吹く風ネット

五月の病気

 今から四十五年前に東京に出たのだが、ちょうど五月のこの時期のこと。その頃、ぼくは集中力に欠けた気合いの入らない毎日を送っていた。五月病だったのかというと、そうではない。実は腫れ痔に悩んでいたのだ。

 別に不衛生にしていたわけではないのだが、なぜかお尻はいつも痛みと熱を持っていて、それが気になって落ち着かない。時には急にふさぎ込んだりするもんで、周りから変な人と思われていたようだ。

 痔のことを周りに言えば、変な人と思われることもなく、あわよくば同情する人が現れて、そこから友情も生まれたかもしれない。

 しかし、六十歳半ばの今ならともかくも、二十歳を過ぎたばかりの若者が、
「いやー、実は腫れ痔でね」
 なんて易々と口に出来るわけがない。
 というわけで、東京に出てから数ヶ月、ぼくはその恥ずかしい病気が原因の、孤独で寂しい人だったんだ。

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