素晴らしき日々

一切の生命が幸せでありますように。

村上春樹作品に感謝しかない

2023年11月09日 | 村上春樹 Haruki Murakami
村上春樹作品といえば、子供の頃に姉の本棚で見つけた、ねじまきドーナツと羊男の話のイラストの印象が強かった。だから、内田樹さんのように武道をバリバリこなし論理的な文章を書く方が、ブログで村上春樹さんを大絶賛しているのを読んだときに意外性を感じ、読んでみることにした。

本年、最新刊の『街とその不確かな壁』が発売されていたと知り、さっそく購入した。あのストーリーの魔力から一度でも抜け出してしまうなんて、もったいなくて途中休憩も寝る間も惜しんで一晩で読んだ。自分が大人なってから読んだ彼の作品はノルウェイの森や短編集だけだったので、こんなにドンドンカッカと想像力溢れた別世界、異世界を書ける方だとはつゆ知らず驚いた。それに、一番驚いたことには、私がずっと何年も悩んでいたことと全く同じことを登場人物が語っていたのである。目を疑った。何度もそのページを読んだ。この登場人物が言っているのは、私の悩み苦しみと同じだ。どうして、それが書けるのだろう。

春樹様、ありがとうございます、と深々と頭を垂れたい気分になった。全くの赤の他人で、自分とはかけ離れた年齢、性別、職業の方に、つまり村上春樹さんに、ずばりと自分の悩みを本の中の登場人物に語ってもらうと、『なんだ、ひょっとして、自分以外の多くの人も、同じ悩みを持っているのかもしれない。自分だけが周りと同じに出来ない変わり者というわけじゃないのかもしれない』、という可能性に救われたのだった。本当に心が軽くなった。

しかも、この作品の凄いところは、その癒しの効果の継続性である。例えば感動的な良い映画を観て刺激を受けても、スクリーンを出て、ある程度現実的な行動、例えば横断歩道を渡ったり、スーパーで買い物したりしているうちにだんだんと効果が薄れていくことが多い中で、この作品は違う。私は村上春樹さんの作品の力を借りて、人間が共通して持っている深淵な部分まで降りていき、自分の中の不確かな壁を破り、私と共通に悩みを持つ方と出会い、癒されて、こちらの世界へ戻って来たという感じがするのだ。

宮沢賢治の銀河鉄道の夜を初めて読んだ時のことを思い出した。人間という生物の、その全体の幸せを願う気持ちが感じられた。きっと村上春樹さんご自身はそんなこと思って書いたつもりはないと言いそうだけれど。





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