雑談タイム❕

推しの話、日常の話など。

どう足掻いても

2024-02-01 01:40:00 | 日記
一昨年の今頃、私は推しとよく飲みに行っていた。もちろん、彼の他にも何人か人がいたけれど。
彼は、私を大人だと言った。その言葉に首を傾げた。私は自分を大人だと思ったことなど一度もない。
きっと私は、無意識のうちに彼の前で背伸びしていたのだろう。10も歳上の、既婚の彼の前で。


一度だけ、彼が家の前で自分の子供と遊んでいるところを見かけたことがある。子供はまだ2歳くらいだったと思う。
彼は私に、こんにちは、と挨拶をした。
パパの顔をしていた。だけど、私に挨拶する瞬間、男の顔だった。父親ぶりを、わざと見せているような気がした。


彼は、酔うといつも同じ話をした。
昔遊んでいた話。奥さんに外堀埋められて、半計画的に結婚させられた話。
仕事の話。仕事が楽しくないから、もっとこうしたらいいのにって願望の話。人生楽しくしたい、もっと楽しいことがいっぱいあればいいのに、どうしてこんなにつまらないのかって話を、延々していること。


私は、そんな彼しか知らない。そして、その中で見つけた「楽しいこと」が私なのかなあ、とか。
カラオケで肩に頭を預けたことや、足の甲を撫でていたこと、昼間から連絡してきて、2人で会おうとしてきたこと。
そんな、あの人しか知らない。

奥さんは知ってるのかな?
彼がどんなに、退屈しているのか。



なんて思っていたのだけど。
「俺が飲みに行くと、鬼のように連絡が来る。自分は不倫してたくせにね。この間も嘘をつかれたし」
と、彼は言った。
その時の彼は、母親に構ってもらえず拗ねている子供のような口調だった。
その瞬間、彼が奥さんを愛していることが私にも分かった。そして、悔しいと思った。

結婚指輪は、その者に触れてはならないというしるし。
触れるとは、彼に心奪われ、彼が私に近づき、心と心が少しでも触れ合うことすら、意味しているような気がした。



それから一年ほどが経った、昨年の初夏。
その間、ほとんど彼に会うことはなく、私の中の気持ちもだんだんと落ち着きを取り戻した。
彼に会った時、居合わせた他の人たちが私の恋愛事情を聞くと、彼だけが執拗に、その男は真剣じゃないと思う、と言った。付き合うのなんてやめなよ、きっと合わないよ、君が大人すぎるよ、と繰り返した。

じゃあ、あなたは私と付き合ってくれるの?
あなたと一緒なら、私は子供になれるの?

なんて言葉は、次の瞬間、心の中で溶けて消えた。居酒屋のテーブルの下、誰にもバレないように、彼は机の下で手を握ってきた。酔いが回って体温の上がった指先で、私の指を優しく撫でて、絡ませた。



バカじゃないの、と思った。なんだか急に、冷めてしまった。この人も結局、他の人と同じなんだ。




ある小説に、「大人の振る舞いだけを身につけて、本当にものにしたい人には芯の子供の部分を見せつけるといい」と書いてあった。
彼がそんなふうに私に接してきていたのなら、私はもしかしたら、彼の手に落ちていたのかもしれないと、最近ぼんやりと考える。