「・・・それって、どういうこと?」私にはまったく見当がつかない。
「2つの異なる次元世界の重なり・・・それはつまり、本来ひとつにまとまるべき現実世界が、二つに分裂し矛盾をかかえた状態。巡りの穴のせいでね」
ヒカルは私の目の中を覗き込み、意識の醒め具合を確かめるようにしながら言った。
「二つに分裂・・・」私はまだ事態を飲み込めずにいた。
「そう。それを1つにまとめなければいけないのに、イナダくんが2つに分かれてしまったら、この宇宙はもうお終い」
ヒカルのその言葉に打たれて私はようやくはっとする。
「・・・!そ、そんな危ないことに?なんで俺が2つになりかけたんだろう」
私は慌ててヒカルに問いかける。
「無意識に流されてしまったのだと思う。巡りの穴が広がりつつあるために生じている流れに」
「流れ・・・?」
ヒカルが言うには、次のようなことだった。
そもそも、2つの異なる現実世界の次元が同時に存在してしまっていることの矛盾が、巡りの穴を広げている原因。
簡単に言ってしまえば、現実世界が2つに分裂した状態にあるという。
次元移行でやってきた、この不思議な世界、人の意識が作り出す意識世界の次元と、現実世界の次元は密接に関係している。
だから、現実世界の次元の分裂は、人の意識の分裂を誘発するような、不可抗力的な流れが生じるという。
統合失調症という心身の病は、昔、精神分裂病と言われた時代もあったということを、なぜか思い出した。世界の・・・いや、宇宙の安定は、人の心の安定が、必要不可欠なのかもしれない。
「自分の意識、心をしっかりとひとつに束ねるようにして」
私の目の奥に届けるように、ヒカルは私の瞳に語りかけてきた。
しかし、私にはその意味もやはりよく判らない。
「そんな事言われても、どうすればいいのか・・・」
半分ため息交じりに言って、諦めとともに前に向き直った時、ずっと一本だった道が、この先2つの道になっていることに気がつく。
正確に言うと、1つの道が二重に見えているような感じで、重なり合った道が、だんだんと離れて2本に分かれて分裂していく過程を映しているように思えた。
自分の姿が2つに分裂しかかったように、歩いている一本道も2つに分裂してしまったのだろうか。目をこすってみたが、二重になった道のままだ。
さらに、目を凝らすと道の先には背の高い木々が立ち並ぶ鬱蒼とした森のような光景が、モヤの合間から見えはじめた。
「道が2つに分かれて、森に続いてる・・・」
突如として分裂した道と森の出現に驚きながら、しげしげと前を見ている私の後ろからヒカルが言った。
「気をつけて、次元を分裂させる巡りの穴の流れが、あの森に向かうごとに強まってるみたい」
・・・つづく
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