“ありがとう”
悔しいの。この想いが届かないから。
バカな男。
嬉しいの。この悪口が聞こえないから。
私が流す最後の涙を、この男はいつも救う。
「あっつ!!!」
掌を見つめ、苦笑いを浮かべながら
目の前にいる彼女を驚かす。
彼女は男の腕を掴むと
慌てた様子で
錆び付いた水飲み場まで連れて行く。
「大丈夫?」
心配する彼女に満点の作り笑顔を見せる。
男の黒く縮んだ皮膚は悲鳴をあげていたが、
その傷は、私に快楽の火を灯すたびに
男の体に刻まれた。
「バカじゃないの?」
私もそう思う。
男は怯えと寂しさを混ぜた潤んだ瞳で
彼女を見つめる。
一見情けなくも見えるが、
その目の奥ではしっかりと何かを見ていた。
「なんか…終わりを迎えるのって嫌なんだ」
「何言ってるの?
終わりがあるから綺麗なんでしょ」
彼女の言う通りだ。
だが不覚にも、私は男の言葉に
夢を見てしまった。
生まれて初めて、自分の命の短さを呪った。
「でも、もしかしたら
まだ落ちたくないやつだって
いるかもしれないし…」
「バカな人…」
私と彼女の言葉が重なった。
「じゃあ試してみる?
優介と私、どっちが先に落ちるか。」
そんな不安な顔しなくてもいいよ。
この男は、バカじゃない。
ただ気づいているだけ。
目に見えるものだけが全てじゃないことに。
“ありがとう”
この想いがあなたへ。
一瞬だけ永遠の私を見せてあげる。
「わぁ〜、負けちゃった。優介強いね」
私だって、とっくに限界は超えてる。
けど、これ以上この男を傷つけたくなかった。
その時。
彼女がバケツを差し出す。
それと同時に私の意識が遠のく。
小さな音を立て、私は水の中へと消える。
驚く男に彼女は言う。
「なんか、
助けてあげてって聞こえた気がする」
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今年は、お祭りがないので悲しいです。
でも去年と同じように
すぐそこまで夏の匂いは迫っています。
今年は、新しい夏を
発見できそうな予感がします♪
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