偽史倭人伝 ~ Carnea Historia

march madness の次が April Foolなんて小粋ぢゃないか。

「この素晴らしき世界」の素晴らしくないセカイ観~発達障害のこと。

2023年08月31日 14時06分27秒 | ◎ツッコミ思案neo

平祐奈さんは先月13日発売の週刊文春の原色美女図鑑で
「今回のドラマで演じた役にはある秘密があって…」
と言っていたのでそれを気にしながらフジテレビ系「この素晴らしき世界」を見ていたのですが、2回まで見た時点で、平さん演じる育田詩乃が発達障害だとにおわせるようなシーンがありました。

 新米パートタイムスタッフの育田詩乃(平祐奈)の業務上のポカについてのベテランパート麻由美との会話

「迷惑かけているという自覚はあるんだ」
「ありますねぇ」
「あるけど、改善はしないんだ」
「…すいません…」


これはまさに私が新卒で入社した会社での経験そのものです。
(もちろん故意に改善しないのではなく、できないのです)
そしてこれ以外にも育田さんが聴覚過敏と思わせる動きが数分の間に2回もありました。



ヒミツってこれのことか?
と思って見ていたのですが、そこらへんは一切、掘り下げることなく、ストーリーは進行していきます。
 ついにはドラマはケンタロウショックという性自認問題に突入し、発達障害の件はすっかり埋もれてしまいました。
 掘り下げることがなかったかわりに若村麻由美さん演じる主人公に
「やりもしないのにできないときめつけている」
と罵られます。
かなり激しく。
 「やりもしない」描写は一切ありません。唯一描かれていた育田さんの業務上の不手際は赤ピーマンと赤パプリカの判別ができなかったことです。低認知能力はできる人から見ると悪いジョークにしか見えないのかもしれませんが、この種の能力の低さは努力したところで治るものではありません。営業をやっていた時、飛び込みでアポをとった新規の顧客の"てこ入れ"に先輩を連れていくというシチュエーションがしばしばあったのですが、駅からの道のりで方向音痴の私がもたくということが2回連続した時、すごい勢いでどやしつけられたのを思い出しました。
 これが作者の結論なのでしょうか? 

ニュース番組のアスペルガー症候群の特集などを見て「なんでも病名つければいいってもんじゃない」と突っ込んでる昭和のオヤジの姿が浮かんできます。

 オヤジといえばマキタスポーツさんの演じる主人公の夫は、どうやらどんな仕打ちをうけても自業自得なクズ男という設定のように見えますが果たしてそこまでクズでしょうか?
 夜に洗濯機を回さない方がいいというのは一定の妥当性がありますし、干す環境がないからなのかもしれませんが、乾燥機付きというのは私から見ればなかなかの贅沢家電です。何より研修でかじってきたアンガーマネージメントを実践してみるなど歩み寄る努力も見せています。あのくだりは主人公をてこずらせるための仕掛けにすぎないので、歩み寄りというベクトルについてはカロリーゼロ換算で見て欲しいとでもいうのでしょうか?だとしたらザツすぎます。
 帰宅すると半裸の沢村一樹がいるなんて地獄に見合う罪を彼は犯しているでしょうか?そうは思いません

 人付き合いが苦手で手に職をつけようと鍼灸学校に通っているという育田さんのはずなのに、初対面の芸能プロのスタッフとノリノリで作戦会議をして、しめには自分からグータッチをしに行くなんてキャラ設定がブレすぎでは?



 しかもハニートラップだなんて。
 これはキャラ設定という意味以外に夫にしかける仕打ちとして妥当か?という問題もあります。ハニートラップというのはいわば"おとり捜査"です。それは無から新たに罪を作りだしてしまうということです。




 そして育田さんの非現実的な急進化は先述の
「やりもしないのに」という罵声をさらに際立たせます。
なおるはずのない発達障害が気合いによって
あっという間に改善できた
というあり得ないシチュエーション…

このドラマを見たあとに発達障害の人を見かけたひとは
努力をしないクズととらえるかもしれません。

このドラマは夫婦の平等性のようなテーマにもからんでいるので
そうした点でもこの発達障害軽視はよろしくありません

タレントの藤本美貴さんは家事の分担について
個数で分担してしまうと、あとでいろいろとムカつくことがあるから
キホンは自分がやって、パートナーにやってほしいことはその都度指示をするというのですが、これは多様性に即したうまい方法論だと思います。

人の特性と障害には明確な区別はなく、しかもそのレベルはグラデーションの様なものなのです。
つまり「得意」「不得意」はその種目も多様でレベルも多様なのです。

 あきらかにドッガラカッシャーン!を連発するような人なら欠落していると気づいてもらえますが、なんとなく作業が遅いとか、うっかりが多いみたいなレベルの場合、多様性に関する理解がないと単に努力が足りないやつと見做されてしまう危険があります。
 そもそも私のこの文を読んでも「これは問題のすり替えだ」とか「言い訳だ」という人がいるかもしれません。発達障害と多様性についてがっつり説明するにはもうすこしボリュームが必要です。あるいは「多様性」という用語自体がいけすかないという人もいるかもしれません。その感覚はわからないでもありません。そうした点もなかなか難しい。だからこのドラマのように雑な結論を出されるのはとても怖いのです。

 育田さん役の平祐奈さんは「今回の役は深掘りするのが楽しい役です」などと言っていました。たしかに番宣で出た「ネプリーグ」で沢村一樹さんがメンバーを選抜するシーンで役者陣は全員外すと言った時にコケる動きは、聴覚過敏の動きとよく似ていたのでご本人の演技プランだったのかなとは思いました。
 日本の文学界はがんなどの病気を単なる舞台装置として消費してきたという批判が頭に浮かびましたが、このドラマはそれ以前の問題にすら見えます。
 発達障害のことだけではありません。キャスティング権を持っているディレクターに「お持ち帰り」されてしまった件について、大人ならそれは自己責任と一蹴する女性スタッフとそれを聞いて否定しない様もキモチワルイです。

主婦の逆襲みたいなていのドラマはなんだか、とってもマッチョに見えます。


あ、あと不正アクセスはその時点アウト。データを盗まなければセーフではありません。そこらへんも雑。いろいろと雑。

 あるいは、これから終盤に向けてなっとくできるような逆転があるのでしょうか?
 見守りたいと思います。



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