私が見ている、セカイのこと。

日常に素敵な物語を。

線香花火

2020-06-28 14:52:00 | 日記
“ありがとう”

悔しいの。この想いが届かないから。

バカな男。

嬉しいの。この悪口が聞こえないから。


私が流す最後の涙を、この男はいつも救う。

「あっつ!!!」
掌を見つめ、苦笑いを浮かべながら
目の前にいる彼女を驚かす。

彼女は男の腕を掴むと
慌てた様子で
錆び付いた水飲み場まで連れて行く。

「大丈夫?」
心配する彼女に満点の作り笑顔を見せる。
男の黒く縮んだ皮膚は悲鳴をあげていたが、
その傷は、私に快楽の火を灯すたびに
男の体に刻まれた。

「バカじゃないの?」

私もそう思う。

男は怯えと寂しさを混ぜた潤んだ瞳で
彼女を見つめる。
一見情けなくも見えるが、
その目の奥ではしっかりと何かを見ていた。

「なんか…終わりを迎えるのって嫌なんだ」

「何言ってるの?
終わりがあるから綺麗なんでしょ」

彼女の言う通りだ。

だが不覚にも、私は男の言葉に
夢を見てしまった。
生まれて初めて、自分の命の短さを呪った。

「でも、もしかしたら
まだ落ちたくないやつだって
いるかもしれないし…」


「バカな人…」
私と彼女の言葉が重なった。

「じゃあ試してみる?
優介と私、どっちが先に落ちるか。」

そんな不安な顔しなくてもいいよ。
この男は、バカじゃない。
ただ気づいているだけ。

目に見えるものだけが全てじゃないことに。


“ありがとう”
この想いがあなたへ。
一瞬だけ永遠の私を見せてあげる。

「わぁ〜、負けちゃった。優介強いね」

私だって、とっくに限界は超えてる。
けど、これ以上この男を傷つけたくなかった。

その時。
彼女がバケツを差し出す。
それと同時に私の意識が遠のく。
小さな音を立て、私は水の中へと消える。

驚く男に彼女は言う。

「なんか、
助けてあげてって聞こえた気がする」


------

今年は、お祭りがないので悲しいです。

でも去年と同じように
すぐそこまで夏の匂いは迫っています。

今年は、新しい夏を
発見できそうな予感がします♪

キミとひとりごと

2020-06-27 10:42:00 | 日記



キミは、もうきっと僕のことなんて

覚えていない。


僕はキミのこと覚えているのに、

キミはそんなことすら知らない。


でも、キミが抱えていたものを

僕は同じように気づかなかった。



綺麗な光が僕を夢の世界へと誘う。

でもそれは、あくまで僕の空想。

キミにとっての矛盾も僕の前では

美しい物語となる。


この先もキミと気持ちが通うことはないんだね。


僕たちは、もう他人なのかな?


その答えは誰に聞けばわかるのかな?


キミ?それとも僕?


「蛍になりたいな〜」

独り言のように、遠い願い事のように

君は言うから僕は無責任なことを言った。


「なれるよ」


でも、キミは笑うから、何も疑わなかった。


どうして僕に教えてくれなかったの?


キミが隣にいないなら、僕だって蛍になりたいよ



でもキミのことを忘れてしまうくらいなら

僕は人の皮を被った、何かでいるよ。


キミは、寂しそうに笑った。


「また来年」

あえて意地悪を言ってみたけれど

結局、どれがキミなのかわからなかった。


「もう、戻れないよ」


頭の中で囁く彼女に、僕は呆れたように言った。


------


私も亡くなった祖母に、

ひとりごとを話すときがあります。


でもそれを「ふたりごと」だと信じています。


黒猫の野望

2020-06-20 09:36:00 | 日記
------

「なぁ、オレと結婚してくれよ」

お決まりのベンチに腰をかけ
あんたは今日もオレを遇らう。

その手に持っている紙切れの塊に
黒い虫が列をなすように並んでいた。

鬱陶しい存在だ。

とは言っても持ち前の愛嬌をもってすれば
こんな奴、オレの敵ではなかった。

でも、そうしなかったのは
あんたがここに来なくなるのが怖かったから。

オレたちはいつも、約束なんてしない。

「さようなら」

別れの挨拶は、驚くほど素っ気ない。
だからオレは
時間の許す限り、あんたに甘える。

この場所にはよく
手を繋いだ男女が
見せ付けるようにやって来た。
その幸せそうな様子に憧れて
あんたが来る頃、
オレはここの場所取りをする。

こんな気の利く男、他にはいないだろ?

オレは一途だから、
あんた以外の女とは
距離を置くようにしているし
耳だって、あんたの声にしか貸さない。

でも、どんなに尽くしたって
オレが生きている限り
この恋が報われることなんてない。

「好きだ」

この言葉を何度あんたに伝えただろう。
それなのに、
あんたは表情一つ変えようとしない。
唯一、愛おしい温もりを帯びた
その手だけがぽっかりと空いた
オレの心を埋めてくれた。

オレが彼氏だったら、あんたを一人
こんな場所に置いて行ったりしない。

オレがあんたの彼氏になれるなら
あいつらみたいに
気まぐれの安売りなんてしないし
言葉だって喋れるように練習する。

だから…

オレンジ色の空が甘い時間に終わりを告げる。

あんたはいつものように
オレに素っ気ない五文字を吐く。
その口元が微笑んでいるから
寂しくなって、あんたの足に頭を押し当てる。

「ごめんね。家、動物飼えないんだ」


慰めてくれていたあの月は、
いつからオレを嘲笑うようになったのだろう。


あんたの匂いが消えてしまう前に
オレは毎晩、神様に願い事をする。

「偽りのない人間にして下さい」

でも神様は、
今日も心臓を受け取らなかった。


そんなある日のこと。
青空の下、彼女は俺に手を差し出す。
俺はその小さな手を包み込むように握る。
ベンチに腰を下ろし、
何をするわけでも無く
二人はのんびり、日常を噛みしめる。

「ずっと、あなたのことが好きでした」

俺の顔を見る前に、彼女は頬を赤らめた。

こうして
偽りの世界は、今日もオレに偽りを見せる。

------

辛い時や悲しい時、
いつも何かを察したように
私たちに寄り添ってくれる
優しい存在。

案外、一番の理解者なのかもしれません。


鈍感な人

2020-06-18 23:00:00 | 日記
------

世界が映像になって、数年が経った。

目まぐるしい日常から解放された私は
よく、地球が丸い理由について
考えるようになった。

不規則な揺れ方をする、この乗り物が嫌い。
だって、移り変わりゆくこの景色さえも
私から逃げているような気がしたから。

私と初めて会った人は
みんな慌てたように鞄をあさる。
その度に、胸が少しキュッとなる。

でも、彼だけは違った。

初めて会った時からずっと、
彼は私に音をくれた。

笑いながら、彼の口が動く。

やっぱり分かんないや。

でも、私もつられて笑顔になる。

彼の瞳は、いつも澄んだ空のように
きれいだった。
それでも時々、驟雨が彼を襲うこともあった。

でも彼は鈍感だから
もちろん理由なんて分かっていない。

彼は、私の許可無く、いつも勝手に手を握る。
そして決まって私を屋上に連れて来る。

あいにく今日は朝から曇りっぱなし…
目が合うと同時に、大粒の雨が降り出した。
きれいな雨を私は拭う。
彼は私が濡れないように、
大きな傘で包み込む。

心臓の音(が)感じる。

彼の胸ポケットの膨らみが
私の目に熱いものを送る。

最初から、こうするつもりだったのなら
せめて隠しといて欲しかった。

でも本当は、ずっと前から気づいていた。

仕方ないでしょ?

だって私は、彼と違って敏感だから。


あなたは、やっぱり鈍感な人。

でも…とっても優しい人。

------

自分にないものを持っている人に
出会ったとき、つい丁寧に接してしまいます。
しかしそれは時に
相手を傷つけてしまうこともあります。

この世に特別な人なんて存在しない。

みんな同じ人間であり、
唯一無二の個性を持っています。


欲という名の悪魔

2020-06-18 02:43:00 | 日記
------

「リセット」

手首から流れる赤い涙に向かって、
私は魔法の言葉をかける。

新しい私は、声を失った。
その代わり、愛くるしい姿を手に入れた。

新しい私は、腕を失った。
その代わり、大きな翼を手に入れた。

新しい私は、肉体を失った。
その代わり、死の恐怖から解放された。

結局、私が欲しかったものは
見つからなかった。

どうやら私は、悪ふざけが過ぎたみたいだ。

神様の怒号が
もうすぐ私の思考を完全に止める。

そしたら私は、ただの「もの」になる。

涙を流すことは許されない。
この世に「死」よりも怖いものがあることを
初めて知った。

「ごめんなさい。」
この言葉を神様は「手遅れ」と読んだ。

あの辛かった日々が、悲しかった日々が
幸せだったと気づいたとき
私はただの「もの」になっていた。

動かなくなった私を見て
黒い誰かは、にっこりと微笑んだ。

------

生きていれば欲は付きものです。
だけど、それを手に入れたとき
私たちは本当に幸せなのでしょうか。

気づいた時にはすでに、欲という沼に
足をとられているかもしれません。

幸せは、非常に難しい性格です。
そのくせ、やたら未来と仲良くしたがります。

みなさんもこういう経験はありませんか?
「あの時の、あれがあったから
 今の自分があるんだな〜」
その後に続く言葉は…   わかりますよね。