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誰も知らない、ものがたり。

短編小説「The Phantom City」 16

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


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 その返事によって、恐らくお互いの中で思い描いている「カヲリ」が、同一人物である可能性が格段に強まった。

 コメント欄でのそのやりとりを見ていた他の匿名読者も、autumnと名乗る人物が生き別れた家族の消息を探していることを知っている人が何人かいるようで、またもやコメント欄が湧いた。

———reaf(=ケンのハンドルネーム)氏の奇跡的な書き込みに感謝!———

———autumnさん、本当だとしたらおめでとう!!!———

———あまりに話が上手すぎないかって?まあ、ここのコメ欄は真実以外は淘汰されていくのだから成り行きを見守ろうじゃないですか———

等々、肯定的なコメントから否定的なコメントまで入り乱れたお祭り状態となったが、その様子にリスクを感じた他の読者から『特定の個人の名前を話題に挙げるのはどうだろう・・・』といったコメントが入ったため、一旦対話はお互いに止めることにした。

 それでも、その日以来、サイトの管理人やautumnと名乗る人物、他の読者とコメント欄での秘密のやりとりを気長に続けていった。

 そうする内に、この『静寂なる世界』というサイトで交わされる様々な陰謀論的な話題、あるいは、『Quiet World』と呼ばれる外の世界の謎のコミュニティについての様々な情報について知ったことが、普段のコロニーで暮らす中で自分自身が感じる微かな違和感と、かなり明確な根拠となってつながりはじめていったのだ。

 もし『静寂なる世界』で語られている陰謀論的な数々の話が真実だったなら、自分はとんでもない世界の秘密を知った事になるし、今の自分のアイデンティティーというものが音を立てて崩れてしまう気がする。

 だから、心のどこかではそんなの陰謀論だと否定したい自分もいた。

 しかし、そうやって簡単には片付けられない理由として、自分の普段の暮らしの中で少しずつ辻褄があっていくような経験が積み重なっていった事が確かにあったし、さらにはもう一つ、大きく心に引っかかる事もあった。

 それは、恐らくは親子であろう、autumnと名乗る人物とカヲリ、さらにはそこにつながりを持った自分という接点。

 聞くところによるとautumnさんは宇宙災害以降に進んだ移動・移住制限のあおりを受けて日本に戻ることができたのはつい最近の話らしい。当時暮らしていた国(恐らくフランス)から数々の国境をまたいで幾度となくコロニーを移り住みながら、一番融通の利くという話を宛に何とか辿り着いたある地区のコロニーから特別な許可を取り付けて軍の検疫部隊の輸送飛行機にのって何とか帰国。今は大阪にあるコロニーにいるそうだ。

 その間にようやくリストとして地区ごとに整理されはじめた被災者の名簿をネットで検索して見たところ家族の死を知ったが、カヲリの名前だけがなかったということだった。

 このautumnさんと『静寂なる世界』や『Quiet World』との関係については、ケンもまだよく判っていないのだが、この偶然のきっかけから生まれたつながりを実際に結びつけることができた時に、自分は真実に近づくことができるのではないかと、漠然と感じる部分が少なからずあって、その想いは日々強くなっていった。

 そんなモヤモヤする気持ちが続いていた中で、今日、ケンはコロニーに買い出しに来たカヲリと偶然の再会を果たしたのだった。

 その時、ケンの腹は決まった。一旦その場を離れると急いで手紙をしたためた。自分のパソコンは常にマザーAIと連結したクラウドにつながっているため大きなリスクを覚え、机の奥に仕舞ってあったまだ使えそうな古めかしいボールペンと紙を取り出して書いた。

 そして、昔借りた本などという嘘をついて、何とか無事にそれに挟んで手渡すことができた。

 一番恐れていたのはロボットを含む街の"監視の目”だったが、コーディネーターロボットのマルコは恐らく手紙の存在には気がついたものの、ラブレターか何かと勘違いしたのか、逆に訝しむカヲリを上手くたしなめ、逆に助けられる結果となった。

 あの時の得意そうなマルコの様子を思い浮かべて、思わず温かな笑みが漏れた。シャワーの温かさも相まって、少しだけケンの心がほぐれたようだ。

 そろそろカヲリは手紙に気がつき、読んでいる頃かもしれない。そう思いながらケンはシャワールームから出た。

 

・・・つづく

 


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主題歌 『The Phantom City』
作詞・作曲 : shishy  

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