◎「グラスリップ」(全13話)
「想いを伝える、夏が来る。
出会いが明日を導く、ロマンティック&ファンタスティックストーリー!」
◎ 高校生の恋物語かと思ったら、未来が分かるんだか並行世界を覗けるんだか行けるんだか妄想なんだかの能力まで出てきて。そういう変化もないとワンパターンになるということでしょうか?。
時々出てくる鶏は「true tears」(2008年)を思い出させますが、「true tears」は同じP.A.WORKS作の良いアニメでしたが、、、まあ、いいか。
川で転んで下着だけになって乾かしていると男子が来るとか(3話)、別に不要なのに。パンツアニメではなくとも、この手のシーンで「需要」に応えているだけなのかも知れませんが。
三角関係やら直線関係やら、切ない恋模様というのは、夏ですから良しとしましょう。
しかし、未来のカケラも、物語上のその役割も分かりにくくて・・・
P.A.WORKSからアニメファンへの挑戦状なのか???
それを抜きにして考えた場合、友情と恋愛感情を主として考えると、気持ちの変化の描き方をもう少し丁寧にしてほしいです。
自分の存在の危うさ、アイデンティティの危うさに気付いてあがいているという思春期らしさも描いていますが、特に駆の自意識過剰っぷりは逆に中々良かったですが、それとて、結局は未来のカケラが分かりにくいので、やっぱりアニメ全体として何が言いたいのかがぼやけると。
一般論としては、ここもあそこも、こうともああとも解せる、ということ自体は表現として問題ありませんが、それにしてもこのアニメは一番の鍵らしき未来のカケラの位置付けが分かりにくく、よって、全体として何を言いたいのかがぼやけるという。多義的であれば解釈の幅を楽しめるのですが、ぼやけて分かりにくいということでは、解釈を楽しめません。
また、印象的に見せたいシーンで止めた絵(斜線付)が多用されていて、そこで使いたくなる理由は分かりますが、少し多過ぎて、所々ギャグかと思ってしまいました。過ぎたるは猶及ばざるが如し。
○ いずれにせよ、何を表現したいにせよ、それを表現するための描き方が分かりにく過ぎるアニメでした。
自意識過剰なり、アイデンティティなり、こじれた恋愛感情と友情なり、そういう雰囲気自体は嫌いではないので、詰まらなかったわけではありませんし、所々の思春期らしい悩みなどの気持ちの揺れは、それなりに楽しみましたけれど。
このアニメを見て、内容が分かりにくかったので「唐突な当たり前の孤独」を感じた、とでも書いておこうかなあ。
それはそれとして、透子の中学生の妹の深水陽菜(ふかみ ひな)(cv東山奈央)が清涼剤だったのは確かです。
以下は、上記の結論に至るまでのgdgdしたメモのようなものです。
写真は全て東京アニメセンターにて。
◎ 高3の夏休み、深水透子(ふかみ とうこ)(cv深川芹亜)、高山やなぎ(cv早見沙織)、永宮幸(ながみや さち)(cv種田梨沙)、井美雪哉(いみ ゆきなり)(cv島﨑信長)、白崎祐(しろさき ひろ)(cv山下大輝)の幼馴染、そこに同学年の沖倉駆(おきくら かける)(cv逢坂良太)が引っ越してきて知り合い、仲の良いというか恋愛には触れないようにしていたからもあって安定していた5人の関係が揺らいで。(そんなことより勉強しろよ、と念のためツッコミを入れておきます。)
未来のカケラという「未来」(途中から、見えているのは未来ではないかも知れないという台詞も出てきた。)が見える透子と駆もからめての、思春期の友情と恋愛感情と自己の揺れを描いています。
ただ、肝心の未来のカケラが何なのか、それの物語上の役割が分かりにくかったです。
(1)未来のカケラは並行世界であって、駆が別の世界から来たと考えるのか?
あまり無理はありませんが、問題がないわけではありません。
透子らの世界に来た駆も、駆の両親も違和感を感じていないのは変。
13話で駆が、「やっぱり、ひとところにいようとすると、他の人を余計なトラブルに巻き込むことになる。」と透子の前でつぶやいていますから、駆は自分が並行世界から来たと知っているようにも思えますが、知っているなら未来のカケラが何なのかも知っているはず。
よって、親の仕事の都合で転校が多かったこと、及び友達は直ぐにできたことは示されていたので、転校先で良くないことが起きることが多かったという事実があったのか、自意識過剰な駆がそう思い込んでいるだけでしょう。
よって、並行世界と考えるのは、少しだけ引っ掛かります。
仮に並行世界だとすると、並行世界を持ち出す理由は、駆の存在を、夏休みに一時的に遊びに来た男子とか、1学期終了後に引っ越してきて2学期開始前にまた引っ越していった男子とか、幽霊とかではありがちだからなのでしょう。
(2)直接の行き来は出来ないが、未来のカケラが並行世界なのか?
別の並行世界には行けないが、どうなっているかが覗けるというもの。
これだと、駆は透子と同じ世界の存在ということになり、駆と透子は未来のカケラという名の別の並行世界を、違う並行世界を別々に見ていたり、同じ並行世界を同時や別々に見ていたりしていることになります。
一応、筋は通りそうですし、上手く描けば面白みもあり、無難です。
上手くは行っていませんが。
多分、並行世界のつもりなのでしょうけれど、そうは思えないくらいに、上手くいっていません。
なので、(4)が妥当だと思います。
(3)透子と駆は、統合失調症とかの精神病と考えるのか?
統合失調症は思春期から青年期(中学生から20歳代)に発症することが多く、幻聴は典型的な症状の一つですが、幻視は珍しいので、幻視(か妄想)のようなものが主であるこのアニメには、今一つ合わない気が。とは言え、統合失調症に幻視がないとは言い切れないので、あるという前提で見ていくと、あてはまりそうなところはあります。
しかし、それ以上に、統合失調症であれば日常にも変な言動が出るものですが、透子と駆にはそれがないと言っても良いので、統合失調症ではないでしょう。
アニメが統合失調症の透子の回想で、頭を整理しながら語っているのだとしても(そういう描写はないので、そうだとも思えない。)、自分で整理したつもりでも他人から見ると整理されていないのがこの病気の症状ですから、変な言動がないということはこの病気ではないのでしょう。
それに、深夜アニメとは言え、精神病をメインにしたアニメをTV放送するとは思えませんし。
(4)思春期にあっても変ではない、想像と現実の区別が部分的に付かなくなったのか?
13話前半最後で透子の母(cv高橋理恵子)が透子に少し唐突に、「急に眩しい光を見たとき、何かモヤモヤしたものが見えたことない?。私ね、若いとき、時々そんなものが見えて、もしかして、それって自分の未来なんじゃないか、って思ったときもあったのよ。でも違ったわ。その後に起こったことって、全部、思いもしなかったことばっかり。ほんとにあれ、何だったのかしら?。それで踏ん切りが付くの?。」と言い、透子が「分かんない。」と返しています。透子が納得したのかは、13話後半での駆との会話で言いかけて言わなかったことと合わせて考えると、あまり納得してはいない様子ですが。
とは言え、母の言うことにも一理あります。
思春期には珍しくはない、いくらかの自意識過剰と、いくらかの悩みや将来への不安やらが入り混じった精神的不安定と、いくらかの現実逃避とから、幻視や幻聴や妄想に近いものを見聞きしたと。分かりやすく言うと、想像と現実の区別が部分的に付かなくなった、と考えるのが一番筋が通ると思います。
ただ、これで物語を作るのは未だしも、その種明かしを勿体ぶるのは、1クールやって最終話で夢オチでしたと明かすようなものですから、まずやらないでしょう。
なので、(1)か(2)だけれども、説明不足と未来のカケラの役割をきちんと位置付けた、視聴者に伝わるような描き方が出来なかったから、上手くいかなかっただけなのでは。
11話後半冒頭で3人の駆の1人が、「透子にちゃんと話しておくんだろ。」「透子がいたからって、アレからは逃げられない。」と言っていますが、ただの幻視や妄想だったら出てきにくい台詞と思いますし。
とは言え、どれと考えてもいくらかの無理があるので、(4)が一番無理が無いと思います。
◎ その他イロイロ。
○ 恋模様は、(1)(2)(3)の順に変化しています(矢印は恋愛感情の方向)。
なお、やなぎ の親と雪哉の親は再婚同士で同居。
(1)やなぎ→雪哉→透子
祐→幸→透子
祐←(少し曖昧だが気持ちは向いている)←幸
(2)やなぎ→雪哉→透子←(こうなりそうな雰囲気で、直ぐにこうなる)→駆
祐←→幸→透子
(3)やなぎ←(こうなりそうな雰囲気)→雪哉
透子←→駆
祐←→幸→(気持ちの整理を付けて諦めてはいる)→透子
○ 3話での車中で、ガラスのペンダントを恋人からもらったのかと祐の姉の白崎百(cv茅野愛衣)に聞かれて「違います。でも、好きな人です。」と答えているように(百は祐からと思いましたが、ガラス工房の娘で自分でも作っている透子から2話でもらったもの。)、幸の透子への気持ちは恋愛感情だと思いますが、もしかしたら少女期の同性への憧れかも知れないとも思って見ていたのですが、そうでは無く。
9話「月」で、透子と祐を呼んで「ほんと、月、綺麗。そしてそれは、私の台詞。」(夏目漱石がI Love Youを月が綺麗と訳したことから。)、10話「ジョナサン」で、「月が綺麗。」「2人に告白。私、透子ちゃんが好き、祐くんが好き。」と2人に言ったことからすると、バイセクシャルだろうと。透子が駆を好きだから付き合う状態になることを諦めただけで、まだ透子を好きそうですし。
幸が透子より祐を好きになる気持ちの変化の過程がほとんど描かれていないのは、引き続き同じくらいに好きだからか、葛藤はあったけれど時間の都合で好きではなくなった過程を描かなかっただけか、については、諦める葛藤はあったけれど前者、ということでしょう。幸の祐への気持ちは、好きな女子に振られて、自分を好きな身近な男子である祐に逃げた/代償としたという感じはしませんし。
○7話、10話及び11話で、駆が3人になって3人で会話をしています(駆は自覚している。)。これは他人には見えていませんから、自問自答を分かりやすく描いただけなのか、統合失調症によくある、脳に誰かの声が直接入ってくる幻聴の感覚なのかも、と念頭に置いて見ました。未来のカケラが何なのかがよく分からなかったこともあって。
7話の海辺で透子が、やなぎ が言いそうな心の声だか本当に言ったのかは不明確ながら、恐怖におののきましたが、やなぎ が言っていないのであれば統合失調症によくある幻聴とも解せますし、鳥に襲われたところは透子にしか見えていないので統合失調症には珍しくても無いとは言えない幻視とも解せますし。
ただ、一番重要な点である未来のカケラが見える云々も幻聴・幻視と解せますが、統合失調症に伴う幻聴・幻視であれば、日常でも変な言動が出ることが多いですが、2人は日常では特に変ではありません。
全体の物語の中での位置づけが一番分かりにくい12話「花火(再び)」なんて、透子の夢なんだか、透子が見た未来のカケラなんだか、ただの幻視や妄想なんだか(透子が冬に越してきた話で、駆は元から町の人、という未来のカケラを透子が見る話。透子と駆の立場が逆になったような話だが、透子がいないシーンについても多々描かれている。透子が並行世界を見ているとも解せるし、12話かそれ以外のどちらかが透子の妄想とも解せる。なお、1話が「花火」。)。
8話「雪」で透子が見た雪景色は、幻視でも説明はつきます。
ただ、透子と駆が同時に見ている未来のカケラも多くあるので、単なる幻視では説明が付きにくいです。
透子(か駆)の回想アニメであれば、記憶の混濁が生じていて、その時に本当は透子(か駆)1人しか見ていなかったのに2人で見たと透子(か駆)が思い込んで語っているだけかも知れません。あるいは、透子/駆が後から駆/透子に聞いたことを、最初から自分の体験と認識するという認知のゆがみが生じていることに2人が気付いていないだけなのかも知れません。
さて、ここまで統合失調症について書いておいてアレですが、深夜アニメとは言え大学生を中心とする若者向けでしょうから、精神病をメインに描くことはないだろうとは、最初から思っています。
でも、統合失調症の発症が一番多いのは、中学生から20歳代ですけれど。
尤も、統合失調症までは行かなくても、透子の母の体験のような、精神的に不安定な思春期には幻聴や幻視に近いものを見ることはそれ程珍しいことではありませんけれど。
○ 最終13話、駆はどうなったのか?。
(1)駆が2学期を待たずにピアニストの母と一緒に外国等に行ったのか、
(2)庭でのテント暮らしをやめて父と同じ建物内で暮らして透子と同じ高校に通っているのか、
(3)そもそも駆なんて存在していなかったのか、透子の妄想だったのか、
どうなのでしょう?
透子や やなぎ は駆がいなくなりそうだと言っていましたが、最終話ラストで、通学する透子に、姿は描かれていませんが駆が声をかけていますから、駆は残っているとも解せますし、姿が描かれていないので駆は外国に行ったけれど寂しい透子は幻聴を聞いたとも解せますし、駆はそもそも存在せずに透子の妄想とも解せます。
あるいは、最終話、庭にはテントらしき跡が残っていてテントはなく、父のみで母のいる雰囲気もありませんから、(1)(2)(3)のどれとも解せます。
どうとも解せます。
ED曲前のラストで、青いガラス玉(透子が作ったものと思われる。)が、駆がよく行っていた森の中に1個落ちていました。これが、7話で透子が駆にあげた色違いのペアの腕輪付トンボ玉(ガラス玉とヒモのブレスレット)のガラス玉ではなかったので、駆の象徴ではないと解する方がどちらかと言うと無難でしょう。
最終話でのED曲の最後での喫茶店カゼミチの絵では、駆以外の5人はいるのに2席空いていて、1席には飲み物があり、1席には何もなし。やなぎ がウェイトレスをしているから1話同様に飲み物のある席に座るのでしょうが(駆が少し席を外しているというのは不自然。)、もう1席は駆がいたことのシルシなのか(1話のラスト近く、5人でお茶を飲んでいたら駆がカゼミチに入ってきたシーンの、駆が入ってくる前の、やなぎ が座る前のシーンと同じ。ただ、その時に駆が席に座ったシーンはない。)。
なので、13話ラストで駆の声が透子に聞こえたこと、その後のアップのガラス玉が透子が駆に上げたトンボ玉のガラスではなかったことから、この後、駆が入ってくると考えるのが妥当な気がします。(勿論、13話ラストでの駆の声が幻想的な声になっていたので、駆はもういなくて透子の幻聴とも解せますし、駆の存在自体やアニメの多くが透子の幻視や妄想とも解せますけれども。)
いずれにせよ、どうとも解せます。
○ 駆は引っ越しが多いから、直ぐにクラスメイトと仲良くはなれるけれど、仲良くなってもお祭りのときなどには友達はいつものお祭りに気が行って駆のことを忘れてしまい、そのときの寂しさを「唐突な当たり前の孤独」と表現していましたが、意味はその通りで思春期には珍しくはありませんが、表現が誇大です。少し病的なのか、詩人なのか、アニメ的誇張なのか?。
これ以外のどの部分についても言えることですが、その答えは、未来のカケラを何だと解するかにもよってどれが重点なのかの理解は変わるでしょうけれど、どれでもあるのでしょう。
舞台となった福井県坂井市三国町の宣伝も抜かりなく。
【shin】
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