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誰も知らない、ものがたり。

巡りの星 26



 花火が終わってから、お父さんとお風呂に入って、お風呂上がりはマキお姉ちゃんがスイカを切ってくれて食べた。
 とても甘くて美味しいスイカ。種が多くて残念だけどキレイに食べた。
 その後、お笑いのテレビを少し見てたらいつまにか夜の9時半で、お父さんにもう寝る時間だよと言われた。
 お泊まりの時はいつもお二階の部屋で寝るんだけど、いつもはおばあちゃんがお父さんと僕のお布団を敷いてくれる。でも今日はお父さんがお布団を用意してくれた。
 お二階に上がって、僕は敷かれたお布団の中にパジャマで入る。おばあちゃん家のお布団の匂いは、自分ちの布団とはちょっと違う香りがする。このおばあちゃん家のお布団の香りも嫌いじゃない。この香りを嗅ぐと、おばあちゃんのいつもの優しい声が聞こえてくるような気がする。
 少しするとあくびが出て、何だかもう眠くなったみたい。おばあちゃん家の夜は、周りに何もないから本当に静か。虫の声だけが聞こえてくる。虫の音をぼーっと聞いていると、いつの間にか僕は寝てしまう。

 
 夜、すごくおしっこに行きたい気持ちで目が覚めた。あたりはまだ真っ暗。お父さんはまだ布団にいないみたい。僕はパジャマのズボンを触って、漏らしてないか確かめてみたけど、大丈夫だった。あぶないあぶない、小さい時におばあちゃん家でお漏らしした事もある。すごく恥ずかしかった。
 慌てて起きて、扉を開けて、一階にあるトイレに行くために階段を急いで降りた。

 廊下は暗くてちょっと怖い。月の明かりが窓から入って、僕の影が廊下に出来ていた。もっと小さい時、僕の影が僕を追いかけているように思えて、怖くなった時もあったと思い出した。
 トイレの扉を開けておしっこをした。結構長くおしっこがでて、すっきりした。そして、水を流した時、突然おかしな事が起きた。ジャー、っという音がして勢いよく水が流れていたと思ったら、急に音がしなくなった。ぷっつりと消えるように。

 あれっ、て思うと同時に、信じられない光景に、僕はすごくビックリした。
 トイレの中を見ると、流れていた水が渦を巻いてそのままの形で止まっている。
 また、トイレのタンクに水を貯めるために出ている水も、よく見ると、流れ落ちずに、完全に止まっていた。
 怖いと思うよりも、不思議に思う方が強くて、自分の目をこすってみたりした。それでも、水が止まっている。
 恐る恐る、タンクに流れ落ちようとして止まっている水に、指を近づけた。触ろうとしたその瞬間、またジャー、と言う音が戻って、水が流れ出した。僕の指は水に揺れた。
 「なんだ・・・!?」
 たぶん、3秒くらいの短い時間だったけど、確かに水が止まっていた。

 後から怖くなって、僕は慌ててトイレを出る。
 扉を閉めて、急いで階段を上がろうとしたその時、廊下の奥からお父さんの声が聞こえた。
 その時はじめてリビングの部屋の電気もついていることに気がついた。
 
 僕は階段を上るのをやめて、お父さんがいる方へ慌てて駆けよった。
 ひとりで怖くなっていた時に、お父さんの声と部屋の明かりに救われた気がした。
 
 廊下の先の扉は少しだけ空いていた。ドアノブに手を伸ばしたけど、その向こうのリビングの様子が目に入り、思わず手を止めた。扉の向こうでは、お父さんがとてもうろたえている様子で、ベッドにいるおばあちゃんをのぞき込んでいる。
 そして、「大丈夫か?」「おい、大丈夫か?」と、慌てた様子のお父さんの声が聞こえた。


・・・つづく
 
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