尋ねてきた二人の男を困惑の表情になったのも無理はない、スカー、一人なら快く迎えたのだが、何故、マスタング、彼までいるのだ。
賢者の石で彼の目を治療してから会うことはなかったのだが、もしかして、治療後の不具合かと思ったが、見た限りでは、そんな様子は感じられない。
来るなら事前に連絡ぐらいしてくれてもいいのではないかと思いながら二人を家の中に入れるとマルコは悩んだ。
傷の男、スカーはアームストロング、オリヴィエの下で働いている、軍に所属しているが彼女の性格は知っている、マスタングより融通の利く人間だと思っているので、スカーを通して話ができたらと思っていたのだ。
「先生、お一人ですか」
何だねと言いかけると途中で女性に会った事をマスタングは話しはじめた。
「患者ではないようでしたが、助手の方でしょうか」
「最近は患者も増えてきたからね、色々と行き届かないところがあって、手伝ってもらっているんだ」
「イシュヴァール人ではないみたいですね」
突然、何を言い出すのか、だが、それはマスタングの隣に隣に座っているスカーも何か感じるところがあるのか、妙な視線を自分に向けている。
「いつから、こちらに」
正直に話した方がいいのかと迷っていると声が聞こえてきた。
先生、お元気そうで安心しましたよ、運ばれてきたコーヒーを飲みながらキンブリーはにっこりと笑った、反対にマルコーは、げっそりと陰鬱な気持ちになった。
「それにしても助手だったんですか、しかし、頂けませんねえ」
キンブリーの言葉に大佐とスカーは何を言い出すのかと、不思議そうな顔つきになった。
「夜も退屈どころではないでしょう」
「下衆の勘繰りだ、それは」
むっとし顔でマルコーはキンブリーを見た。
「彼女の来ていたシャツ、先生のお古のようですね、随分と着古してくたびれていた、あれでは自分の女だと公言しているようなものですよ」
「そ、そうなのか、先生」
マスタングの言葉にマルコーは首を振った、ふと視線を感じて目を向けるとスカーが自分をじっと見ている、何か言いたげにだ。
「色々とあるんだよ」
何か理由をつけてと思うが、うまい言い訳が見つからない、まさか、今日、来るとは思っていなかっただけに誤魔化そうにも、うまい言い訳が見つからない。
「では、私が手を出しても」
キンブリーへの言葉にマルコーは思わず声を荒げた。
「駄目だ、いや、その」
キンブリーは、にっこりと笑った。
「事情がありそうですね、だから、傷の男を呼んだんですか」
妙な沈黙の後、マルコーは、この男の口のうまさにまんまと乗せられたと思った。
その日の夜のこと。
先生、お願いがあるんです、ひどく真剣な顔つきでマルコーはわずかに緊張した。
「警察の人に相談してくれるという話しがありましたよね、少しの間、保留、もしくは、なかったことにできませんか」
こればかりはすぐには返事かできない、理由はと聞こうとして思った。
「怖いかね、警察、そういう施設などの関係者に知られるのが」
沈黙は長くは続かなかった。
「そうなんです、自分の住んでいたところ、よその外国では政府や警察が真面目に仕事をしているかと言われたら、それで困った事になるという場合もあって」
正直、こんな事を言い出すとは思ってもみなかった。
イシュヴァールは今、復興中といってもいい、だからといって安全とはいいがたい、現地の子供、女性でもトラブルや犯罪に巻き込まれてしまう、外国人の女なら、そのリスクは大きくなる可能性もある。
「家族に会いたくないかね、友人は、心配しているかもしれない、少しでも帰れる可能性が」
「色々とあって、実は両親は」
ぽつりぽつりと話すのをマルコーは黙って聞いていた。
「育ての母の祐子さんとは仲は悪くないと思います、でも、父の存在は」
「変わっているというか、うーむ、複雑だな」
話を聞いたマルコは内心げっそりとなった、実の母、彼女を生んだ母親というのは少しどころではない、随分と変わった女性らしい、まるで映画やドラマのあらすじを聞かされた気分だ。
少し考え込んだ後、マルコーは口を開いた。
「色々と教えるから、ここで助手として、今まで通り、暮らすかね」
「は、はい?、今まで、通り?ですか」
不可解な顔をした彼女にマルコーは言葉を続けた。
「警察や施設に行けば色々と聞かれるだろう、今、話した事を信じろというのは、この国の人間には、少し、どうだね」
はあっと美夜は溜息をもらした。
「人が良すぎます、先生には全然、良い事なんてないというか、厄介な居候を住まわせてるというか」
「年配者のいうことは素直に従うものだ、現に今の私は助かっているよ」。
「肩、揉みましょうか」
「そうだな、お願いしようか、明日は天気がよければ洗濯だな」
寝具のカバーや枕を洗ったり、干す事など、今まであまりしなかったといってもいい、久しぶりで先日は部屋のカーテンを洗うと、部屋の中が明るくなったようで驚いた。
「助かっているよ、色々と、部屋の中、診療所も綺麗になって患者も喜んでいる」
「本当、ですか」
マルコーの返事はない、うとうとと眠りに落ちていたからだ。
一体、マルコーは自分に何を相談したかったのかと思っていた、ここ数日の疑問が解けたスカーだが、正直、気分はよくなかった。
それというのもと大佐とキンブリーには聞かれたくないらしく、帰り際、二人に聞かれないように今度は一人で来てくれと言われてスカーは迷った。
二人に色々と質問されていたが、最低限の事しか話さなかった気がする、いや、曖昧すぎて二人とも最後にはマルコーから聞き出すのは無理と思ったようだ、気弱な性格だから質問攻めにすれば話すと思っていたようだ、だが、頑固なところもあるのだと改めてスカーは思った。
シン国、イシュヴァールの人間ではない、どこの国から来たのか、子供なら誘拐、人身売買ということもあり得るが、大人の女だ、否その可能性がないとはいえないが、違う気がする、態度や口調から、そんな印象は感じられなかったからだ。
休みが取れ次第、診療所に行こうと思っていたが、今の仕事に就いた当初にマルコーには色々と世話になっている、怪我を治してもらったこともある、イシュヴァール人として、やはり、ここは行かなくてはとスカーは思った。
思い立ったらなんとやらだ。
「有給希望、期限は十日ほど、場合によっては延長の予定あり」
という紙を人事に提出してスカーはバイクに乗り診療所に向かった、上司、オリヴィエの許可は取らずにだ、今まで休みなど殆ど取らず、無休状態で働いていたのでいいだろうと事後承諾というやつである。
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