こういうドラマを見るといつも私は男性という生き物に嫉妬してしまいます。男にしか描けない、骨太の群像ドラマがそこにあるからです。
「クライマーズ・ハイ」──「半落ち」の横山秀夫氏原作のドラマ化です。俳優陣は一見地味ですが、見るものをそそる脇(岸部一徳、松重豊、塩見三省他)でがっちり固められた力作。
題材は忘れもしない、1985年8月12日に起きた日航ジャンボ機墜落事故・・・。私は当時会社でランチを食べながら、テレビに釘付けになっていたのを今でも覚えています。
主人公は群馬県の地方新聞記者。このショッキングな大事件に遭遇し、全権デスクを任された悠木(佐藤浩市扮す)の一週間を、人間関係の軋轢を絡めて描いています。
友人と谷川岳に上る計画を立て、その出発と同時に入った大ニュース。満員の乗客を乗せたジャンボ機が群馬と長野の県境で消息を絶った・・・。この時点で記者たちは事故現場の特定に右往左往します。それと同時に主人公に入ってきた更なる知らせ──。一緒に谷川岳に向かった販売部の友人(赤井秀和扮す)が昏睡状態で入院したというのです。
「下りるために登るのさ」友の言葉が主人公の胸に妙に突き刺さります。
次々に入ってくる情報に翻弄され、未曾有の大事件と重体の友人、ぎくしゃくした家庭問題などを抱え、悠木は神経の休まる暇のない一週間へと突入していきます。
普通ならヒューマニズム、あるいは新聞というメディアの持つ力の残酷さなどがテーマになりがちなところへ、もっと猥雑なしがらみが描かれているのが横山秀夫氏の真骨頂。
悠木の上司たちはかつての連合赤軍事件、大久保清事件をよりどころにしており、自分達の功績が霞むかもしれないこの大事件に嫉妬をむき出しにします。派閥争いも絡み、団結すべき大事件を前に個人の複雑な感情が渦巻き、取材や紙面作りもどんどんゆがんでいく・・・。この矮小な争いと大事件との対比が絶妙です。
さて、事件から4日後、事故原因を特定したスクープが舞い込んできます。これをトップに載せるための裏づけがどうしても取れない・・・。深夜を回って販売部と時間との勝負です。
「プロと素人の登山家の違いは、山頂間近で諦められるかどうかだ」
この言葉が脳裏によみがえり、悠木は不確かなスクープをあえて断念──。
「逃げた」と陰口を叩かれながら、彼は友人から耳にした“クライマーズ・ハイ”(登山中興奮状態に陥り、恐怖に無感覚になること)と、心の底で戦い続けます。
次に飛び込んできたのは亡くなった乗客の遺書と言えるメモ。それと前後して、悠木が抱える心の傷、不慮の事故で亡くなった部下の従姉妹が新聞社を訪ねてきました。ここで悠木は最も大きな困難を迎えることに・・・。
彼女は命の本質を忘れかけている新聞社を鋭く責め、悠木に言い放ちます。
「世界最大の事故だと命の重さも大きくなるんですか。三面記事扱いのあなたの部下の死は小さいんですか。メディアはただ事件の大きさに興奮しているんですよね。読者に遺族の本当の悲しみは決してわかるはずなんかない…!」
この言葉を読者投稿欄に載せて欲しいという彼女。悠木はここでOKの決断を下します。読者の反発が目に見える、新聞の論調と相反する記事内容。
彼は、亡くなった部下への詫びの気持ちからではないと断言し、内部反発に耳を貸さずに掲載を断行します。
翌日は案の定、苦情の電話の嵐です。部下の従姉妹からは
「乗客の遺書のメモを読みました。私は何てことをしてしまったのか・・・」と後悔の電話が入るも、遺族からの苦情は一本もない。とはいえ上層部がこの顛末を見逃すはずがなく、悠木はあえなく左遷されることに・・・。
それでも彼は新聞記者という仕事から逃げず、20年の歳月ののち、一緒に登山するはずだった友人の息子と二人で、再度谷川岳へ登ることになります──。
ラストにはしっかりと胸を打つ“宝物”(これは本当に胸に響きました)が用意されていて、見ていて何か晴れ晴れしい気分にさえなったこのドラマ。やっぱり外側から判断しきれない多くの驚き、そして感動がありました。
この原作が高く評価されたのも納得。こちらまで20年前、かつて傍観者としての“クライマーズ・ハイ”になりかけていた自分に気づかされた、警鐘とも言える素晴らしい作品でした。
映画だったらきっと見なかっただろうな、と思います。力作を届けてくれたNHKに感謝です・・・m(__)m。
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あぁ。テレビ版借りてきてもう一回見ようかなぁ。
映画はこんなさわやかな気持ちにはならなかったな。
悠木はさほどせっぱつまってなかったし。
う~ん
負けたんかしら。
当時はNHKに珍しく(?)感動して、興奮のあまり書いてしまいました。
ドラマでは赤井英和が良かったですね…。
ギスギスした雰囲気を和らげる、いい役どころでした。