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第一話 知らない場所と世界に来ていた、イシュヴァールの診療所

2020-09-04 12:50:47 | 二次小説

 確か、昨日は久しぶりに飲んで電車に乗ったところまでは覚えている。
 それなのに目をが覚めたら見覚えのない景色が目の前に広がってる、しかも、広い草原が一面だ、いや、周りには山も見える、自分の家、近所ではない。
 寝ぼけている、それとも頭がおかしくなったのだろうか。
 ここは死後の世界、あの世に行く途中ではないかと思ってしまった。
 しばらく呆然としていたが、だが、ここで、いつまで突っ立っていても仕方がない。
 歩き始めて気づいたのは足の裏の感触だ、夢にしてはリアル過ぎる、感覚もある。
 怖くなってきた、それに随分と歩いたが、周りは山と草原が続いている、時計がないので正確な時間は分からないが、段々と足が疲れてきた。
 どれくらい歩いていたのか、あれは街だろうか、建物を見つけてほっとした。
 人がいる、あそこまて行ければと思って歩き出したが、雨が降ってきた。
 ゆるい雨が、少しずつ激しくなってくる。
 
 こんな時に雨なんて、シャツもジーパンもユニ○ロ、スニーカーなのが幸いだ。
 (あれ、家かな)
 家というよりは物置のようにも見える、せめて軒下で雨宿りができれば少しはましだろうと歩き続けた。
 着ている服も靴の中もびしょ濡れで気分がだんだんと滅入ってしまう、立っているのも疲れて壁にもたれて雨がやんでくれと思いながら、ただぼんやりと見泣けない景色を見ていた。
 そのとき、すぐそばの窓が開いて、女は慌てたように振り返った。
 窓から自噴を見ているのは中年の男性だ。
 「あ、あの、雨が降ってきて、雨宿りというか、怪しい者じゃありません」
 男は少し驚いた顔をして見ていたが、静かな声で言った、入りなさいと。
 
 子供のころに知らない人についていってはいけませんとか言われたけど、自分は大人だ、それに、ずっと外に立っているのは辛い、勇気を出して女は小屋の中へ入って行った。
 
 出されたお茶を前にして恐縮しながらも口にすると、ほっとした気分になった。
 白髪の混じった中年の男性は顔つきも優しそうな人だ、よし聞いてみようと思って女は疑問を口にした、ここは、どこですかと。
 「・・・の北部だが」
 女はがっくりとした、それはどこ、知らない国の名前だ、もしかして時間とか空間のひずみ、いや、神隠しとかにあって、知らない土地に来てしまったのだろうかと思ってしまった。
 「この土地の者ではないようだが」
 不審者というよりも不思議なものでも見る様な目で男が自分を見ている事に気づいた。
 「異国、外国の人かな」
 「日本人です」
 この言葉に男は一瞬、おやという顔をした、会話は、それ以上、続かなかった。
 「お代わりは、どうかね」
 女は俯きながら、はいと小さく頷いた。 


 「先生、怪我人を見てくれ」
 「うちの子供が」
 夕方になって雨が緩くなってきた頃、お客さんかと思ったら怪我をした病気の人がやってきた、この男の人は医者なんだと女は驚いた。
 きっと、いい人なんだろうと思うのは治療代は金があるときでいいからと言うのを聞いたからだ。
 患者は踏み倒しとかしないのだろうか、患者の服装は作業着というか、かなり汚れている、日雇い労働者みたいだと女は思った。
 会話の中にスラムという言葉が出てきたので、ここは日本ではない、不安な気持ちになったのはいうまでもない。
 
 お茶と食事、その日は泊めてもらうことになった、見ず知らずの人にいいのかと思ったけど甘えることにした。
 その夜、患者用のベッドを借りることになったのだが、女はなかなか眠ることができなかった。
 
 何か訳があるのだろうと医者は思った。
 病人の為のベッドは寝心地がよくないだろうが、我慢して貰うことにしたのだが、寝る前に水差しを持って行こうとしてドアの向こうから聞こえてくる声に思わず手が止まった。
 ドアの向こうから聞こえてくる声は啜り泣くような声だったからだ。


  「再婚しようと思うの、今更だけどね」
 自分を見る母親の目が、どこか後ろめたく感じるのは気のせいだろうか、気を遣う事はない、幸せになるんだから自分は賛成だと言うと安心したような笑顔が返ってくる、だが、次の言葉には賛成できなかった。
 一緒に暮らしましょうと言われて、すぐには返事ができなかった。
 「いい年した、三十路を過ぎたコブつきの娘がいたら相手も気を遣うから今まで通り、自分はアパートで暮らすというと、母親は首を振った。
 「あちらにもね、息子や娘がいるのよ」
 「だったら、尚更、気まずくなったら新生活にも支障がでるでしょ」
 「でも、仕事を辞めたんでしょう、それに家族なんだから一緒に暮らしても」
 「祐子さんには感謝してる、母親だと思ってる、本当の」
  友人の娘というだけで、血の繋がりのない自分を今まで何度でも助けてくれたのだ、感謝しても足りない、なのに自分の母親ときたら、最低だ。
 「そっくりね、そういうときの顔、でも困った事があったら」
 「家族だよ、離れて暮らしていてもメールや携帯で連絡取れるでしょ」
 「スマホにすればいいのに、ガラゲーなんて」
 「あのね、使用料は祐子さんが払っているんだよ」
 学校を卒業して、社会人になってもだ、今、住んでいるのは祐子さんが経営しているアパートなので家賃なんて、ただ同然だ。
 たまに、祐子さんはモーニングコールをかけてくる、起きたばかりの寝ぼけた声を聞くのが楽しいらしい。
 
 目が覚めたとき、優しい声を思い出した、朝だよ、起きて、今日の仕事はどう、時間があるなら朝ご飯一緒に食べない、近くのマックでホットケーキはどう。
 優しい声を思い出した、もう、あの声を聞く事はできないのかもしれない。
 ここは一体何処なのかわからない、不安でたまらなくなった。
 だが、何故か、涙は出なかった。
 
 
 「大丈夫かね、少し横になって休みなさい」
 その言葉に驚いた、朝になったら出て行かないといけないと思っていたのだ。
 それなのに心配してくれている、怪しい不審者って思われいたら警察、もしくは、どこかに通報されたりされてもおかしくないのに。
 「病室のベッドは患者が来るかもしれん、悪いが、奥の部屋で」
 女は返事をしようとした、だが、声が出ない。
 
 「あら、風邪をひいたの、仕方ないわね、ご飯作りに行くから」
 優しい声を思い出した。
 「起きてたら駄目じゃない、ほら、寝てなさい」
  
  「さあ、寝ていなさい」
   男の声に背中を押されて、はいと女は頷いた。
 
 



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