手に取った本があります。
去年、震災26年に刊行された
真山仁さんの『それでも、陽は昇る』です。
(カバンに入れて持ち歩いていたので、少し擦れています)
作家の真山さんといえば
『ハゲタカ』シリーズなど
経済、政治もののハードな小説で知られますが、
実は阪神・淡路大震災と東日本大震災に
題材を求めたシリーズもあります。
『そして、星の輝く夜がくる』(2014年)、
その続編ともいえる、
『海は見えるか』(2016年)。
東日本大震災の被災地取材の記者たちの葛藤を描いた
『雨に泣いている』(2015年)も含めて、
真山作品群の中で「震災」というテーマは
太い柱となりつつある…。
と、私はえらそうに
『海は見えるか』の幻冬舎文庫版に
あとがきを書かせていただいたのですが、
『それでも、陽は昇る』は
祥伝社によると「震災三部作」の完結編と
位置付けられています。
三部作は、
小学校の教師、小野寺徹平を通して描かれます。
阪神・淡路大震災で娘と妻を亡くした小野寺。
応援教師として東北の小学校へ赴任し、
東北では、「まいどっ」と子どもたちに声をかけ、
地域のコミュニティーと向き合うようになる。
ネイティブな関西弁が、ときにユーモラスな
熱血タイプのおっさんとして描かれていきます。
その後、神戸で震災を語り継ぐNPO法人で活動している小野寺。
完結編『それでも、陽は昇る』では、
東北で出会った青年や子どもたちや、神戸の教え子たちは
復興の最前線で活躍したり
社会経済の真ん中で活動したりしています。
そこで起きる、
トラブルや摩擦、衝突。
被災地の人々の、復興の暮らしの中での
出来事が綴られます。
東日本大震災から10年たった
2021年の断面が見えてきます。
いずれもフィクションですが
読売新聞記者出身だけあって
真山さんは実に多くの関係者に取材していて、
一人一人の登場人物にはリアリティーがあります。
フィクションだけれど、
エピソードの一つ一つに
真実が埋め込まれている。
これが、作家・真山仁のスタイルだと
あらためて感じさせられます。
今年は、阪神・淡路大震災から27年、ではない。
私は、震災30年の3年前と考えています。
30年という月日は、1つの世代。
小学生は社会の中枢で働く30代、40代に、
20前後の青年は社会をリードする世代に。
そしてあの時、最前線で復興に向き合った人々は
社会の第一線から退いていく。
神戸のNPOを引っ張ってきた人たちは
次々に引退し、亡くなる人も多い。
いま、あのときの体験を受け継がなければ
時間切れになってしまう。
阪神・淡路の軌跡に
東日本の人々は何を見つけるのか。
そして、「未災地」とよばれる
これから被災する可能性のある地域の人々は
何に備えるのか。
『それでも、陽は昇る』のページをめくりながら、
あらためて思いを巡らせました。
▼祥伝社サイト(試し読みも可)
https://www.shodensha.co.jp/mayama/
文庫版『そして、星の輝く夜がくる』(本体680円+税)
文庫版『海は見えるか』(本体640円+税)
単行本『それでも、陽は昇る』(本体1500円+税)
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