午前中のこと。小学生女子と母親は、公園にいる足の悪いホームレスのことが心配だったので、二人で相談して、自主的に様子を見に行った。彼はいつものベンチにいた。役所ヘ行くのが不安だと話す彼を少しでも勇気づける為に、彼のベンチの前にレジャーシートを広げ、一緒にランチをすることにした。
近づく蝿を避けながら、彼の好きなウインナー入りのカレーを食べ、数時間お話しをしたらしい。公園に集う方々には奇異に映ったのだろう。周囲に注目されながら談笑していると、公園の清掃員が近寄ってきて「大丈夫ですか?」と声をかけてきた。「友達なんです」と女子は言った。目を丸くして、清掃員は去った。
「独りでは何も考えられないし、何もできなくて悔しい」と口にする彼に親子は約束をした。先ずは必ず足を治しましょうと。何か嫌なことがあって耐えられなくなったら、その時はまた一緒に考えましょうと。「もう独りじゃないんですよ」と女子が言うと、彼は目頭を押さえ、これまでの人生を語り始めた。
土建の仕事をしていた時に取引先や知人に貸した金を盗られたこと、出身地や兄弟のこと、家を失い赤羽の公園に来るまでのこと。「人生何回でもやり直しましょうよ。生きることを諦めないで下さい」と、親子は何度も励ました。会話を重ねるうちに彼は次第に生気を取り戻し、明日の朝、役所ヘ行く決意を固めた。
しばらく会えないかもしれないと思った親子は画像アプリで彼と記念撮影をし、公園を後にした。近くの図書館で、昨夜弁当を配達したホームレスと偶然再会し、今夜も配達すると伝え、さらにはフードバンクのチラシをポスティングしながら帰路についたとのこと。「友達がたくさん増えたんだ」と女子。スゴイ親子。
その夜に弁当づくりを終えた我々は、取りに来た幾人かの常連と話した後に夜回りをし、彼と会った。髭剃りを渡したのに剃っておらず、新しい服に着替えてもいない。ベンチの上の荷物は散乱していて、明日役所へ行く準備ができていない。「人目があるので、ここでは着替えられなくて…プライバシーもあるし…」と、恥ずかしそうに言う彼に、「公園のトイレで着替えればいいじゃないですか」と軽く言ってしまったが、それは無理なのだと後に気づいた。
荷物を置いたままだと盗まれてしまう可能性がある。(彼は、以前にお金の入ったショルダーバッグを置き引きされたことがある)足が痛く、大きな荷物を持ったままでは移動できない。足の状態が悪くなってから、恐らくは花壇で小用を済ませ、荷物を置いたベンチから目の届く範囲の水飲み場と、ゴミ箱の間しか移動していない。動かないのではなく、動けないのだ。
昨夜のように寝床の引越しの提案をしたのだが、それを断ったのも納得がいく。会館の壁面にあるその寝床は、朝には立ち退かなければならないので、足の悪い彼にとっては面倒なのだ。いざという時にすぐに立ち上がれるベンチの方がいい。
彼の持ち物の中で、ひときわ目立つ、キャラクターの絵柄のついたポーチ。彼は、女子から貰ったポーチを大事そうに近くに置いていた。
そして、別れ際にまた、女子と固い握手を交わした。
大丈夫、きっとうまくいく。
(4/19のTwitterより 一部修正)
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