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誰も知らない、ものがたり。

短編小説「The Phantom City」 15

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


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 投稿者名でautumnと名乗るその人物が寄せたコメントに突然出てきたその「カヲリ」という名前に、ケンは確かに覚えがあった。宇宙災害によって自分と同じく家族を失った同年代の女性の名前だ。

 コロニーに移り住む前は同じ地域に住んで若者同士というよしみでちょくちょく連絡を取り合っていた。しかし、皆でコロニーに移り住もうという話で盛り上がっている時に、彼女は今の家からは移らないと、やんわりとした口調とは裏腹に頑なな意思表示を示していた。そして、結局はコロニーの中に住み始めた自分は、外の世界で暮らし続ける彼女とは疎遠になり、今はもうお互いに連絡を取り合うことはなくなっていた。

 ただ、カヲリが無事であることは知っていた。定期的に外の世界からやってくる人たちについては、コロニー側がその行動履歴をしっかりと把握し、検疫上の重大な問題が起こらぬようコロニーへの『出入り』は厳重にチェックされている。ノア・メンバーの一人としてケンは、常に彼らの来訪履歴とクリーンセキュリティー時に取得する生体・免疫・抗体価情報のリストを目にする機会はたびたびある。

 少し用心してケンは探るように身近なコメントを返すことにした。

『お知り合いの方ですか?』

 すると間もなく返ってくる。

『娘の名前です。その地区に住んでいるはずだったので。すみませんご存じなければ忘れてください。もうこの世にも居ないかもしれません』

 ケンは知っていた。カヲリには消息不明の父親がいることを。

 比奈田(ヒナタ) カヲリ。少し変わった名字だから余計にハッキリと覚えている。ひょっとしたら、この人物はその父親かも知れない。カオリではなくカヲリという表記は少しだけ特徴的だ。でも、偶然に下の名前が同じ人はいくらでも居る。しかし、名字を挙げて確認するのは基本匿名のコメント欄では出すのは気が引ける。多分、色んなリスクも考慮して本名がコメント欄に載るのは皆避けたいはず。だからあえて下の名前だけで聞いているのだろう。

 だったら、比奈田という名字を何か別の言い方で置き換えて伝えてみようか。

 ひなたぼっこ・・・ちょっと判り易すぎる。お日様、太陽・・・と、少しだけ考えを巡らせてからケンはコメント欄に入力する。

『あたたかな太陽があたるその方だとしたら、知っています。災害でご家族を失いましたが一人生き残られた女性です』

 人違いなら、特に何の反応もなくスルーされるだろうな。そう思って投稿して2分と立たないうちに身近な返信文が書き込まれた。

『ありがとう、いま13年越しの希望が見えました』

 

・・・つづく

 


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主題歌 『The Phantom City』
作詞・作曲 : shishy  

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