男は三十路ともなると、自分の顔を鏡でまじまじと見るような行為をしなくなるもの。
自分の記憶は若い頃のままのイメージで止まっていて、「今の自分の顔を」はっきりと思い浮かべることができる人って案外少ないのではないだろうか。
ところで、自分の気持ちや考えを相手に伝えるとき、言葉以外に表情で伝えようとしていることも多いと思います。
- 「嬉しい」という喜ぶ表情
- 「嫌だ」という拒否する表情
- 「悩なんでいる」という困った表情
- 「愛おしいい」という優しい表情
などなど。
長年の経験で相手に伝えたい自分の気持ちの表情をしているつもりなのに、これまでのようにうまくいかない、なんか相手が変な反応になってしまうことがありました。
これは「イメージした通りの表情を自分が作れていないからだ」ということが鏡を見てわかったんです。
相手に伝わらなかった例として 私が会社で客先に謝りに行った時のことです。
お客さんにクレームが付きお詫びをしに行くことになったのですが、 その原因が私ではなく私の全くあずかり知れな部署で起こした失敗でした。
正直どうして私が謝りに行くのかすら腑に落ちていないままでしたが、立場上いかざる負えない状況で 「とにかく謝ってくればいいから」と上司に命令されたのです。
「ま、これも仕事のうちか」と思い、菓子折りを持ってお客さんのところを訪ねました。
お客さんに会う前には念のため謝るシミュレーションをしていきます。
謝罪の言葉や、相手の反応、謝っている自分を姿を思い浮かべ、臨みました。
しかし、しっかり謝罪の言葉を伝え、すまなそうな表情を作れたはずなのに、「誠意が感じられない」とお客さんに言われ逆に怒らせてしまったのです。
また、逆に相手に強く伝わり過ぎてしまったケースもあります。
これも仕事でのことなのですが、上司に飲みにつれられた時のことです。
つまらない話を聞かされるだけの無駄な時間につき合わされるのは、私にとって苦痛の時間です。
当然自分の表情も硬く、ひきつってくるのが分かるくらい。
言葉には出さなくとも、この表情で上司は察してくれて、早く私を開放させてくれるはず、自分の気持ちは伝わるはずと思っていました。
しかし、その上司には「君が親身になって話を聞いてくれることに感謝する」とまで言い、それから事あるごとに私を連れまわすようになってしまったのです。
自分ではその時々の気持ちや感情を表情にも乗せているつもりなのに、 相手には全く違った反応が返ってくることが増えたように感じます。
それは、歳のせいで表情筋が固くなり、思った通りの表情が作れなくなってきたのかもしれません。
ところが私の60歳を超える私の母は相手に喜びを伝える表情の達人です。
笑顔ひとつで何でも手に入れてきたような努力をしなくていい人なのです。
正直母は何も上手にやることはできません。
家事もほどほど、料理もいまいち、 パートの仕事でも人に頼っばかりです。
でも母の周りには手助けしてくれる人が集まってきます。
なぜだろうと思っていました。
母の日にプレゼントを渡したときにその理由がはっきりと分かりました。
画像提供:大丸松坂屋母の日ギフト2022
形式的になってしまった母の日に毎回カーネーションとスイーツなどを渡すのですが、そのたびに大喜びするのです。
自分は形式的に適当に選んだプレゼントなので、そんなに喜んでくれるの?と こっちが反省してしまうくらいです。
さらに母の日や誕生日など特別な日でなくても、 ちょっとした貰い物や父が買ってきたお土産にも同じ反応ができるのです。
しかも母のすごいところはその表情を使い分け、 自分が望む方向性へ相手を誘導できる点なのです。
母は貰い上手で、受取上手だから、 いろいろな人が母に手助けをしたり、贈り物をするのだと分かりました。
ある時母は毎日鏡の前で笑ったり、怒ったり、悲しんだり、喜んだり自分の表情を変えながら何時間も過ごすことがあります。
「何やってるの?」と聞いてみたら、 「自分と話をしている」というのです。
???と思ってよくよく聞いてみると、年齢とともに自分が思っている表情になっていないことがあるので、鏡を見ながら調整する必要があるのだと教えてくれました。
母の表情づくりにはそんな努力があったのかと感心してしまいました!
私も自分で作ったと思い込んでいる表情が実はそうではないことがあると母に告白しました。
そうしたら母は「鏡を見るようにしてごらん」と教えてれました。
今更自分の顔など見るなんてと思っていましたが、 定期的に鏡を見ることって大事なことかもしれません。