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誰も知らない、ものがたり。

短編小説「The Phantom City」 12

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


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 そのサイトのタイトルは「静寂なる世界」。

 ブログ形式でたまに更新される記事には、植物や鳥、空の様子などの写真画像とともにブログ主の日々の暮らしと何気ない日常の気づきなどを記した文章がアップされる。

 もし旧世界だったら、その記事の写真や文章に何の違和感もなくスルーするだろうが、今は新世界だ。コロニーの中に植物がいるのはわかるが、鳥や空の様子が写されるところに違和感がある。

 生き残ったのは健康な人々が大半だとはいえ、宇宙災害で生じた免疫疾患を慢性的に抱える人も少なくはない。コロニー内部では完全な感染症対策によって野の鳥が飛んでいることはいないし、空を写しても必ずドームのフィルター越しになるので、直接こんな綺麗な空を撮れることはない。

 もしコロニーの住人が外の世界に出ようとする際は、理由を伝えるとともに特別な許可を得なければならないので、そうそう頻繁にでられないはずだが、そのサイトには割と頻繁にそういった空や鳥、植物の画像が、四季折々にアップされる。

 仮に、サイトのブログ主が外の世界の住人だと考えるのも普通なら難しい。なぜなら、外の世界は主立った通信ネットワーク網は宇宙災害時の特殊な放射線が原因でほぼ世界全域で破壊され、今ネットワークにコネクトできるのはコロニー内部だけだ。ただし、コロニーから300メートル以内は近距離無線通信技術で受信は可能ではあるが、そこに住んでいたとしても、完全なセキュリティでいわゆるネットのタダ乗りはできない。

 ちなみに、いま外の世界にのこされた通信は、電波塔から無線で送られるテレビと時代遅れのラジオ放送しかない。テレビはそれなりに娯楽番組もまだ人気があり継続されているが、ラジオにいっては今や外の世界に住む"変わり者”に向けて最低限の公益情報や注意情報(計画停電のお知らせなど)が届けられるぐらいだ。

 そんな状況下で、外の世界の写真とともに割りと頻繁に更新されるサイトに違和感を覚えながら、ケンはしばらくの間、他の懸念されるサイトと合わせてこのサイトの観察を続けていた。

 そうして2週間くらい経った頃、そのサイトにはもう一つ不思議な状況があることに気がついた。

 そのサイトはブログ形式で閲覧者のコメントも表示されるのだが、そのやりとりにどうも不可解なことが目に付くのだった。

 一見、写真に映った動植物についてのコメントかと思いきや、どうやら『赤い蝶』やら『奥の森』やら、何かしらをこのような言葉に置き換えながら、別の会話しているようにも思える。いわゆる"隠語”というやつかもしれない。殆どが匿名のコメントなので、端から見ても誰が何を言っているのか、普通は判らないだろうが、ケンは持ち前の根気強さで、このサイトの数年分の過去の記事まで遡りコメント欄もつぶさに読んでいった中で、それらの文脈を自分の中でつなぎ合わせていくことで、およその意味するところを掴んだのだった。

『赤い蝶』と言われているのは、おそらくノアのマザーAI。このマザーAIはその通称をバタフライと呼ばれていることからその隠語がつけられているのだろう。そして、『奥の森』とよばれているのはノアの中枢委員会のことに違いない。なぜ奥の森なのか、詳しい理由はわからないが、いくつものコメントの会話を見ているとどうやらそうだろうと合点がいく。

 他にも様々な隠語であらゆるメタファーを用いられながらそこで会話されていた内容は、宇宙災害に端を発した旧世界の崩壊と、ノアによって建設された世界各地のコロニーを中心とした新世界の構築が、ノアの中枢を担うある複数の人物によってずっと以前から計画されていた史上類を見ないジェノサイドであるという、いわゆる世間的に『陰謀論』と呼ばれる類いの内容だった。

 ケンはもちろん、最初からそこで語られている内容を鵜呑みして信じるような事はなかった。正直馬鹿らしい作り話にしか思えなかった。

 しかし、さらに記事を遡ったり、また更新される新しい記事のコメント欄を読んでいる内に、少しずつケンの心境に変化が現れた。

 ———ここで語られている内容は、ひょっとしたら真実かも知れない。

 実際にケンは自分自身がノア・メンバーとして働きながら、内部の事情もある程度見える中で、どうしても心に引っかかりを覚えることが、幾度かあった。

 それは非常に些細なことの積み重ねだった。

 わかりやすい例でいうと、住人の生活の世話をするコーディネートロボットなどのAIロボットによる人々の監視システムが、自分が聞かされている以上に人々の生活動態を把握しているように思えることがあったり、地下深くの精神病棟フロアに収容されていく精神異常者の住人がわりと頻繁にあったりすること等。これらのことが、サイトのコメントによる会話の中で一つひとつのことが全て『陰謀論』の核心へとつながっていくような説明がなされており、本当にそうなのかも知れない、と思えてくるから不思議だ。

 ———でも、そんなわけはない!

 ケンは自分が憧れ、尊敬してやまないノアの名誉を傷つけるような話を簡単には受け入れられることはできず、心に生じた疑念を振り払うように、まさに心が揺れ動く状態で日々の仕事と『静かなる世界』の監視を続けていた。

 そんな日が1ヶ月ほど続いたある日、ついに、ケンの中での疑念が、確信へと変わってしまう出来事が起こったのだった。

 

・・・つづく。


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主題歌 『The Phantom City』
作詞・作曲 : shishy  

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