全国労働組合総連合
事務局長 黒澤幸一
1月16日、経団連は経営側の24春闘の指針となる「2024年版経営労働政策特別委員会報告」(以下、経労委報告)を発表した。
■ 30年余の実質賃金低下を取り戻す歴史的な大幅賃上げが「企業の社会的責務」
報告では、昨年の賃上げが「30年ぶりの高い水準」だったと誇り、「『構造的な賃金引き上げ』の実現に貢献していくことが、経団連・企業の社会的な責務である」とした。
しかし、日本の労働者の賃金は下がり続けている。11月実質賃金は、前年度比3.0%減で20ヶ月連続のマイナスだ。労働者は厳しい生活を強いられ続けている。日本は国際的な実質賃金の比較においても、およそ30年にわたって下がり続ける異常な国となっている。
これまで、非正規労働者を際限なく拡大し、生産性や人事評価の導入で労働者の要求を押さえつけてきた反省はまったくみられない。歴史的な物価上昇によって苦しむ国民の声に押され、成果主義を基本に企業が許容可能な範囲での賃上げを認めたに過ぎない。特に、非正規労働者、女性労働者、ケア労働者をはじめとするエッセンシャルワーカーの低賃金を放置することを看過することはできない。
24春闘では、昨年との比較や物価高騰を上回るかどうかでなく、およそ30年にわたる実質賃金の低下を取り戻す歴史的な大幅賃上げ・底上げを求める。
■ 格差の縮小、非正規・女性労働者の人権まもる日本全体の賃金引き上げを
報告では、「人への投資」の重要性を強調しながら、「分厚い中間層」の形成につなげるために「賃金引き上げの積極的な検討と実施」を求めるとしている。
一方で賃金体系は、大企業を中心に年功型賃金からジョブ型雇用や人事評価による個別賃金に変質させられており、企業内外での賃金格差が拡大している。「分厚い中間層の形成」を語るのであれば、格差を縮小すべきだ。
また、非正規雇用労働者については賃金引き上げ・処遇改善や正社員登用等に取り組む必要がある」とし、結果として「男女間の賃金格差の縮小に寄与する」としているが、依然として「同一労働同一賃金」「雇用の安定」に向けたとりくみは不十分といわざるを得ない。「企業の人事戦略上」ではなく、働く者の「人権」を守る視点から、あらゆる格差の解消に努めるべきだ。
■ 最低賃金の全国一律制への法改正で、直ちに1,500円、めざせ1,700円の実現を
最低賃金について報告は、引上額の決定方法、引き上げの時期の関係についての言及を行っている。しかし、報告は「賃金支払能力」を強く主張し、最低賃金が生計費と大幅に乖離している実態を省みていない。最低賃金近傍で働く労働者が拡大したのは、大企業や行政が労働法の規制緩をすすめ、経費削減として下請単価を切り下げ、非正規雇用を拡大してきたことにある。
最低賃金の地域間格差を前提にし、企業の支払い能力を考慮した改定審議を続けても、最低賃金の大幅な引き上げ、地域間格差是正は困難である。結果として国際水準の半分以下にとどまる最低賃金の抜本的な引き上げを望むことはできない。都市部への人口偏在、地域経済の疲弊が広がるばかりである。最低賃金を直ちに全国一律制に法改正し、時給1,500円を直ちに実現し、1700円をめざすことを政策とするよう求める。賃金引き上げ分の下請単価の引き上げなど、中小企業との公正取引の実現を求める。
■ 労働者の自己責任論による「三位一体の労働市場改革」推進姿勢を改めよ
報告では、円滑な労働移動の推進による生産性の改善・向上が強調されている。その鍵は人材を企業の「資本」とし、リスキリングなど学び直しの推進、多様な働き方への労働移動を推奨している。その上で、日本の賃金低迷の原因を労働者の自己啓発不足などとする、政府の「三位一体の労働市場改革」の推進、「解雇無効時の金銭救済制度」の創設を急ぐよう求めている。
日本の低賃金構造の責任を労働者の能力や業務遂行の熱意不足とする、あまりに身勝手で見当違いの言い訳の是正を求める。職務給(ジョブ型)導入が盛んに強調されるが、労働者の生活給としての賃金を切り捨て、賃金水準の引き下げを図ろうとするものである。そして、企業が恣意的に定める「ジョブ」にフィットしないとして労働者をはじき出す(転職・解雇)仕組みの導入に他ならない。労働者の自己責任論の貫徹、リストラ促進の「三位一体の労働市場改革」を推進する経団連の姿勢を直ちに改めるよう求める。
■ 内部留保を還元し大企業の社会的責任を果たすよう求める
大企業の内部留保は増え続け、前年度比7.4%増の「554.8兆円」と11年連続で増加している。報告では、TOPCSとして「内部留保のあり方」を述べ、「手元資金を一定程度保有していたことが、企業倒産の抑制と雇用情勢の悪化の防止」に寄与したと正当化している。際限のない富の蓄積が、日本企業の国際競争力を著しく低下させ、日本経済の将来を危うくしていることへの反省がない。しかし、中小業者や労働者の苦しみを前にして、公正取引の実現や賃金引き上げなどで社会的な批判に応えざるを得ない状況に追い込まれている。
報告では、「数十年ぶりに大規模なストライキが実施された」ことに触れ、「『闘争』ではなく『協創』する労使関係を広く共有すること」を強調している。
全労連は、24国民春闘において、ストライキなど高い交渉力や統一闘争への結集を強め、大幅な賃金引き上げ・底上げ、均等待遇や最低賃金の全国一律1500円などの実現で、格差をなくし、1日7時間労働で誰もが人間らしくくらせる公正な社会への転換を求める。労働時間法制改悪など労働基本権や労働者保護法制の変質をねらう政府の「三位一体の労働市場改革」を許さない。地域経済の活性化と合わせ、その実現のために、内部留保を還元し大企業の社会的責任を果たすよう求める。
以上
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