に呼び出され、そういった事情を説明されて、(T氏に)折れて欲しいと泣きつかれたそうです。驚いたことにN氏は本当に涙を流していた…。
そんな事が前提的にあり、後日、決定的なことが起きてしまいます。
文字数が足りないので、続きはまた近日中にアップいたしますねm(__)m
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今読み返してもすごい話ですが、私は残念ながらこのドラマを見ておらず、とても悔しいです。
倉本さんの書いた大河、見たかった…。
松方さん、粋な方ですね。
こういう絆が時を経て実を結ぶんだと思います!
コメントありがとうございます。