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『ふたりの世界』

2024-08-22 02:58:00 | 日記
あいみょんの『ふたりの世界』という歌が好きだ。“お風呂から上がったら少し匂いを嗅がせて まだタバコは吸わないで 赤いワインを飲もう”というフレーズが好き。

だけど、その後の“いつになったら私のことを嫌いになってくれるかな”という歌詞の意味がよくわからなかった。
5年前に付き合っていた彼氏と、この歌を聴いていた時、やっぱりそのフレーズで私の頭にハテナが浮かんだ。
「これ、どういう意味だと思う?」
「何回聞いてもわかんないんだよね」
と彼に言うと、
「俺、あいみょんの歌知らないし」
と言われた。そうか、普通はそんなこと気にも留めないか、と何故か少し恥ずかしくなって、その話をするのはやめた。


そんなことを、思い出していた。最近、脱衣所でスマホの音楽をシャッフル再生した状態で入浴するのにハマっているのだけど、お風呂から上がった時にちょうど『ふたりの世界』が流れていた。
5年前の彼のことは、依存するほど好きだったけど、今思えば普通の男子だった。
とにかく、流行っている事や誰かの真似をする人だった。流行りの服を着て、流行りの音楽を聴いて、部屋のインテリアも、流行っているなにか。本当に自分が良いと思ってやっていることは無いように見えた。


また新しく好きな人ができたら、いつになったら嫌いになってくれるかな、という歌詞の意味がわかるかもしれないと思っていたけど、今の彼と付き合い始めても、まだその意味はわからなかった。


彼に期待しすぎている、と気づいたのは、2月頃のことだ。
バレンタイン、花が好きな彼にブーケを渡そうと、バレンタインの1週間ほど前から考えていた。明るい人だから、黄色や赤系の花にして、ラッピングは青系にしてもらおう、メッセージカードも添えよう、なんて考えていたのだけど、実際はバタバタしてメッセージカードは書けなかった。
男性だし、花束貰ったことなんてないかもしれないな、喜んでくれるかな、と少し大袈裟に反応を期待してしまった。実際渡すと、「何、お花?バレンタインだからか。ありがとう」と言う程度だった。
正直、もう少し喜んでくれてもいいのにな、と思った。甘いものを食べないので、バレンタインは何も渡さないつもりだったし、本人にもそう言ってあった。でもお花なら喜びそうだし、と思って渡したのに。
花束のまま玄関に飾っていたので、花瓶にさしたら?とすすめた。しばらくして玄関を見に行くと、花瓶にささってはいたけれど、花をまとめるためのテープがそのままついていて、口の細い花瓶に無理やり差し込んだ感じだった。ブーケの水色の包装紙は、広げたまま散乱している。


なんだか、ガッカリした。
確かに雑な人だけど、貰ったばかりの、しかもいきものである花を雑に押し込んで、ラッピングだって、考えてその色にしたのに、乱雑に放って。
私は、悲しい気持ちを押し殺しながら、根本のテープを剥がし、茎を切った。10本ほどの花は、短くしても花瓶に収まらず、結局プラスチックのコップにさした。彼はスマホからチラリと顔を上げ、切ってくれるの?ありがとう、なんて言って、またスマホをいじった。
私は花を玄関に戻し、彼に
「そろそろ帰るね」
と言った。彼は、うん、と言ってスマホを置いた。いつもは駐車場まで出てきて送ってくれるけど、今日は玄関先までだった。そんなことにも、一々ガックリした。



車のハンドルを握る。
期待しすぎている、と思った。私の気持ちを解ってくれているだろう、こうすれば喜んでくれるだろう、プレゼントは大切にしてくれるだろう、と過剰に期待してしまった。恋愛は、期待はしてはいけないと言うけれど、まさにそう。

ほどほどに愛する。長続きする恋は、そういう恋だ。

と、何かで見た。私はいつも、心にそう誓いながら、結局、気持ちをうまくコントロールできない。
苦くなった唾を飲み込んで、Apple Musicの再生ボタンを押す。Bluetoothで繋がったカーステレオから『ふたりの世界』が流れる。

“いつになったら私のことを嫌いになってくれるかな”

嫌いになってくれたら。嫌いになれたら。
楽なのに。そしたら、そんな変な期待なんか、しないもの。




数日後、彼が暇つぶしに電話をかけてきた。
他愛もない会話の中で、彼がふと
「大きい花瓶、買おうかなあ」
と言った。バレンタインにくれたお花、入りきらないからさあ、と。私が、ああ、うん、とそっけない返事をすると、彼は
「あの時、ちょっと照れちゃって言えなかったんだけど、お花すごく嬉しかった」
と、照れ笑いした。
私は一瞬時が止まったようになって、えー!と笑ってしまった。だってそっけない感じだったじゃん!と言うと、お花もらったのなんて初めてだもん、どんな映画でもドラマでも、女の子にお花もらうシーンなんてないし、、などとごにょごにょ言っていた。

なんだ、あんなに落ち込んだのに。
私は、嬉しいのに涙が出た。



今の彼。器用だけど、少し不器用で、時々そんなふうに私を悩ませる。
けど、きっと『ふたりの世界』の歌詞の意味を訊ねたら、一緒になって考えてくれるだろう。


あいみょんも、そんな恋愛をしたのかな。
期待してはいけない。過度な期待は、いつか身を滅ぼす。
そんな思いを“いつになったら私のことを嫌いになってくれるかな”に込めたのだろうか。

だとしたら、どんな恋愛指南書にも載っていない、お洒落な言い回しだ。
やっぱり私は『ふたりの世界』が好きだなあ、としみじみ思う。


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